アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
6
-
夏休み初日は追試クリアのお祝いということで好田と一緒に遊ぶことにした。
本来ならこの流れで課題に着手とかすればいいのかもだけど……何せ僕らは勉強があまり好きじゃない。
だからまあ…こんな時くらいはね、ということで朝早くから駅で待ち合わせなんかしてすでに遊ぶ気は満々だ。
「ね、どこ行くの?」
白のポロシャツ姿の好田をみあげながらPASMO片手に改札を抜ける。
「んー…まだ考えてねぇや。」
「えー?」
改札を抜けたというのに僕らはホームに下りずに壁に貼られたポスターをみて回る。
「花火…ってこれ来月だしね?」
「避暑地の小旅行プランなんてなぁ?」
貼ってあるのはそんなのばかり。
たった今、遊びに行きたい僕らにはてんで関係ない。
「これじゃ…決まらないよね…」
そうぼやいて溜め息をついた。
「おい、三好。」
名前を呼ばれてトトッと駆け寄る。
「なに?」
「これこれ。ココ行こうぜ?」
好田の指差した先は水族館。
真っ青な海中の写真の真ん中には大きな白い…イルカ?がドアップで載っていて。
「ココなら電車で一本だしさ。」
「いいね!僕、水族館は初めてだよ!」
一気にテンションがあがる。
好田をみあげてその初めて具合を伝えようと口を開きかけた瞬間、構内アナウンスが目的地行きの電車の到着を告げた。
…すると。
ギュッ。
突然好田の手が、僕の手を…握った。
「ヤベッ!三好、走るぞ!」
「え、あっ、はい!」
握られた手が強く引かれ駆け出す好田に引きずられるように走りだす。
急な階段を下りながらみれば電車がタイミングよくホームに入ってきたところで。
「お、セーフ!」
「ラッキーだね!」
人影もまばらなホームからエアコンのきいた車内に入ると僕らは一番前の席に並んで座りそしてなぜか……繋いでいる手を現地に着くまで解かなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
電車を下りてすぐに目に入るのは水族館に向かう矢印。
それを探しながら…そしてコンビニに寄り道しながら僕らは並んで歩いた。
「駅から十五分とかってあったけど…」
「それはアテにならんよ。つーか俺一人なら多分十分だけどな。」
ククッと笑いながら僕をみる好田を軽く睨む。
そして持っているチョコの箱に伸ばされてきた手をサッと避けて。
「そーゆー意地悪を言う人にはあげません!」
と言ってベッと舌をだした。
一瞬ポカンとした好田は次の瞬間にはプハッと笑いだして僕の頭をパシパシと叩いてから。
「三好みてるとウチのチビ助を思い出すよ。」
謎の言葉を発して大きく伸びをした。
「チビ助…って?犬?」
「お前に似てるって言ってんのに犬かよ。人じゃねぇの?」
そしてまた更に笑いだした好田は僕をみて…優しく笑んで。
「亮太っていうんだ。俺の弟。」
「弟さん?……好田って弟、いるんだ?」
初めて聞く話に…というか初めて“好田”のことを知ったってことに軽く自分でショックを受ける。
好田とは一学期の間ずっと仲良くしてたはずなのに…なのに僕は好田のこと、何にも知らないんだなぁ…って。
「教えて…くれればいいのに…」
もれてしまった自分の声に驚き僕は慌てて口を両掌で押さえる。
でもそれは好田の耳に届いてしまっていて…彼は静かに笑ってから視線を空に向けふう、と息をはいた。
「俺んちさ、親離婚しててさ。弟と妹がいるんだけど二人共母親の方について行ったんだよ。」
「え……っ…」
前を歩く好田は僕を振り返ることなく足を進める。
「俺の父親さ、酒癖悪くてさ…。まあそんなんだから母親が家出ちまったんだけどな。」
