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黒板に書かれた文字を目で追いながら僕は溜め息をついた。
「…ってなわけで、参加種目は各自ノルマ二種な!」
担任の声に教室内がザワつく。
…それもそのはず。
今月末に行われる体育祭の参加種目のノルマが一人二個だとたった今断言されたからだ。
「取りあえず参加希望を聞いていくから挙手して。」
担任から議事進行を引き継いだ学級委員長の三田はそう言って教室内をグルリと見渡した。
正直…
どれもイヤ。
イヤってより、無理。
僕は……自慢じゃないけど運動は苦手というかなんというか。
ズラリと書かれた種目をみながら内心溜め息をつく。
「なあ三好。」
ツンと背中をつかれて顔を少し後ろに向ける。
「騎馬戦、出ねぇ?」
「はっ!?」
突拍子のない種目に思わず声が裏返る。
「ちょっと好田、本気で言ってんの!?」
「もちろんお前は上で馬の先頭は俺。」
「そりゃそうだろうけど…」
どう考えても僕が馬の一番前とかはないけど…じゃなくて。
「僕にハチマキの争奪戦を任せる気なの?」
「ああ。」
恐る恐る聞いたことに好田はサラリと頷くなり挙手をして。
「騎馬戦、好田と三好な!」
「はっ!?」
途端ザワザワとしていた室内が別の意味でざわめき始める。
どこかからは馬鹿にしたような笑いなんかも聞こえてきて…僕は黙って俯き唇をキュッと噛み締めた。
「嫌なら断れよ。」
背後からの声にチラと視線だけを向ける。
すると好田はニヤリと笑いながら僕に悪戯っ子のような視線を向けて。
「まあ断っても逃がしてはやんねぇけど。」
そう言ってからパチンとウィンクをしてよこした。
僕は黙ったまま体を前に戻してから、残りの一種目の厳選に入った。
………そして。
結局、体育祭での僕の出場種目は短距離の徒競走と好田おすすめの騎馬戦になった。
『嫌なら断ればいい』
そう言いながらも好田は『でも逃がさない』とか矛盾したことを真顔で言う。
そんなんなら僕に選択権なんてないじゃなかー…って、やっぱりちょっと不満だったりするんだ。
正直、好田の意図する先は分からない。
あの日から本人に何度聞いたところで笑ってごまかされるだけ。
だけど…好田がただの閃きなんかで無茶振りしないのは分かるから。
「…しょうがないよね。」
そう腹をくくって……人知れず僕は溜め息をついた。
◇◆◇◆◇
そして迎えた体育祭当日。
空は快晴。
テンションはぼちぼちな感じで僕はジャージの袖にダラダラと腕を通す。
するとすぐ横に気配を感じて顔を上げると。
「騎馬戦、ラストだからな。昼飯食ったら体力温存で昼寝でもしとけよ?」
「あのねぇ…。」
ニッと笑う好田に苦笑いを向けてジャージのファスナーを上げる。
「僕の徒競走は昼一なの。だから昼寝なんてする暇はありません。」
「あー俺の長距離はそのあとなんだよなー。」
僕に背を向け大きく伸びをしてから好田は顔だけをこっちに向けて。
「お互いケガしねぇようにしようや。」
そう言ってまたニッと笑った。
ドキン。
…………ん?
なんか今、胸がドキン、とか……?
何の気なしに胸に掌を当ててみる。
…なんとも、ない。
おかしいなと思いつつ好田を見上げるけど…これといった変化は、ない、よね?
