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「好田…」
外灯の下にいた好田は僕にかけていた電話を切ってからゆっくりと近付いてきて。
「悪いな、遅くに。」
「う、ううん。」
そんなに遅い時間なのかと手の中の携帯に目をやると…時間は夜の十時を回っていた。
「遅くなって悪かったな、色々と立て込んじまっててさ。」
「ううん…ってか…」
『三田と一緒だったの?』
そう言おうとして言葉を飲み込む。
だからそうじゃなくて…せっかく好田が会いにきてくれたんだから、と思い直し僕は黙って彼をみつめた。
「あのさ…」
躊躇いがちの声に思考がマイナスへと傾く。
僕はなんでこんなにネガティブなんだろう…と思いながら手をグッと握り締める。
すると…好田の下げられていた視線が上がり真っ直ぐ僕に向けられて。
「俺…お前が好き、だ。」
……と、顔を真っ赤にしながら静かに言ってくれた。
ドクン。
大きく跳ね上がった心臓が速度を上げて脈打ちだす。
身体も顔も一瞬のうちにカッと熱くなって…。
「ぼく…」
「でも、ごめん…」
『僕もだよ』と言いかけた声に低い好田の声が被せられた。
恋が成就した瞬間、それはなんのカタチにもならないうちに終わりを告げた。
一瞬のできごとに僕は驚きそして…落胆した。
好田はなにも語らず、僕はなにも言えずに時間ばかりが流れる。
「あのな…」
口火を切ったのは…好田だった。
「あの…プールの日にな、家に帰ったら…親父の職場から家電にメッセージ入っててさ。親父が、死んだ…って。」
「えっ!?」
予想にもしてなかった台詞に驚き僕は門扉を開けて外にでた。
「建築現場で働いてたんだけどさ…足、滑らせて落ちたんだって。」
「おち…っ…」
震える手を伸ばして好田の手をギュッと握る。
すると好田は僕の手をやんわりと包んでくれながらフッと短く息をはいた。
「今朝、やっと一息ついてさ。お前に会いにくるのだいぶ遅くなっちまって…」
「な、なに言ってんの!僕のとこなんて…」
ふわ…
言葉を最後まで言い終わらないうちに僕は好田に抱き締められていて。
ほのかにお線香の匂いのする胸に顔を埋めて僕は彼を強く抱き締めた。
僕が一人で悶々としている最中、好田はずっと辛い思いをしていたんだ。
そう思ったら…僕は自分の馬鹿さ加減に本気で愛想が尽きた。
「でな…俺、母さんのところに行くことになったんだ。」
「えっ…」
「父さんが居なくなっちまったからさ、俺一人で暮らすのも考えたんだけど…母さんの稼ぎと俺のバイト代だけじゃ学費とか生活費なんか出せねぇしさ。下にまだ弟と妹いるしな。」
苦い顔をする好田をみあげて…僕はどんな顔をしたらいいのか分からず…。
「いつ…いくの…?」
たくさん言いたいことも聞きたいこともあったのに…僕の口からはそんな言葉しか出なかった。
「もう荷物まとめたから明日の朝には出る。」
「えっ!?そんな急な…っ…!」
驚きのあまり声が裏返る。
すると好田は静かに笑って。
「こんな状況で告るとかただの嫌がらせみたいだけどさ…ちゃんとお前に言っておきたかったんだ。」
「よし…」
「お前が好きだ…って。」
ポロッ…
零れた雫に驚いて目元を拭う。
放心している僕の意思とは関係なくその雫はポロポロと零れ落ち続けた。
「三好…ごめんな…」
「よ、よし……っ…」
待ち続けていた言葉をやっと好田の口から聞けたのに。
なのに…僕は自分の想いを伝えようにもまともにしゃべることもできなくて。
好田がどんな気持ちで話をしてくれたんだろう、とか…どんな思いで…どれだけ泣いたんだろうとか思ったら悲しくて。
そして…好田が僕の手の届かないところに行ってしまうのが悲しくて。
僕は…いつまでも涙を止めることができなかった。
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