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F-0823 シュウ (12)
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シュウが児童養護施設であるひまわり園に入ったのは、幼い頃のことで、気づいたらそこにいた。小さいときから、たくさんの家族と友達がいた。大きくなるとひとり立ちする人や、別の親に引き取られる人、さまざまだった。そのことに、誰も疑問に思わなかった。それが普通で当たり前。施設の先生はみんな優しくて、ときには厳しい、大好きな人たちばかりだった。しかし、大きくなるにつれ、おかしいと感じ始めたのはシュウだけではなかった。最初におかしいと感じたのは、施設で一番仲がよかった子の体調不良が続いた時だ。
『カナメ、カナメ』
『・・・っ。ごめんっ、今来ないで。』
『なんで?どっか悪いの?風邪?』
『そう、風邪、風邪ひいたから来ないでっ』
カナメは布団にくるまったまま、シュウに振り向きもせずに言い放った。様子がおかしいことに気づき、カナメの声を無視して布団をめくると顔を青くして、強張った顔を見せた。小さく悲鳴を上げたカナメは布団を引っ張り抵抗するが、シュウはカナメから布団を引き剥がした。
『やめ、やめてよっ』
『顔真っ青じゃん。先生呼んでくるから。』
『やめてっ、お願いっ』
『なんで・・・ちょっと、これ、なに・・・。』
カナメの腕を掴むと、そこには何かで縛られたような痣があった。足首にも同じような痣があり、服で隠れているところも青黒く腫れている箇所がいくつもあった。
『誰に、やられたの?』
『・・・・・・。』
『施設のやつ?俺が先生に言ってやるから。』
『っせんせ、に・・・』
『なに?』
『先生に、やられたっ』
泣きながら言うカナメを見て嘘だとは思えなかった。カナメはそんな嘘をつく子ではない。信じていた先生にやられたと泣いている。いつやられたのか、誰にやられたのか聞いた時にはもう、頭の中は整理できていなかった。信じたくなかった。涙なんて出なかった。カナメの前で、泣けない。一人で苦しみ、やっとシュウに吐き出すことができた人の前で泣きたくなかった。手が震え、腰は抜けていた。
『シュウのことは、ぼくが、守るから。』
笑顔で抱きしめてくれたカナメの顔を、忘れることができない。カナメが誰にも言うなと言うから。ただ、何事もないように振る舞うカナメを見ていることしかできなかった。あれ以来、カナメが泣いているのを見ていない。はっきりとわかった。自分が無力だと。何もしてあげられない自分が心底嫌いだった。どうにかしてあげたかった。どうしたら助けることができたのか、わからなかった。シュウは、今でもそのときのことを悔やんでいるのだ。
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