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『ある男の決意』
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「こちらでよかったんですよね、雪都さん」
「ええ、大丈夫です。
いつもありがとう、刹くん。」
あの日の夜中
雪都の家を訪問した少年がいた。
言わずもがな刹だ。
夜中にも関わらず
彼を雪都が受け入れたのは
彼が今にも誰かを刺しそうなほどの
瞳をしていたからだ。
恐らくそれは
自分自身への怒り。
「雪都さん、すみません。
約束、守れなくて。」
毎日刹は謝罪した。
それは
雪都に雨を任されたのに
それを果たせなかったことに対する謝罪だ……。
「君は本当に雨のことが大事なんですね。」
雪都はわかっている。
雨のことを思い
思い過ぎて、
自分を責めているのだと。
何も出来ない無力な自分を
ずっと責めいてる。
それは雪都自身と重なるものがあった。
「僕、あの家で唯一の
放浪組なんです。」
「……そうなんですか?」
「はい。何の能力もなければ
赤ん坊の時から野放しにされ
すき放題に生きてきました。
……緋色兄さんに僕の頭脳を買われるまで。
だから僕は緋色兄さんにとても感謝している。
僕に生きがいを……
生きる場所を与えてくれた。
でも他人嫌いの僕は
壁を作った。
それなのにレイ……雨はあの性格だから。
ズケズケ僕の中に入ってきたんです。」
雪都は低く笑った。
笑っては失礼と思いながら
笑いを押し殺すように。
「それで言ったんですよ?
『刹、もうお前は俺らの家族なんだから
面倒臭い感情とかナシ。
お前が心開くまで俺はお前に付きまとうからな』って。
ほんといい迷惑。」
「想像つきますね、本当に。」
もうこらえきれないと
いう感じで声を出して雪都が笑った。
「はい。
そして雨は俺にとって大切なヒトになりました。それも、恋愛対象として。
でも僕や白葉は……きっと式にも緋色兄さんにも敵わない。
わかってるから僕達は
距離を一定に保つようにしてきました。」
刹はあの日ずっと考えた。
なら何が出来るのか
緋色を裏切らず
雨を傷つけないその為に。
「……残念ながら。
私たちは自分が消した過去以外は
元には戻せないんですよ。」
その答えをきいて自嘲気味に刹は笑う。
「……なんだやっぱり気づいてたんですね。」
「おかしな点は沢山ありました。
私のこの能力が父親譲りなのなら
同じ父親であるあの人も
同じ能力を持っていることなど
安易に予想が出来た。
ただ、当時の私は雨を守ることにいっぱいいっぱいで
そんな考えなど微塵も浮かばなかった。」
「ということは、雪都さんと緋色兄さんは……。」
「えぇ、腹違いの兄弟であり
お互いの肉親がお互いを殺しあった
憎むべき相手でもあるんですよ。」
刹は静かに目を閉じた。
作られたストーリーが見えた。
そしてこのストーリーが事実だとすれば
「緋色兄さんの愛情は行き過ぎている。」
念入りに練られた
ただ雨を手に入れたいがための
工作と呼ぶべき能力の使用。
「僕には何が出来ますか。」
「……刹くんは雨のことをここまで考えてくれている。
それだけで充分です。
恥ずべきは
雨の壊れるところを見たくなくて
雨の全てから目を背けてしまったこの私です。」
雪都もまたある決意をした。
どれが雨のためになるのか
ではない。
雨は自分の過去と向き合わなければならない。
そしてその上で
自分を取り囲む周りの人を
受け入れなければならない。
その為にはすべてを打ち明けなければ。
そう、全ては____
すべてを隠したいあの人と共に。
それでいいのですよね?
零。
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