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夕べは…一睡もできなかった。
そればかりか…泣き過ぎて僕の目も鼻も真っ赤でまぶたは腫れて酷い顔になっていた。
「最後にそんな顔かよ。」
そう言う好田だって真っ赤な目をしてる。
お父さんが亡くなってたくさん泣いたろうに…夕べは僕につられて泣いてしまっていたから。
その姿を思い出して…胸がギュッと締め付けられた。
…すると。
「…三田。」
好田の低い声に顔をあげると僕の数歩後ろにはいつの間にか三田が立っていて…でも。
「来てくれたのか…」
「お前に一言文句を言おうと思ってな。」
地を這うような低い声に僕は耳を疑う。
しかもお別れの見送りにきているはずなのにこんな怒って…。
つかつかと歩み寄るなり三田は好田の襟口を掴んでグッと締め上げる。
いきなりのことに驚きながら僕は慌てて手を伸ばした。
「ちょっ、三田…っ…」
「ふざけんなよ、章仁!」
と、怒鳴るなり…
三田が……
好田の唇にキスをした。
何事かとざわついた周りもその光景に目の行き場をなくし…散っていく。
僕は…極間近でのそれに言葉を無くし、ただ三田のシャツの袖を掴んでいることしかできなかった。
「悪い…」
唇が離れると…好田は低い声でそう言って彼のシャツを掴んでいる三田の手を外させる。
三田は俯いたまま一歩下がると好田を睨み付けてから、僕に視線を移して。
「お前なんかよりずっと…もっと前から俺は章仁が好きだった。」
「え…」
険しい表情の三田をみあげて僕は…言葉が継げなかった。
「章仁、お前は俺の気持ちを知ってるくせに…よくあんなことが書けたな!」
そう怒鳴ると三田は足元に置かれている好田のカバンに蹴りを入れた。
僕は…ただ黙って二人をみるのが精一杯で。
「お前の顔なんてみたくない。もう……友達でもなんでもねぇから。」
僕らの顔をみながら低く言い放った三田はくるりと背を向けると振り返ることなくその場から去っていってしまった。
「三田…」
僕は…好田をみあげることも三田を追うこともできずに立ちすくむ。
その頭上に好田の乗る電車の到着アナウンスが響き渡った。
◇◆◇◆◇◆◇
二学期が始まると…僕の後ろの席は空席になっていた。
好田がいなくなってしまったから。
そして……前の席にいるはずの三田も進学校に転校してしまったということでいなくなってしまい、僕は独りになった。
でも…多分、三田がいたとしてももう一緒にいることはできなかったと思う。
好田が最後に教えてくれた。
三田は…一度好田に告白をしていたんだ、と。
だけど好田は三田を幼なじみとしか、友達としてしかみれなかったから断ったんだと。
だから“好田と何かあった”辺りから三田の僕への態度が変わったんだと初めて知った。
そんな人相手に…仲直りしたいから、と好田とキスをしたことを言いに行った自分はもう救えない……そう思いへこんだ僕に好田は。
『俺が悪いんだよ』
そう言って髪を撫でてくれた。
…知らないって怖い。
平気で人を傷付けられるから。
そう思いながら僕は……中間試験前の一夜漬けお勉強会の夜のことを思い出していた。
寝る前に電気が消されてうとうとしかかった時、囁くような声が聞こえた。
“……は、…渡さない…”
確かにそう聞こえた声は…今ならわかる。
あれはきっと…
『章仁は、お前なんかに渡さない』
そう、三田が僕に言った言葉なんだと。
あれがちゃんと僕に聞こえていたら…今もまだ三田と一緒にいれたのかな?
もう壊れてしまった関係をズルズルと引きずりながら……僕の高校一年生は終わりを告げた。
◇◆◇◆◇
いなくなってしまった二人から連絡は全くないまま二年生になった。
それなりに友達もできてそれなりな毎日を送っていたけど……僕はいつも隣に“好田“を探し、”三田”を探していた。
そしてそれもあっという間に過ぎてしまい、三年生になるとすぐに進路のことで頭が一杯になった。
進学、就職。
どれだけ悩んでも考えても……それでも僕の頭から二人のことが離れることはなかった。
そんなに思うなら…もう一度三田に会えばいいのに。
好田に会いに行けばいいのに。
そう思っていても……僕には二人に会う勇気はなかった。
だって……
二人の仲を壊してしまったのは…僕だから。
その罪悪感もまた足を重くしていたんだ。
そして季節は流れて花咲く三月。
僕はこの…思い出深い高校を無事に卒業することができた。
卒業式が終わり誰もいなくなった一年の教室に足を踏み入れて……入学式のあの日の、二人との出会いを思い出して…独り、泣いた。
“あの日”にあんなカタチで出会わなければ僕が二人と一緒にいることはなかったと思う。
だけど…そのおかげで僕は仲間の大切さと“恋”を知った。
悲しいことばかりだし…自分が嫌いになったりもしたけど、ここで過ごした日々はとても大切な僕の宝物だった。
だから…。
「好田…三田……ありがとう。」
そう言って頭を下げて…僕の高校生活は終わった。
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