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『1日も離れたくない!』
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カタカタとなるキーの音に意識が戻って反射的に向かいの壁を見上げる。
壁時計の針が十二の位置でピタリと重なり同時に昼休憩を告げるチャイムが社内に鳴り響いて。
「仙ちゃん、悪いけど電話当番よろしくね?」
席から立ち上がった副社長秘書の咲希さんが女子っぽい小さなバッグを片手にドアを開けて作業室をあとにした。
ほどほど広い部屋に一人残された俺は自分のデスクの片隅に置いてるスマホをみつめ…チカリともしないランプをただただ凝視して。
「…うそつき。」
まるで女子のような自分の呟きに苦笑いをした。
今日は俺の恋人の小高さんが長い長い出張から帰ってくる日。
長いと言っても…ほんの三日ほどだけど。
それでも始終一緒にいる俺としてはとてつもなく長く感じるわけで。
「小高さんの美味しいご飯に慣れちゃってるからコンビニの弁当が果てしなくマズく感じる。」
デスクに広げたコンビニランチセット…弁当、味噌汁、ポテトサラダ、緑茶を眺めながら俺は深い溜め息をついた。
『合間に連絡をいれますね。』
出張たんびに言われる小高さんの“置き土産”。
そう言われたところでただの一度だってその“合間”が訪れたことはない。
「仕事熱心な人だからさ…俺のことなんてすっかり忘れて仕事に没頭しちゃってんだろうけどさ…」
味噌汁のカップにポットのお湯を注ぎながらまたスマホをチラ見。
「…ていうかメールの一本くらいできないのかね…?」
席に味噌汁を置いて、弁当を持ってレンジの前に移動。
重そうな音で開いた中に好物ののり弁を入れてスイッチを入れて…。
「小高さんのおにぎりが食いたい…」
ブーンという低いレンジの音を聞きながら俺は本日三桁目に到達した溜め息をひときわデカく、深く吐き出した。
小高さんのおにぎりが食いたいのは本心だけど…ぶっちゃけて言えば声が聴きたい。
一人寝に慣れたっていっても淋しさに慣れたわけじゃなく開き直りを覚えたって感じ?
広いベットの片隅で縮こまって眠るのが当たり前になってるのが…なんだか虚しい。
小高さんの温もりが恋しくてたまんない。
それがないならせめて声だけでも…
それが無理ならせめてメールだけでも…
まるで乙女な自分に赤面しながら席に着き、支度の整ったコンビニランチを前に掌を合わせて。
「…いただきま…」
「ただいま。」
背後からの声に驚いて振り返る。
すると、そこには…。
「こだっ…」
「仙、遅くなってしまってすいません。」
ボストンバッグと大きな紙袋を片手に持った俺の焦がれていた大切な恋人さまが立っておられた。
「小高さん!」
即座に駆け寄り彼の背後のドアを閉じて周りを見回し…安全を十分に確認してから改めて愛しい人を見上げて抱き着きその胸元に頬ずりをする。
…久々に嗅ぐ彼の匂いに軽くめまいがした。
「仙、今日は珍しく積極的なのですね?」
「…誰かさまが連絡をくれないからです。」
「すいません。」
「……すいません…生意気言いました。」
“相手は仕事だから”
そんなことはわかってるししかもこの人は俺の上司なんだもん、ペーペーの俺が言えるようなことじゃない。
それこそそんなことは百も承知なんだけど…。
「すいません…」
「仙…連絡を入れずにすいませんでした。淋しかったですか?」
当たり前の言葉に返事をせず更に強く抱き着く。
ポン、と頭に温かな掌が添えられ身体に温かな腕が巻き付けられて…。
「すいません。仙の声を聞いてしまうと集中できなくなってしまうので…」
「ならせめて…メールくらい…」
「貴方からのメールを読んだら益々恋しくなってしまうので…」
困ったような声に胸がキュンとなってしまう。
小高さんも俺と同じように想ってくれてるのかな?
そう…思ったら。
「こだ…慎二さん、お帰りなさい。」
「ただいま帰りました。仙…会いたかったです。よかったら顔を見せてもらえませんか?」
優しい声にドキドキしながら顔を上げれば久々に見る俺の愛しい人の柔らかな笑顔が間近にあって。
目を閉じた俺の唇に彼の柔らかな唇が重ねられた。
「そうだ。これからは仙も一緒に出張に行きましょう。」
「は?」
離れるなりの発言に目がテンになる。
「一日たりとも離れたくありませんし、仙が側にいてくれれば僕ももっと仕事に集中できますし。我ながらいいアイディアです。」
「ちょっ、小高さん?なんか話が…」
「仙にしてみれば見聞を広められますし、本当にいいことばかりです。」
「本気なんですか??」
ふふっと笑った恋人は俺の問いに返事をせずまたキスをしてきて。
「仙…ずっと側にいて下さいね。」
そう言って、静かに笑った。
END/2017.5.7.
お題頒布サイトさまよりお借りしました。
2020.1.5.
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