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「絢!!」
一日が始まるアラームの音を切っ掛けに雅琴は跳ね起きた。
けたたましく鳴り響くアラーム音に混ざって雅琴の荒い息遣いが漏れる。
時刻は午前六時。
雅琴の一日が始まる合図であり、夢が終わる合図でもある。
雅琴は慌てて立ち上がると寝起きの貧血でフラフラとしたまま部屋を徘徊する。
「絢…絢、どこ…?どこ行ったんだよ…!」
昨夜、突然の別れの言葉と共に絢介は雅琴の前から姿を消した。
夢の世界から強引に現実世界へ引き戻されたかのような感覚に気持ちが落ち着かない。
「絢…っ」
床に座り込んでしまった雅琴の目から涙が溢れた。
自分の気持ちが自分でもよく分からなくて胸が酷く傷み、苦しさが増す。
ずっと好きだった。
大切だった。
そばに居たかった。
自分には絢介しかいないと思っていた。
だから絢介が亡くなった時、雅琴は夢の世界へ逃げ込んだ。
自分が絢介のことを忘れず好きでいるーー”恋人”でい続けることで、雅琴は絢介に愛されていると、守られていると感じて安心できた。
ただ、怖かっただけなのだ。
また失って独りになることが、ただ辛かった。
そして初めて愛した人を失って引きこもった雅琴の前に訪れた”運命の番”と”愛すべき人”を見て、雅琴は慣れ親しんだ後者を選んだ。
彼に依存することが、雅琴にとって”確実な幸せ”を手に入れる一番の近道だったのだ。
人と関わる上で恋愛も友情も、互いのことを傷つけ合って初めて相手のことが分かるようになる。
然し他人と今まで殆ど関わり合うことをしてこなかった雅琴にとって、自分を傷付ける人間など敵も同然だった。
そんな雅琴に手を差し伸べたのが絢介だ。
彼は雅琴の全てを肯定した。
だから雅琴も彼の全てを受け入れた。
今までもこれからも、ずっとそれで良かったのにーー。
「なんで…、絢じゃダメなの…」
お見合いで出会った運命の番、西条 楓。
彼の存在によって、恋愛感情が消えかけていた雅琴の中に新しい恋心が生まれたのだ。
然し、運命の番は本人の意思に関係なく強く惹かれ合う存在である為雅琴はこの感情を恋だと認めたくなかった。
何故絢介では無く楓が運命だったのか、何故絢介が死なねばならなかったのか、雅琴はその運命が現実なのだと認めることが出来なかったのだ。
「やだよ…絢…、おいてかないで…」
本心で惹かれた絢介と本能で惹かれた楓。
どちらも相手を想う好きという気持ちは変わらなかった。
だからこそ、どちらの選択が正しいのか雅琴には分からなかったのだ。
俯いたまま、涙が一向に止まらない。
泣き喚きながら駄々をこねる子どものように雅琴はやだ、と繰り返し呟いた。
「絢…っ…、絢…!」
「雅琴」
一瞬、耳に届いた声に雅琴はハッと目を見開く。
聞き覚えのある穏やかな声。
「絢…?」
然し顔を上げても部屋の中には誰もいなかった。
雅琴はふらつく足で立ち上がり、何を思ったのか靴も履かずに外へ飛び出した。
ーー絢、楓さん…、
ーー絢介。
「絢介っ…!!」
叫びながら道路に出た雅琴は突然誰かの身体に勢い良くぶつかった。
「っ…!」
「わっ」
転けそうになった身体を支えられて、雅琴が上を向くとそこには驚いた顔で雅琴を見る楓の姿があった。
「かえでさ…、」
「雅琴君…!?なんで泣いて…、しかもそんな格好で…何かあったの?」
楓はこの状況に追いつけないまま、上品な顔を焦燥に歪めて雅琴の背を撫でる。
「なんで…楓さんがここに…」
「いや、それが僕にも分からなくて…。知らない誰かの声がしたんだ。その声に導かれて、気が付いたらここに来てたんだけど…ここは、雅琴君の家?」
楓は雅琴から手を離し、困ったように頭を抱えながらそう問い掛けてくる。
いつも家の付近まで送って貰ってはいるものの楓に自宅の場所までは教えていない。
なんで、と考えて一つの結論に至る。
こんな都合の良い怪奇現象めいたことが出来るのは雅琴が知る限り一人だけだ。
「…絢、介…?」
「正解」
耳元で聞こえた探し人の声。
その瞬間、雅琴の身体は優しい熱に包まれていた。
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