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十一時間目
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今まで過ごしていた時間は嘘だったように
一週間の殆ど放課後に七種と会うことは無くなってしまった。
部活に復帰した七種との時間は今までとは反対に
月曜日の放課後だけとなっていた。
それに加え、行き詰まっていた物事はとんとん拍子に進んでいき
七種は俺の目を見ても逸らすことがあまり無くなった。
実際に七種が部活に復帰したというのは俺が考えていたよりも
周りの人から見たらとても喜ばしい事だったようで
七種は部活に集中するべきなのである。
ちょっと考えればわかる
この放課後がきっとなくなる方がいいのだろうと
俺は口を噤むことにした。
それでもやっぱり寂しいもので
俺だって七種が自分のしたいことを出来るのならそれを応援したい
でもさ、もうちょっと俺に構ってくれてもいいんじゃないかなあ
なんてやっぱり俺は我儘だ。
なんだか七種が知らない遠くの人みたい
言わないけどさ
今日は木曜日
何でもない日
なんでもないただの木曜日
すぐに帰る気にもなれず適当に校内を歩く
たまたま目に留まった図書室と書かれたプレート
何となしに足を運んだ。
「図書室なんて初めて入った」
呟いて教室を見渡す
入学して、というかもうすぐ一つ学年が上がるというのにこんなに学校のことを知らなくていいのだろうか
当たり前だけどそこにあるのは本、本、本、本
背表紙だけで絵が描けそうなほど様々な色
なんていうんだっけ、確か、モザイクアート?
「だろうな」
聴こえた声に振り返ると見知った顔
カウンターの中の古びたソファに本を片手に寝そべっている。
実家のような寛ぎ方に羨ましいと思うのは学生として仕方ない
「あれ、菅谷じゃん。何しての」
「俺、図書委員」
「へー、そーだったんだ」
「お前こそ何してんの」
「んー暇だから散歩」
「ふーん」
興味が無さそうに相槌を打たれる。
相変わらず派手なかみいろだなあ
菅谷の髪は染めているわけじゃないのか明るい黄色なのに全然傷んでいなくてサラサラ
「ああ、暇ならこれ貸してやるよ」
手に持っていた本を投げられる。
図書委員がそんなことしていいのか〜
運良く落とさずにキャッチできた本の表紙に目を落とす
「……ロミオとジュリエット?」
「そ」
「菅谷、恋の小説なんて読むんだね」
「、」
少し目を丸くした菅谷
なんか失礼な事考えてない?
「なんだよ」
「内容知ってんのか」
「中学ん時好きだった子が読んでたから借りたー」
「はっ、健気じゃん」
「そうそうー俺って意外と健気なんだよね」
久しぶりに手にしたその物語を適当な感覚で捲っていく
紙の摩擦音だけが小さく響いた。
少しの沈黙
ただ開いたページの文字だけを追った。
「……菅谷だったら、どうする?」
呟いてた。
「手の届かない相手に、幸せになれるかも分からないのに思いを告げられる?」
俺、何聞いてんだろう
でも勝手に口は動いていて音は零れていた。
「……伝えない」
「え」
「だから伝えねえって」
「……意外」
「はあ?何でもかんでも我武者羅にやるのがいいってわけでもねえだろ」
「……そう、だね」
その通りだ
きっとそれが正しい
そうすることが、きっと正しいんだ。
男同士なんてさ
幸せになれるなれない以前に誰も許してくれない
中学の時、クラスで噂になった友人がいた
男が好きだって
そうしたらそいつは次の日からハブられていつ見ても一人になっていた。
俺はその時も自分のことで手一杯だったから
関係ないと見て見ぬふりをしていた。
そういうことだ
人と違うということはそれだけで悪となり得る
わかってる、わかってるけど
でも多分俺はそれじゃもう我慢できないんだ
自分の中に押し込めて閉じ込めて奥なんて無理だ。
無理だったから、こうなってる
「あーあ、ほんと惚れた方が負けなんてよく言ったもんだよなー」
「……?」
菅谷は頭にハテナを浮かべる。
わかんないよなあ、わかんない方がいいよ俺の事なんてさ
もうさ、俺ダメみたいなんだ。
何時ぞやしまおう隠そう止めよう忘れよう
そんなこと思えてた少し前の俺を褒めたいくらい
というか褒める。
よくそんなこと思えた、偉いぞ笹原珠希!
「なんかスッキリした!ありがと菅谷」
「おう」
ああ、次の月曜日が楽しみだ。
俺はさ
やっぱり誰かのためになんて似合わないと思うんだよ
俺は俺のために、それが一番自分の求めるものが手に入る方法だって知ってるから
北さんも言ってたしね
『我武者羅にやるのも子供だからできることですよ』
俺はまだまだ子供だからね
それでいいじゃん
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