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十二時間目
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月曜日の放課後、なんだか今日はいつもと違う
それはそうだ
俺の方が七種より先に美術室にいるのだから
初めてじゃないかな?
なんか無駄に緊張するなあ
ガラッと扉が開く
新しい発見
もっと大人しく扉を開けるとずっと思ってた
顔を上げた七種は驚いたように目を見開いた。
「ぇ、あ、笹原くん」
「なーに、そんな驚いた顔して」
「まだ、教室にいると、思ってたから」
視線が外れる
やや斜め下、出会った時と変わらない
「今日はさ、課題やろっかなーって来週終業式だしさすがにね」
「ぇ、あ、そうだよね……ごめんね、ずっと」
「ううん。はいじゃあそこ座って!」
「……うん」
七種は椅子に座ってからも落ち着かない様子
瞳をキョロリと回したかと思えば今度は右へ左へとヘーゼルが動く
そして次には目元を赤らめてきゅっと瞳を閉じてしまう
あー、可愛いなあ
似顔絵を描くのにこんなに近づく必要はないのだけれど
七種が可愛くて少し意地悪したくて
膝と膝が触れ合うほどの隙間しか開けずに俺は正面に座った。
凸凹とした真っ白の画用紙に一本また一本と濃いめの鉛筆の線を足していく
教室には鉛筆の芯が紙の上を滑る音だけが響いた。
数秒、数分、数十分
指折り数えてはいられないけれど時間は勝手に進んでいく
、
「終わったー」
「……お、わり?」
「んー!七種お疲れ」
「ぁ、うん……」
何事も終わりなんて案外呆気なくて
自分で言うのもなんだけど割と手応えがあった。
だって俺は少しの間だったけどずっと七種を見てきたから
見たら描けるとかでは無いけれど下手なら下手なりに何か伝わるものがあるのではと少し得意げになる。
七種は疲れた顔をしたけれど小さく笑った。
その表情がどこが引っかかる
「どうしたの?」
今度は瞳を瞬かせてあっとした顔をする。
忙しいなあ
「あ、えと」
俺と目が合うや否やまた逸らして慌て出す。
七種はどうしてこんなにも俺の一挙一動で表情を変えるのだろう
もうずっと俺の中で難解問題だ
「なんだか、寂しいな……って」
「さび、しい……?」
「ぇ、あ!ごめん!ぼくのせいで課題終わらなくて時間作って貰っていたのに!!」
さっきも打って変わって申し訳なさそうにする七種
でも俺の頭の中は別のことでいっぱいだ
ああそっか、もう七種とここで会う理由もないのか
実感はなかったけれど理解してしまえばなるほど
寂しいな
俯いて少し恥ずかしそうにこちらを覗き込む七種
その瞳を見た瞬間
「七種はさ」
言葉は、勝手に溢れた。
「なんで俺と話す時だけ目、合わせないの?」
別にこんなこと言うつもり無かった。
答えなんて知らなくても難解問題のままでもよかったのに
でも、何故か口は勝手にそう言ってて
七種といると本当にめちゃくちゃになるんだよ
俺の身体なのに全然俺の言うこときかない
「へ」
ほら、七種も困ってんじゃん
なんでもないって言えよ
「前から気になってたんだよね。他の奴と話す時はそんなんじゃないよね、なんで?」
怒ってるわけじゃないけれど
傍から聞けば責めてるみたいなそれ
違う、違うんだよ
本当に純粋な疑問
これじゃまるで責めてるみたいじゃん
「ぇ、あ、そんなこと、ないよ……」
「そんなことあるよ」
最近は慣れていたみたいだけど至近距離ではやっぱり無理みたいで
覗き込もうと頭を傾ければ盛大に肩を跳ねさせて一層下を向く七種
「ほら」
「や、ちがくて……」
「なにが違うの」
はあ、と思わず出てしまったため息
七種はフルフルと身体を震わす
別に怒ってるわけでも呆れる訳でもないが
本当はずっと面白くないって思ってからさ
「まあいいや」
「あっ、」
自分で聞いといてって感じだけれど
見せたくないと言うなら無理に見ようとは思わないし
話したくないなら無理に聞かない
嫌がることをするのは望むところではないし
でも、これで嫌われてしまったら元もこうもない
うそ、本当はずっと気になっていて七種の本当の部分が知りたくて
最後と思うとやっぱり少し寂しくて溢れてしまっただけなんだ。
本当に何してるんだろう
もうなんか毒気を抜かれたというか
とにかくもう全部リセットしたくなって帰ろうか、と七種の方を見れば引っ張られる感覚
力の方へ視線を向けるときゅっと自信なさげに掴まれる服の裾
「七種?」
「き、きらいにならないでっ」
嫌いになる?
俺が?七種を?
「ならないよ」
答えが出る前に、頭で考え終わる前に言葉が零れた。
音にしてみた後に納得した。
ならないな
根拠も理由もなにもないけれど
何となくそんな気がした。
その直感こそ正しく間違えるはずの無い俺の答えだ。
「え、あ、ありがとう?」
「ふはっ、ほんと七種は面白いな」
「そんなこと、ない」
「そう?」
さっきまでの雰囲気なんて忘れて
本当に飽きないな、と思う
七種は知らないと思うけど、俺にとってもうお前は特別なんだよ
こんなに俺を振り回すのってきっと七種くらいだよ
七種も俺に嫌いにならないでって思ってくれるんだ。
実は俺たちって意外と似ているのかもしれないね
なんて考えて一人嬉しくなってしまう
話はこれで終わりのはずだが七種はそのまま手を離さない
咄嗟に出てしまったんだろうけど
チラリと指先を盗み見れば
「七種、手、震えてる」
拾った音に自分の声だと気づく
つまり口に出てた。
七種はまたびくりと肩を震わせた。
「……っ」
服のシワが一層濃くなる。
「あー、さっきはごめんな?変な事言った。忘れて?……だからさ、帰ろ?」
そう言っても七種は一向に動こうとしない
んー困った
俺からその手を振りほどくこと無くてできないし
まあ俺のせいで七種が固まっちゃったわけだが
どうしたらいいかまるで思い浮かばない
と、
本当に、本当に小さくて聞き取れないかと思った。
「……だって、」
「……ん?」
「っ!」
無意識に覗き込んでしまった顔
見た後にやばいって思った。
なぜなら、
覗き込んだ七種の瞳は濡れていたから
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