「……」
ハッと短く笑った好田は頭の後ろで手を組むと、くるりと振り返って僕をみつめて笑ってみせた。
僕は…その表情をみながら酷く胸が痛んだ。
「あんま面白い話じゃねぇから言わなかったんだ。別に内緒にしてたわけじゃねぇよ?」
……恥ずかしい。
なんで僕は…いつも自分の気持ちばかりなんだろう。
人には言いたいことも言いたくないこともあるのに……なのに。
「ご、ごめんね!好田、言いたくなかったんだよね、なのに…僕…っ…ホントに、ごめん!」
好田はいつも笑ってる。
いつも楽しそうに。
なのに…
今、僕の目の前にある好田の笑みは……
「いいよ、マジでもう気にしてねぇことだからさ。俺こそ教えてやんなくてごめんな。」
僕が悪いのに…好田はそういって謝ってからまた笑った。
「好田、ごめんね、あのね……」
二歩前に進んで好田のポロシャツの袖をキュッと掴む。
「あのね、好田…無理に笑わなくても、いいんだよ?」
どう言っていいかわからず思ったままを口にする。
けど…これが場に相応しい言葉かどうかは…僕にはわからないんだけど。
すると好田は一瞬驚いたように目を丸くしてからゆっくりと表情を緩め…頬をほんのり赤くしながらゆっくりと僕に顔を近付けてきた。
「よ、しだ…?」
極々近くにキリリとした好田の顔がある。
僕の心臓はバクバクと弾み大きく音をたてた。
…そして。
「お前ってさ…」
好田のカタチの良い唇が…スローモーションみたくゆっくりと動いて。
「マジ、可愛いよ…」
「かわ……っ…」
ホンの一瞬、僕の唇に柔らかな感触が触れた。
一体、
なんだったんだろう?
震える指先で唇にそっと触れてみる。
ほんの一瞬だけ、重なった唇。
柔らかな感触に僕はびくりと身体を震わせた。
そして恐る恐る目を開けると好田はそこには居ずに少し先を歩いていて。
「よ、好田…?」
「行くぞー。」
戸惑う僕に背を向けたまま彼は真っ直ぐ歩き続けた。
あれは…キス、だったんだろうか?
だったら、何で?
僕は男で好田も男で…それに何がきっかけでいきなりキスされたのかも分からない。
理解不能なできごとに僕の頭はパニックになる。
「三好ー。」
だけど、好田に名前を呼ばれれば僕はパブロフの犬になってしまう。
まだ思考がグチャグチャだっていうのに駆け出し彼の一歩後ろで止まる。
チラと僕をみた好田に手を差し出され戸惑っていると…その手が僕の手をキュッと握り。
「行くぞ。」
少し低めのよく響く声にそう言われて。
「う、うん。」
僕はその手をキュッと握り返した。
◇◆◇◆◇
空をみあげれば真っ青な空間がどこまでも広がっている。
雲一つない文字通りの晴天に僕はひとつ溜め息をついた。
「三好、ほらあれ。」
理由はこれ。
僕がさっきのことで一人悶々としているのに当の本人ときたらいつもと変わらない感じで。
その様子があまりにもいつも通り過ぎて…なんだか狐につままれたような気分だった。
「ほらほら、三好あーゆーの好きだろ?」
「あ、うん。」
連れてこられた先の魚群をみて頷く。
目の前を高速で泳いでいくアジをみながら…その流れで好田をチラ見。
すると…パチリと目が合ってしまって。
ニコ。
いつものとは少し違う好田の笑みに僕の心臓はドクンと大きく跳ねた。
このドキドキは…一体なんなんだろう?
いまだ高鳴り続ける胸にそっと掌を添えてみる。
これは……
もしかしたら、やっぱり…なのかな?
スッと伸ばされた好田の指先をみればそこには駅のポスターに載っていた可愛い白いイルカの姿。
だけど僕は…
好田の笑顔から目を離すことができなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
6 / 11