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次の日。
朝の十時を過ぎても僕は布団から起き上がることができなかった。
昨日から頭をぐるぐると巡っている好田との…キス。
あの正体が、真意が分からなくて僕はそればかりを考えてしまっていて夜が明ける頃まで眠ることができなかったんだ。
ゴロゴロと転がり天井を見上げて溜め息をつく。
すると…ベッド頭上のスタンドに立ててある携帯がブルブルと震えだし僕はゆっくりと手を伸ばした。
「あ…」
着信中の画面をみて…その名前に少し驚きながら携帯を開く。
「もしもし?」
『三好?久し振り。元気だった?』
耳元に寄せた受話口から聞こえる三田の声になぜだか安堵感を覚える。
たわいない会話もとても久し振りで。
嬉しくなって僕はベッドの中ってのも忘れて話に夢中になっていた。
『塾が今日明日って休講なんだ。』
「そうなんだ?」
『だから明日、好田その他とプール行かないか?』
“好田”って名前に心臓が大きく高鳴る。
今の今までなんともなかったのに…突然ドキドキとかしだすから困って。
「プ、プール…」
『そう、プール。知ってる?』
クスクスと笑う声に笑って返しながらも僕の胸のドキドキは止まるどころか強く早くなっていく。
好田が…くるんだ?
昨日のあの“キス”のことがあるからなんとなく…まだ、気まずいかも。
返事ができずにしばらく間が空いてしまう。
…すると。
『なんか用事でもある?プールは嫌い?』
少しトーンを落とした三田の声が耳に入り僕はまた反射的に。
「ううん、そんなんじゃない、よ。」
そうこたえても…やっぱり行くとは言えなかった。
僕の沈黙をどうとったのか三田は少し残念そうな感じで。
『無理強いはしないよ。好田はガッカリするだろうけどね。』
その台詞に僕のアンテナはピピッと反応を示す。
「よ、好田は…ガッカリなんてしないでしょ?」
問う声が震える。
なんで…ってのはないけど、なんとなくそんなことはないんじゃないか…って思うから。
『なんで?三好を呼べって言ったのは好田だよ?』
なのに三田の口からでたのはそんな言葉で。
それを聞いた僕はベッドからガバッと起き上がって携帯をグッと握り締めて。
「い、行く!プール、大好き!」
自分でも驚くくらい必死にそう言っていた。
◇◆◇◆◇◆◇
ジリジリと肌を焦がす日差しに焼かれながら僕は大きな浮輪の真ん中に入り漂流者のようにプールの波を漂っている。
市営のわりにここは結構大規模で、なんと流れるプールまであるという超穴場。
そこで僕らは思い思いの遊び方で遊んでいるんだけど…。
ワーワーという特有のざわめきを聞きながらもさっきからずっと僕の視線は一点だけに釘付けになっている。
その先にいるのは…少し焼けた肌に引き締まった体つきの好田。
学校の体育の授業でプールに入った時は気にもしてなかったのに今は…なんだかおかしいくらい僕は彼の体にドキドキしていた。
「みーよーしっ!」
ガクン!
体を預けていた浮輪が大きく傾き焦って掴まり直す。
なにごとかとその“重り”に目をやると…それは三田で。
「なにぼんやりしてるの?」
そう聞いてくれた三田に首を振ってこたえてから僕は視線を元に戻した。
青空に弾む偽スイカのビーチボール。
キラキラと跳ねる水しぶき。
その下で子供のように無邪気に遊ぶ好田の姿は眩しくて…僕は思わず瞳を閉じた。
「…なんかあった?」
突然の三田の問いに僕はギクリとして…思わず黙る。
“なんか”は……あったけど、それを三田にいうのは…どうなんだろう?
そう思って僕は口をつぐんだ。
…すると。
「“好田と”、なんかあった?」
『好田と』を強調した三田の台詞に一瞬体がカッと熱くなる。
明らかになにかを確信したような彼らしからぬ強い口調に僕は顔をあげれず浮輪の紐をグッと握った。
「な…なにも、ないよ?」
「三好。」
少し低めの声に呼ばれて顔が引き攣る。
“なんか”…って……そんなこと言えるわけ、ないじゃない。
好田に…キスされた、なんて。
言葉に詰まり三田の顔をまともにみれない僕は引き攣ったままの顔を少しだけ背けて違う話題を探す、けど。
「三好…。」
更に低い声でそう呼ばれて僕は……どうしたいいのかわからず肩に力を込めてギュッと目をつぶった。
「…三好。俺、帰るから好田に言っといて。」
「えっ!?」
少し早口になった三田の声に目を開くとすぐ横にいたはずの彼はすでに僕の側から離れて遠くへといってしまっていて。
「み、三田っ!」
焦る僕の声に反応もせず三田はプールサイドにあがるとすぐにいなくなってしまった。
「なんだ、どうした!?」
異変に気付いてなのか遠くで遊んでいた好田が急いで近付いてきてくれて……僕は彼を振り向き深い溜め息をはいた。
いつもは物静かな三田があんなあからさまに態度を変えるなり僕の前からいなくなってしまった。
僕が…悪いんだろうけど、僕の態度が気に入らなかったんだろうけど……どうしてあんなに怒られたんだか僕には皆目見当が付かなかった。
すぐにプールからあがって僕は三田のあとを追った。
だけど…もうどこにも彼の姿はなくて。
「なんだよ、どうしたんだよ三好。」
構内を駆け回り更衣室にたどりついた僕のすぐ後ろからの声に振り返りその主をみあげる。
「三田が、怒っちゃった…んだ…」
「え?なんでだよ…。」
「そんなのっ、僕が知りたい…よ。」
“どうしよう”“どうしよう”って心の中はそれで一杯で。
どうしたらいいのかわからず僕は唇を噛み締めて俯いた。
「なにがあった?どんな話してアイツが怒ったんだ?」
「どんな…って…」
そう聞かれて…三田に聞かれたこととその時に僕が曖昧な態度をしてしまったことを好田に説明した。
「なにか…って、三田に、言えば良かったの?」
「三好…」
「ぼ、僕は…自分でだってよく分からない、っ…のに…」
しゃべりながら段々と息があがってくる。
「なんで好田、あんなことを僕にしたのさ…!」
自分でも驚くほどの声がでてしまってハッと我に返る。
恐る恐る顔をあげると…好田は目を丸くして僕をみていて。
「あんな…って…」
「キス、あれは…キスじゃなかったの…?」
言いながら震える唇を掌で押さえて好田をみれば彼は表情を曇らせ…それでも真っ直ぐに僕をみていて。
胸が…苦しくなった。
「自分でも…分からない。なんであの時、ああしたのか。」
「なに、それ…」
『ただの勢いとか弾みだったとか、そういうことなの?』
そう言いたくても僕の開いた唇からは…一音もでなかった。
少なからず僕は、あのキスが嫌じゃなかったんだと思う。
むしろ多分、おそらく…僕はとても嬉しかったんだろうな…ってたった今、それに気付いてしまったからだ。
なのに…弾みだとかだったら、つらすぎる。
いくら待っても好田からの言葉の続きはでてこなかった。
数分が経ち固まったままの僕らの横をプールの利用客がチラチラとみながら通り過ぎていっても…ずっと。
そして…。
「おーい!」
「こんなとこにいたのか!探したぞー!」
背後から久保くんと坂下くんの声が聞こえた瞬間。
グッ。
僕の手が彼の大きな手に包まれて。
「こたえ、だすから…少し時間をくれ。」
そう言って好田は苦笑いを僕に向けた。
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