首を捻りながら窓の外に視線を向けて溜め息をひとつ。
そして隣でやる気満々な様子の好田をみながら僕はまた溜め息をついた。
気持ちが足取りにでるらしく進む歩幅は広がらない。
着替えを終えてグラウンドに出ると外はなかなかの賑わいになっていた。
昨日まではなかったトラックのラインや障害物の数々。
そして男子校ならではのグラウンドを埋め尽くす男子の集団をみながら僕は苦笑いをした。
「好田、三好。」
かけられた声の方に向くと三田が小走りでこっちに向かってくるところで。
「おう。」
「おはよ、三田。忙しそうだね?」
「おはよう。実行委員とか次回は勘弁してもらいたいもんだよ。」
苦笑いを向けた三田を見ながら僕は…『でも体育祭の出場必須競技が一種目ってのは羨ましい』…なんていい加減女々しい発想をする自分に軽く自己嫌悪したり。
するとそんな僕の考えが通じたのか三田は少し笑って僕のおでこを人差し指でピンと弾いた。
「さて、んじゃ…昼までのんびりさしてもらいますかね?」
大きく伸びをする好田をみながら一度頷く。
「今日の主役はお前だからな。無様な負け方したくなかったら気合い入れろよ?」
そう……言われて。
「分かってるよ。好田が僕を勝たせてくれるんでしょ?」
と返すと好田はとてもとても嬉しそうな顔をしてから『任せとけ。』と、言った。
◇◆◇◆◇◆◇
お昼が近くなってきた頃。
好田に呼ばれてグラウンドから少し離れた体育館横に行きそこに座ると…おもむろにうちの馬リーダーがフォーメーションの説明を始めた。
それを聞きながら僕は…頭の中がこう……こんがらがってきて。
「あのさ…」
「なんだ?」
「フォーメーションとか……」
「ああ。」
ポンッと一度手を打った好田はニヤッと笑いながらパタパタと手を扇いで。
「三好は聞かなくていい。余計なこと頭に入れるとパンクしちまうだろ?」
ハハッと笑ったヤツにつられて両隣にいる二人も笑う。
この二人は今回のためにわざわざ馬に名乗りを上げてくれた久保くんと坂下くん。
なんでもバスケ部の人達らしく、前回好田が試合の助っ人に入ってくれたお礼だといって参加してくれたんだ。
「まあ取りあえずさ、結構よこやり入ると思うんだけどケガだけはしないようにな。足は俺が出すから…」
「ちょっと待った!」
説明を流して聞いてた僕は聞き慣れない言葉に思わずストップをかける。
「なんだよ。」
「今なんか、足を出すとか言わなかった!?」
「言ったけど?」
さらりと返されて僕は思わず口をパクパクとだけ動かす。
それは…。
「そ、それはスポーツマンとしてどうなのさ!」
「何言ってんだよ。騎馬戦ってのはある意味無礼講な競技だぜ?ハチマキなんてオマケみてぇなモンだって。ようは最後まで立っててハチマキつけてりゃいいんだからよ。」
あんぐり。
開いた口が塞がらないとはこういう時を示す言葉なんだと改めて今、知りました。
「俺達は最後まで立ってるから三好、お前は自分のハチマキ守ってろ。んで余裕があったら誰かのハチマキむしり取れ。」
「……………。」
どう、返事をすればいいのかなこの場合。
返事ができない僕を気にせず三人はまた話を再開する。
僕は…やっぱり参加をメ一杯、精一杯拒否するべきだったんじゃないかと今更ながらに思った。
そうこうしている内に体育祭の午前の部が終わり昼食になった。
今の今まで騎馬戦チームでのフォーメーションやらなんやらをみてたもんだから…参加してないのに僕の頭の中はグシャグシャ。
「はあぁ…」
おにぎり片手に溜め息をつくと三田が僕の顔を覗き込んできて。
「疲れてるね。」
「あはっ…」
「疲れてる場合かよ。」
苦笑いをする僕の隣でコンビニのおにぎりを片手に持った好田が呆れた声をだした。
「三好、根性なさ過ぎ。」
「だ、だってさ…」
根性もなにもあったもんじゃない。
ウチの馬達、本気で動きが機敏なもんだから僕は上でバランスを取るのが絶対難しいって。
そう言いたいけど…ようするに僕が運動音痴なだけなんだよね、って結論に達した今では反論するのもおこがましいような感じで。
「…ご、ごめんなさい…」
「あれ。素直だ?」
ショボンとした僕の頭に掌を乗せて三田が苦笑いをした。
「好田ぁ…あんま三好をいじめんなよ。」
「いじめてるわけじゃねぇよ。」
憮然とした声に益々しょげる…けど、いつまでもしょげてる場合じゃないよねと思い直して顔を上げる。
「大丈夫。うん、大丈夫!」
そう言って拳を握る僕をみながら好田は静かに笑った。
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