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いつもの殺風景な街並が淡い桜色に染まる四月。
真新しい制服に袖を通した僕はこれから三年間お世話になる高校の校舎を見上げて一度頷き手にしてる新しい上履きを片手に正面入り口からその中へと入った。
クラスの発表は事前にされていたし入学説明の時に校内の案内図ももらってる。
だから迷わず廊下を進み僕の教室の前まできて。
「ここ、だ。」
“一年一組”
教室のドアの上の札、みたいなのを再確認してからゆっくりと引き戸を開いた。
カラカラカラ…
静かに開いて中に一歩足を踏み入れる。
すると。
ふわ……
突然外から吹き込んできた風が窓際にかけられている薄手のカーテンを舞い上げる。
ふわふわと…まるで生き物みたいに舞っていたそれは散々踊るとそれに飽きたかのようにゆっくりと戻っていき、やがて何事もなかったみたいに元の通りに落ち着いた。
そして…カーテンにばかり気を取られていた僕はそこにいた人達に気付いてなくて。
「スゲェ風だったな。」
「ああ…。」
あまりにも自然なそんな声で気付いてそっちに顔を向けると、そこには背の高い黒髪の人とその人より少し低いくらいの背のブラウンの髪の人が立っていた。
「あ…」
「あ、おはよう。」
「オハヨー。」
二人は僕をみて静かに笑うとカーテンをキッチリと開けて窓を閉めてからまた僕の方をみて。
「初めまして。良かったらこっちおいでよ。」
「そこ寒くねぇ?」
そう言って隣同士で並んでいた間を一人分空けてくれた。
「え…でも…」
気持ちは嬉しいんだけど…初対面の人に言われると戸惑うし緊張する。
返事も行動も起こせずモジモジしていると。
「べつに取って食おうってんじゃねぇんだから警戒すんなよ。」
「好田、その言い方がまずいんじゃないの?」
…と、二人が軽く言い合いみたいのを始める。
僕はそんなやり取りをみながら緊張の糸とちょっと強張ってた頬を緩め二人に向かってゆっくりと歩きだした。
◇◆◇◆◇◆◇
二人との出会いはそんな感じだった。
僕とは背もだいぶ違い字の如く“見ている世界”が違う人達。
そんな二人に偶然以外ではなれないだろう的なキッカケで出会わせてくれた神様に僕は人知れず感謝したりしてるのだ。
ブラウンの髪の人は三田悠希。
黒髪の人は好田章仁という。
二人は幼なじみだそうで端から見てても分かるくらいにツーカーで本当に仲がいい。
タイプ的には柔と剛で真逆同士なんだけどそのバランスがまたとても素晴らしい。
「三田、数学の課題忘れた。」
「ホレ。」
差し出した好田の右手の甲が僕の頭の上に乗せられる。
すると三田の出したノートがその上に乗せられて。
「いくらちっちゃいからって僕の頭越しにするのはやめてもらえないかな。」
「アハー。」
「ハハッ。」
悪びれなく笑う二人をその真ん中で見ながら僕はその空気をとても心地よく感じだしていた。
「しかし好田、お前ちゃんと課題やっとけよな。」
前の席に座ってる三田が呆れた顔で僕の後ろの人をみる。
「んあ?あー…だって昨日はバスケの助っ人だったしな。」
「バスケの助っ人?」
びっくりして振り返ると三田のノートを写してた好田がニヤッてしながら僕をみた。
「好田は無駄に運動神経が発達してるから。」
「ムダは余計だ。」
「え?どういうこと?」
意味が分からず聞き返すと好田は口の端を上げて笑って。
「読んで字の如く。勝ちたい試合があるからって言われて出たんだよ。」
そう言ってドヤ顔をしてから視線をノートに戻した。
「え!そんなの誰に言われんのさ!」
「そこかよ!」
「三好ってさあ、何か切り口斬新だよね?」
ククッと笑いながら三田が僕の頭の上に掌を乗せる。
「マジそこじゃねぇだろーよ。普通はそこは試合のこと聞くんじゃねぇのか?」
「え、だってさ…」
「だからそこが斬新だっていうの。」
呆れた顔してる好田をみて、益々笑う三田をみながら僕はこの独特なまったりとした空気に幸福感を覚えた。
◇◆◇◆◇◆◇
桜色だった街並は気付けば新緑の季節を迎えていた。
肌寒かった空気も次第に緩み仄かな暖かさを感じ始めた頃、僕の周りに小さな異変が起き始めた。
『また…?』
本当に小さな異変。
朝、教室に入ると…僕の机が少し斜めになっていた。
いつも床の升目に合わせて帰っているはずなのに。
気のせいといえばそれまで。
だけど…それが一週間続くとさすがにそうとは思えなくなっていく。
そして八日目の今日は…。
『足…跡…?』
机の上と椅子の座部、背もたれにもうっすらと土のような砂のような汚れが付いていた。
これは…。
「おっす。」
席を見下ろしていた背後からの声にビクリとしながら振り返ると。
「あ、おはよ、好田。」
生あくびをしながら肩を回す好田がいた。
彼は大きく伸びをしてから僕の顔をみて、僕の席を見下ろして。
「…どーした?」
そう言って眉間にシワを寄せた。
「え!あ…ううん、なんでもないよ。」
ドギマギしながらその汚れた椅子に腰かけ……
グッ。
…ようとした瞬間、腕を掴まれた。
「よし…」
「汚れんだろうが。」
言うより早く自分の鞄を開けた好田は中からタオルを取り出し僕の椅子や机を拭き始めた。
「好田!いいよ、タオル汚れちゃう…」
「いいんだよ。」
僕の制止を聞かず汚れを拭き上げてくれてから好田はちょっと怒ったような顔を教室に向けて。
「チンケなことやってんなよな!」
誰にともなくそう言った。
しん…。
静まりかえった教室の中、一人一人に鋭い視線を向けてから…好田は僕を見下ろしニッと笑って。
「エスカレートするようならちゃんと犯人探ししてやるからな。」
そう言って僕の頭をポンポンと叩いた。
すると、ガラリと後ろの引き戸が開いて三田が現れて。
「おはよ…ってか何、この張り詰めた空気。」
そう言って数回瞬きをしてから僕の前の席についた。
「ああ。なんか三好、イジメられてるっぽくてな。」
「はあ!?」
「ちょっと好田…」
慌てる僕の頭上で好田と三田とのディスカッションが始まる。
そしてその日以来、僕の机への被害はピタリと止んだ。
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