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F-0130 ユウマ (1)
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ベッドと机、椅子のみを置いた防音完備の部屋はゾッとするほど閑静だ。シゲユキが寝ているコドモをベッドの上に静かに寝かせ頭を軽くなでると、その子は小さく身じろいだ。
「ユイさんからのメール見た?ユウマくん、パニック障害らしいから起きた時気を付けてね。」
「ありがとう。シゲ、このあとの予定は?」
「えー、なに。デートのお誘いとか?」
「違うよ。頼みごと聞いてほしかっただけ。」
パソコンの画面越しにクスクスと肩を震わせながら答えると、シゲユキも同じように肩を震わせた。
「残念ながらユイさんのとこ寄ったら、すぐ本部に行かなきゃいけないんだよねー。」
そう言って手を振り、後を去った。パソコンを閉じ、コーヒー片手にコドモのいる部屋へ向かう。ユイからのメールを再確認しようとメールボックスを開き、今後の教育方針について軽くイメージする。
『F-0130・ユウマ。対人恐怖症およびパニック障害につきFへ転送。一般家庭からの保護児。アレルギー・病気共に無。』
一般家庭からの保護児とは、捨て子や虐待されていたコドモを引き取った、または誰かに売られたコドモのことである。ユウマのパニック障害は親からの虐待によるものだろうと推測されていた。虐待された挙句、この施設に引き取られるのは幸か不幸か。今後のユウマの買い手によるだろうとあまり深く考えるのはやめた。
見ず知らずのところに連れてこられたコドモたちは大抵俺を見て怯える。状況を説明すると諦めたような態度をする子もいれば、泣き叫び解放を懇願する子もいる。一番厄介なのは人や自分に対して、暴力行為をする子だ。力でコドモを抑圧するような教育をするのは得意ではなく、むしろ苦手としている。施設では、寝かせられている子や気絶してしまった子をスメリングソルト、ないしは気付け薬で強制的に目を覚まさせるらしいが、ここに連れてこられた子たちには極力そういうことはしないようにしていた。
「・・・っん・・・・・・。」
微かな声が聞こえベッドに向き直ると、ユウマが目をこすりながらゆっくりと起き上がった。パソコンをシャットダウンさせ閉じると、パタンという音に反応したのか、ヒッと小さく悲鳴をあげ目を見開いた。
「やっ・・・。」
「おはよう。気分はどう?」
できるだけ怖がらせないようにそう声をかけるが、掛けてあった毛布を手繰り寄せ、自分を守るように壁を作ろうとする。椅子から立ち上がると、肩を震わせるユウマはだんだんと呼吸を荒くした。
「やだ・・・っ。」
「大丈夫。怖がるようなことはしないよ。」
「こないで・・・っ。いや・・・。」
少し手荒だと感じたが、過呼吸気味になり身を縮こませるユウマに近づき、手を伸ばす。その行為にさえ怯え、来ないでと拒絶するユウマを落ち着かせるために強制的に自分のほうへもたれ掛けさせる。手を突っ張って嫌だと泣くが、小さな体を抱きしめ背中をなでることをやめようとは思わなかった。
「落ち着いて。大丈夫、ゆっくり息を吸って。」
「ひ・・・っ・・・はっ・・・。」
「大丈夫。そう・・・大きく息吸って。」
「や・・・。ひぃ・・・っ・・・。」
体の震えがおさまり始め、呼吸もゆっくりと落ち着いてきた。抱きしめている腕に、ユウマの小さく震える手が添えられ、ギュッと握られる。できるだけ優しく、怖がらせないように声をかけた。
「嫌なのは、何?・・・俺が、怖い?」
「・・・っ。全部、こわい・・・。」
「全部?」
「・・・っなぐられるのも・・・大人も・・ぜんぶっ・・・こわい・・・。」
「約束する。痛いこと、しない。」
「そんなのっ・・・。大人なんか、簡単に嘘つくくせにっ・・・。」
そう言いながら目の前の俺のシャツにしがみつき、嗚咽を漏らす。怖いと言いながら、助けてとすがっているようにも見えた。虐待され施設に強制的に連れてこられたユウマは、大人を信じることをやめた。大人は自分にとって恐怖の対象であると認識したのだ。目の前の俺でさえも怖いのに、少しの希望にすがり、助けを求める。涙を流し、咽び泣く声が閑静な部屋に鳴り渡った。
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