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四時間目
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それから一週間の殆どの放課後
俺は七種と過ごすようになった。
毎日のように美術室に通っては向かい合わせに座って他愛のない話をする。
茜色づいていた木の葉はいつの間にか枯葉に
寒くなったね、とかマフラーはいつ頃出すべきだとか
そんな本当に何でもない話をする。
美術室に人はいなくて
北さんに聞いたらこの時期は野外活動を毎年していてだいたいみんな外でスケッチ?をしているらしい
北さんはそっちの付き添いをするから美術室は好きに使ったらいいとのこと
だから俺たちは今日も美術室の一番後ろの席
たくさんの石膏とかキャンバスを置く木製のスタンドみたいなやつが置かれた一角の前の席に座る。
少しの日差しが入ってきて窓を開けない限り寒すぎずちょうどいい
「今日はなんの話しをしようかなー」
「ふふっ、なんの話する?」
少しずつだけど七種も俺と話すことに慣れてきた。
話し方が前よりもおどおどしていないし
小さく笑うようにもなった。
相変わらずほとんど顔は見せては貰えないのだけれど
「そうだ……笹原くんは音楽、聴くの?」
珍しく話題は七種が作ってくれる。
だいたいこの放課後の時間は俺がくだらない話をしたり、質問したりと七種からの問いは結構レアだ。
「音楽?ンーまあ時々くらいだけど」
「そうなんだ、どんなの聴くの?」
どんなの、どんなのかあ
流行りの曲とか正直に言うと俺は自分から聴かない
どっかの店に入った時ああこんな曲あったなって思う程度
俺の時々しかない音楽を楽しむ時間
聴くのは一つしかない
「クラッシック」
「へ?」
もう一度言うのはなんか気が引ける。
だって絶対七種は似合わないって思うでしょ
「特に弦楽器がメインのやつ、とか……」
「……」
段々と語尾が小さくなる。
なんかすっごい自信なさげに聞こえるかもしれないけどその通り自信ないからね!
ほら、七種も黙っちゃってるし……
この作曲者の、この演奏者の、この楽器の、この曲の
別にそういうのがあるわけじゃない
音楽なんておの字もわからない
ただ聴いていると落ち着くんだ。
専門用語なんかわからないし音の強弱さえ正直聴いていても曖昧
それでも聴いていたいと思ったのはクラッシックだけだった。
自分が弾こうと思わないしその手のジャンルを開拓する気もないから俺は無知のままでいい
きっと専門家や本気で音楽に向き合ってるやつからしたら
赤ちゃんみたいなと言うかその通り
比べることすらおこがましいにも程があるけれど
俺はただ自分の耳で聴いて、心に染み渡った綺麗があればそれでいい
よく知って学んだ方が奥が深くていいなんていうけれど
俺は中途半端でいい
何かをすることに明確な理由を持つ人もいればそうじゃない人もいる。
俺は後者で、確固たるなにかなんて俺にとっては無粋だ。
その時の気分で気ままに拾って行ければそれでいい
なーんて、いつもつるんでる奴らの前では口が裂けても言えない
馬鹿にされるか煽られるか
はたまたイキってる奴と見られるかそれくらいがいいオチだろう
俺は俺が思って感じて信じれればそれでいい
「ぼく、音楽のこと詳しくないけど……ぼくも好き、クラッシック」
「、」
質問したのにって感じだけどね、そう少し照れたように言う七種
「いや!うん、いいよな!クラッシック!」
「うん」
俯きがちな七種から見えるのは
ゆるく口角が持ち上がった柔らかそうな唇
俺の事じゃない
俺の好きな物の事だけど
否定せずに、好きと言ってくれたその声に
心臓が騒がしくなる。
なんだこれ
あつい
鼓膜に直接心臓の音が響いてるみたいだ。
どくん、どくんって
うるさいし、あつい
なにこれ
誤魔化すみたいに繰り返し言った「いいよな」
七種が鈍感で天然じゃなければきっと誤魔化せはしない
でも有難いことに七種はそういう節があるから
「そうだね」
またゆるく頷く
ああ、何やってるんだ。
いつもはもっと上手いこと言えるだろ
七種が声を出して笑ってくれるようなこと
でも今の俺の頭はぜんっぜん働かない
いつもの数十倍は馬鹿になった気分
働かない頭の代わりに血液が身体中をぐるぐる回る。
足の爪先から頭のてっぺんまでポカポカと熱くなるばかり
ポカポカ、なんて生ぬるいものじゃないけれど
表せる言葉を俺は知らないからそういうことにしておく
ああもうほんとどうしたんだよ
「笹原くん?」
「ッ」
俺の方が七種の顔、見れないや
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