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二時間目
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謝りながらもやはり顔を上げることはない七種
もしかして俺嫌われてる……?
確かに仲がいい訳では無かったし、
この授業がきっかけで少し前にちゃんと話したのが初めてだというくらいには
交友関係として未熟もいいところ
「あ、えと、」
ゆっくりと言葉を探している姿に心臓がきゅっと鳴る。
あ、まただ
俺はどうしてしまったのだろうか
七種を目で追うようになってからというものの時々今みたいなことがある。
あまり感じたことのない痺れ
甘さを含んだそれは得体がしれず心に靄のようなものを残していく
けれどそれに不思議と嫌悪感はない
「ご、ごめんなさいっ……まだ、むり、」
「そっかー」
普段、こんなに俺相手にビクビクと話す奴は周りにいない
喋り方だってこんなにゆっくりな奴もいない
そんなに申し訳なさそうにしなくてもいいのに
七種がこんなにもオドオドしている理由は明白だ。
似顔絵課題が始まって数十分経った。
しかし、俺の凸凹した画用紙は未だ真っ白なまんまなのだ。
紙が白い理由もわかりきっている。
わかっているからどうしようも無い
七種は俺の顔が見れないんだってさ
何でかは教えてくれないけれどとにかく慣れないみたいだ。
俺そんなおっかない顔してないんだけどなあ
心の中でつぶやく
だから俺はただ七種のモデルとしてただぼうっとしてるだけ
窓の外を眺めたり、一生懸命に絵を描く七種を盗み見たり
気づいているのかいないのか
当の本人は前髪を小さく揺らして器用にその隙間からレンズ越しに俺を見て……いるのだろうか?
とにかく鉛筆を動かしては画用紙に黒を増やしている。
この一生懸命さにまた心臓がきゅっと鳴る。
健気というかなんというか
珍しいからなのかやっぱり目が離せない
まあ、こんなにも七種が一生懸命なのは
もしかしたら俺の事が怖いだけなのかもしれないけど
あ、待った
やっぱこの考えなし
本当にそうだったら悲しい
俺は自分の課題なんかもうどうでもよくて
ただ真剣に課題に取り組む七種を独り占めしていた。
とはいえ暇なものは暇だ。
視線は混じり合うことはないので小さく揺れるその黒い頭を眺める。
サラサラと指通りの良さそうな髪は爽やかなシャンプーの香りがしそうで慌てて何考えているのだろうと目を逸らす。
外れた視線をそのままにまた窓の外を眺める。
耳を澄ませば、ゆっくりと紙の上を滑る鉛筆の音
俺は眠たさとは違う心地良さを感じて目を閉じた。
七種とちゃんと会話したのはつい最近のこと
ちゃんと、というのは曖昧だから
本当はもっとずっと前にも話したことがあったのかもしれない
でも俺は人の顔とか覚えるのが苦手だから覚えられない
今となっては、あったかもわからないそのもしもを惜しいと思ってるのだから笑えない
俺の周りは大抵元気でうるさいと言われるタイプの奴らが多い
それとは正反対な七種とはあまり話すことがなかったのも必然的と言えばそうなのだ。
きっかけはちょうど一週間前
チャイムが授業の終わりを告げる少し前
のっぺりとした我が高校の美術教師
北沢先生こと北さんがいつも通りの抑揚のない声で言った。
「来週から似顔絵課題に入ります。出席番号の前後でペアになって行うので授業前に顔合わせしておくようにしてください。」
以上、終わります。
馬鹿丁寧な言葉で、でもどこか気の抜けている。
そんな声を聞き終わるや否や教室は騒がしくなった。
似顔絵なんか嫌だと不平不満を言うもの
たまにはいい、楽しそうだと騒ぐもの
俺はというとどちらでもなくて
頭の中は別のこと
そもそも絵は得意とも思っていなければ不得意とも思ってない
興味もあまりないから結局やるならやるしやらないならやらない
何も思わない、が正しい
さっきも言ったけどその時の俺は別のことを考えていたから
「出席番号の前後って誰だっけ……」
自分のペアが誰かってこと
俺にとってはそっちのが問題
円滑に適当に可もなく不可もなくあたりざわりなく過ごしていたいんだ。
いくら周りが賑やかだからといって
俺は常に賑やかでいたいのではない
楽に、楽しくが俺のモットー
何事も適度とかある程度が一番だ。
出席番号は苗字の頭文字の五十音順で決められている。
俺はさ行だから前って言ったら……
「佐伯か?」
「んあ?呼んだ?」
声に出ていたらしく、ちょうど俺の隣を通りかかった佐伯
佐伯がペアなら普段からよく喋るし楽だなあーなんて思って声をかける。
「美術の課題って、お前とペア?」
「いんや、俺じゃないよ」
けれど、答えは俺の思っていたものとは違った。
あれ?そうだっけ
じゃあ、あれか
菅谷かな
明るい髪色と目つきの悪さでクラスメイトからは遠巻きに見られているけれど、話してみると案外話しやすい奴
見た目だけ不良っぽいが悪い奴じゃないのはもうわかってるし意外と真面目だから何とかなるかなー
なんて考えていると
答えを書き込む前に答え合わせが始まる小テストと同じ感覚
「笹原のペアは七種でしょ?」
よくもまあ他のやつの出席番号なんか覚えてるもんだ。
呑気に関心していたが
よく佐伯の言葉を頭の中で反芻させてみると違和感
『笹原のペアはサエグサでしょ?』
サエグサ……
さえぐさ?
って、誰だっけ?
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