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ーー彼との出会いはまさに突然のことだった。
「え、養子?」
夕食の席で双子の兄、要の料理を前に食卓を囲んでいた翼は父、清治の言葉に思わず食事の手を止めた。
「なに、突然どしたの?」
「ちょっと訳ありでな。お前達の大学の近くにでかい総合病院があるだろ?そこに勤めてる医者と知り合いなんだけど…ちょっと厄介な患者がいるらしいんだ」
「厄介な患者?」
要は口の中で咀嚼していた野菜を嚥下すると、清治の顔を見ながら同じ言葉を繰り返した。
清治は知り合いの言葉を思い出しながらゆっくりと口を開く。
「捨て子で身寄りも無しの男の子。元々施設育ちなんだそうだが、重度の精神疾患を患ってるみたいでね。元々施設とその近くの病院を行ったり来たりしてて、遂に施設じゃ手に負えないからって大きい病院に移されたらしい」
「精神疾患ねぇ…精神病患者みたいなカンジ?暴れて大変だとか」
「いや、そういうことはないみたいだ。ただ…」
「ただ?」
「可哀想なくらい、心と感情が抜け落ちてしまっていると言っていたな」
翼はそれを聞いてなるほどね、と小さく呟きながら度数の低い冷えたワインを口に含んだ。
「それで、父さんはその子引き取ることにしたんだ?」
「あぁ。なんか、話聞いてたら他人事みたいに思えなくなってきてな。でも、父さんだけで決める訳にもいかないから、二人の意見もちゃんと汲みたいんだ。どうだ、要、翼」
清治は二人の息子の顔を真剣に見つめた。
いつだって三人で肩を寄せ合い生きてきた彼等には全員に等しく決定権がある。
もう一人の家族、それも病気を患っている他人を迎えることは清治にとっても、要と翼にとっても今後の人生に大きな変化があるかもしれない重要な決断だった。
然し二人は一度お互いの顔を見合わせながらフッと笑みを零し頷いた。
「いーよ、父さん。俺は引き取ることに賛成」
「僕も構わないよ。その子にとっても僕達にとってもいい刺激になるかもしれないしね」
「…そうか、ありがとう。要、翼」
清治は頼れる双子に微笑みかけて静かに目を伏せた。
「ね、名前はなんて言うの?」
食事を再開しても、三人の話題はその彼のことで持ちきりだった。
「ハル、だそうだ。悠久の悠でハル」
「悠かぁ、なんて呼ぼうかな」
「翼、変なあだ名とかつけないでね。…あ、そういえばその子いくつなの?」
「高校二年生って言ってたから、十七歳くらいじゃないか?」
「高校生!若いなぁ〜」
「ある意味、翼といい勝負なんじゃない?」
「ちょっとそれどういう意味?」
ムッと口を尖らせた翼に清治と要はクスクスと笑いながらその後の会話は明るく弾んでいった。
まだこの時、悠という少年が抱えた闇とそれによって家族仲が歪むことなど彼等は知る由もなかったのだ。
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