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F-0130 ユウマ (4)
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洗面所の扉が閉まるのと同時に、俺のスマートフォンが着信音を鳴らした。
「はい、シツケのハルヤです。」
「俺だけど・・・今どこ?」
『俺』だというその人は同じくシツケのリクマだった。リクマの問い掛けに、自宅だと答えると興味がないような相槌が聞こえた。ユウマが戻ってきて、様子を伺うようにこちらを伺うのが見えて、空いている手で手招きをして席を立つ前のようにソファに座らせた。
「今コドモもってたっけ?」
「はい、今日からです。・・・何かありました?」
「いい。なんでもない。」
そう言ってブチッと切られた。質問責めにしただけで何のための電話かわからないが、確認ならユイに繋げばいいのに、と心の中で悪態をついた。
「ごめんね。・・・あのさ、大事な話があるんだけど・・・聞ける?」
すこし驚いた顔を見せたがすぐに、いいよ、と返事をした。向き合って大きく息を吸って短く吐くと、ユウマに話さなければいけないことを口にした。
「ユウマは、ここにずっといられるわけじゃない。さっきも言ったけど・・・二か月もしないうちに他の人と暮らすことになる。」
「他の人・・・。」
「そう。だからここでは、その人のところへ行くまでの準備をするんだ。家事覚えたり、苦手なことを克服したり。俺は色んなことをユウマに教える必要がある。」
「それは・・・痛いことされたりする・・・?」
「極力しない。約束はできないけど・・・殴ったりは、絶対にしない。」
「・・・・・・。」
「ユウマが頑張ってくれるなら、俺の言うことを聞けるなら、ユウマのお願いなんでも三つ叶えてあげる。」
「・・・なんでも・・・・・・?」
「そう、俺にできることならなんでも。してほしいこととか、行きたいとことか。ユウマが頑張ってくれるなら、俺もユウマのために頑張るよ。」
ここに来たコドモには毎回そう言っている。少しの希望を与えるのはコドモに悪影響だとリクマにいつかの頃言われたことがあった。しかし、俺たち大人と同じように本人の努力に見合う対価は必要だと考えている。少しの希望がどれだけコドモたちの力になっているのかはわからないが、コドモのために何かしてあげたいという気持ちがこういう行動に移るのだ。ただの自己満足に過ぎないが、俺はこれでいいと思っている。
「はい、話は終わり。お風呂入っておいで。・・・一人で入れる?」
「は、入れるよ・・・っ。」
当たり前でしょ、というように立ち上がり、お風呂場へ向かうユウマを引き留めて着替えとタオルを渡すとパタパタと駆け込んでいった。
シャワーの音が聞こえてきたタイミングで、ふとローションのストックがなくなっていたことを思い出し、ユイに電話を掛けるため電話帳を開いた。少しのコール音の後に「はーい。」と間延びした声で電話に出たユイに要件を伝える。
「シゲユキ今出てるからヤヨイ向かわせるね。」
「ありがとうございます。」
ヤヨイは不愛想で物静かな人だ。口数が少なすぎるからこそ一見怖く見えてしまうが、話すとそうでもなく自分の好きな話になると饒舌になる。一番興味が湧くのは、気付いたときには髪の色が変わっていることだ。前回来たときは確か黒髪に赤のメッシュが入っていた。
「・・・ところでさ、ユウマ君、どう?」
「そうですね・・・やはり虐待が原因で対人恐怖症とパニック障害になっていると考えられます。最初に目を覚ました時過呼吸になりかけました。」
「虐待か・・・。親?」
「いえ・・・ユウマの母親が連れてきた男らしいです。三人いたようですが、そのうちの一人に暴力を振るわれていたと話していました。・・・ですが、自分に危害を加えないとわかったら怯えることもなく、きちんと目を見て話せるので予想より早めにユウマの精神状態は安定していくと考えられます。」
「そっか・・・。よかった。あ、ヤヨイに後でメール入れさせるね。ユウマ君の状況はまた聞くね。」
「はい、メールでも送っておきます。それでは、失礼します。」
そう言って向こうが電話を切るのを確認してから耳からそれを遠ざけた。タイミングよくヤヨイから『二時間』とだけ連絡が入り、返信しておく。端的にそれだけ伝えてくるヤヨイがおかしくて軽く笑みを浮かべた。
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