アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
十三時間目
-
ポロポロと零れる雫に身体は動かない
ただ俺は七種を心配する訳でもなく
どうするか考えるわけでもなく
本当にただ
綺麗だって見惚れていた。
「……だって、」
七種の声にハッとする。
俺は自分が思っていたよりも良い奴なんかじゃなくて
単純に酷いやつなのかもしれない
散々好き勝手行動しておいて今更かもしれないけれど
そう思った。
「……顔、見られたら、」
「見られたら?」
ポツリ、ポツリと雨粒みたいにゆっくりと零れる七種の声
もっと聴きたい、早くその先を
自分勝手な感情と
聴きたくない、もういいよ
また別の自分勝手な感情が鬩ぎ合う
俺の声に反応して俯いてしまった七種
ああ、見たい
さっきの綺麗な瞳を
美術室に差す茜色の夕焼け
涙で濡れた瞳は揺れ
どんな綺麗な景色よりも目に焼き付く双眸
そこに、映りたい
本当に七種のこと考えてる時は矛盾だらけでぐちゃぐちゃだ。
自嘲的な笑みが零れる。
「七種、こっち、向いて?」
いつかの七種に言われた言葉
今度は俺が言う番
びくり、また大袈裟なまでに跳ねた肩
この光景を見るのは何度目だろうか
「俺の事、嫌い?」
「……っ、ちがっ!」
ボロ、と零れ落ちた透明
見えた瞳にきっと俺の口元は綻んでしまっている。
性格悪いなあ
どこか冷静な自分が言う
だって俺は七種を心配する訳でもなく
俺のせいで悩んで泣いて困っている七種に嬉しいと思ってしまっているから
意地悪なんかしたら嫌われちゃうかもしれないけど
「な、んで……笹原くん、嬉しそう、なの?」
「わかんない。でも、多分七種のせい」
「ぼ、ぼく……?」
ああほら、また溢れてくる。
多分俺、七種の泣き顔すっごく好きなんだと思う
でもこれ以上は本当に嫌われてしまいそう
だから笑みは無理矢理心の内側にしまって眉を下げる。
申し訳そうな感じをいっぱいに出して
ああ、俺本当に良い奴なんかじゃなかったんだな
「ごめん、七種」
「え、あ、ちがっ……大丈夫、僕の方こそ、ごめん……」
思った通りに七種は俺よりももっともっと申し訳なさそうになる。
かわいいね、かわいいな七種
「それで、なんで目合わせないの?」
俺のけろっとした姿に七種は困惑する。
けれど、やっぱり真面目な七種は俺に応えようとしてくれる。
それでも自分の中で何かがストッパーになっているのか
今度は頬を真っ赤に染めて涙を溜めた瞳を濃く揺らす
さすがの俺もそんな姿を見たら罪悪感が湧かないわけはなくて
やり過ぎたな、と少しだけ反省
今度はちゃんと謝ろうと口を開く
と、
「っ、好き、なの……ばれちゃう、から………」
本当に小さな声
聞き逃すところだった。
「え」
「あっ、え、あ、ぼくっ……!」
七種は無意識だったみたい
我慢してたのがつい溢れちゃった
そんな感じ
咄嗟に口を塞いだみたいだけど一歩遅い
だって俺には聞こえてしまったから
一歩、引いた七種の足が椅子を倒す
ガタン、
大きな音が聞こえる。
「七種、今のもっかい言って」
「ぁ、ちがっ、なんでもないっ、なんでもない、からっ……!」
顔を真っ赤にして否定する七種
ねえ、そんなの嘘じゃん
そんな顔で言ったって全然説得力ないよ
ああなにこれ、俺まで熱くなってくるり
「なんでもないの?」
「っ、なんでも、ないっ」
「ほんとに?」
「ッ」
きゅっと口を結んで黙る七種
そこまで言ってしまったのならもう吐き出してしまえばいのに
触れていいか一瞬悩んだが手をとる。
案の定七種の身体はビクリと揺れた。
あ、
驚いた瞳と目が合う
こんなにたくさん話して顔を合わせていたのに
ちゃんと七種の瞳を見たのは初めてのような感覚に襲われる。
瞳いっぱいに溜めた涙がヘーゼルの虹彩を滲ませる。
ぱちり
スローモーションのようにそれは閉じられ
塞がった隙間からまた涙が零れた。
俺の頭にその光景を忘ないよう焼き付ける
信じられないほど綺麗に輝いた瞳を
涙は熱い
手の甲に落ちたと思ったら火傷してしまいそうな程だと思った。
真っ赤に染まった頬が林檎みたいだ
でもそれはきっと本物よりもずっと甘くて酸っぱい
「す、き……」
「うん」
「すき、なの、ばれちゃう」
「俺が好きなの?」
ビクリ、震える
そして小さく頷いた。
止まることを知らない俺の感情
知りたくて、聞きたくて仕方がない
七種につられて俺まで溢れでる。
「ねえ、七種わかってる?俺、男」
「っ」
「お前と同じ男だよ」
「しっ、てる、よ……」
雨粒みたいな涙は次第にぼろぼろと溢れ
とめどないそれに心臓が、痛いくらいに騒ぎだす
「七種が思ってるみたいなヒーローじゃない、優しくないよ、俺」
「へ」
一瞬、途切れる雫
「ずっと七種に親身になってるフリしてたけど違う。本当はずっと可愛いって思ってただけ」
「ぇ、あ、ぇ……?」
「全然七種の理想の俺と違うよ。自分勝手で傲慢で、性格悪いんだよ俺」
また溢れた涙
本当に忙しいなあ
「知らないでしょ」
そう言えば黙る七種
自嘲的な笑みがまた零れた。
自分で言ってみて己の性格の悪さが反芻してちょっと胃が痛い
言うんじゃなかったと思うけど
本当のこと言わないとダメだと思ったから
だって俺、七種にはいつものテキトーとか気分でいたくない
「ささはらくん、だって……」
「ん?」
七種の声は小さい
それでもちゃんと聞こえる。
「知らない……ぼくが、ずっと好き、だった……って」
「へ」
今度は俺が間抜けな声を出す番
「入学式の日、笹原くんと、席が前後になった日から、ずっと、す、……っ」
七種また口を結んでしまう
待ってあげるのが正解なんだろうけど
ごめん、待てないや
「言って、ねえ、七種、聞かせて?」
「、ッ」
「七種。お願い」
はく、と七種は言葉を躊躇う
ごめん良い奴じゃなくて
聞きたい
ねえ、七種の口から聞きたいんだよ
手を伸ばし、七種の目元を拭う
触れる度に緊張が伝わってきて俺まで泣きそうだ
「っ……す、き、……知らない、でしょ?」
「うん、ごめん知らなかった。だからいっぱい今聞かせて」
わがままでごめん
でも聞かせて、お願い
「すき……す、きっ……ずっと、ずっと、前から、」
ぶわって風が吹いたみたい
熱風、あつくてしかない
あー心臓いったい死にそう
なにこれ幸せで死ぬの?俺
本望だけどもっと七種といたいから死ねないね
「七種」
「ぁ……な、に」
一歩、七種に近づく
額を合わせて頬を撫でる。
それだけで七種はきゅっと瞳と唇を閉じて耐えるように震える
ああ、可愛いな
好きだな
「聞いて?俺……俺さ………」
放課後の美術室
君を知りたいと思った。
もっと、ずっと、たくさん一緒にいたいと思った。
俺と七種の秘密
けれど、俺たちがここで過ごす時間はもうおしまい
だってこれからは
どこでだって君と会えるんだから
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
13 / 13