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あれから暫く経って、悠も程々に千歳家に馴染んできた頃。
毎日欠かさず通いつめていた翼だったが悠に会いに行くことですっかり頭から抜け落ちていたレポートがまだ未提出だったことに気付き、授業後学校に残っていた。
「もー最悪!レポートよりハーくんの方が大事なのに〜…」
「いいからさっさと手動かしなよ」
図書館の窓際の席でぐったりと机に突っ伏した翼の前で要は本に目を向けたまま呆れたようにそう言った。
然し翼はレポートを進める様子もなく、ボールペンをカチカチと鳴らす。
「一人で寂しくないかな〜…。連絡だけでもしておきたいけど、ハーくんスマホ持ってないんだよねー。ハーくんは要らないって言うけど…うん、やっぱり今度買ってあげよ、心配だし」
「今は人の心配より自分の心配をした方がいいんじゃない?翼」
「それもそうなんだけどさぁ〜。はぁ…漸く心を開き始めてくれたのに」
「早く終わらせれば夕方には間に合うんじゃない?まだお昼前だし」
「う…、んん〜〜〜分かった、それじゃ愛しのハーくんの為に頑張りますかっ」
翼は態とらしくそう言って目の前の課題を取り組み始める。
一度集中してしまえばレポートの進み具合は著しいものであった。
元々翼は苦労をしなくても人並みの努力でそこそこのことは器用にこなせるタイプの人間だ。
ただ面倒事が苦手な為そこまで辿り着くのに多少時間がかかってしまうのが翼の悪いところではあったのだが。
取り敢えず真面目に手を動かし始めた翼をヤレヤレと苦笑混じりに見つめ、要は再度本に視線を落とす。
すると漸く静かになったはずの翼が不意にあ、と声を漏らして要の顔を見た。
その動作につられて要も顔を上げる。
「そういえば、要はこの後なんかあるの?」
「ん?あー、強いていえば勉強かな。もうすぐテストあるから」
「じゃあもし時間に余裕ありそうならハーくんのとこ行ってあげてよ。俺も何時行けるか分かんないし」
要は、悠も子供じゃないんだから少しくらい一人でも大丈夫だよ、と言おうとして止めた。
毎日毎日通いつめている翼にとって、少しだろうがなんだろうが関係ない。
悠一人にしてしまっているというその事実こそに重きを置く必要があるのだ。
要もきっと、翼が悠と同じ状況に置かれているとしたら来るなと言われても会いに行ってしまうだろう。
要は醜悪な嫉妬心を表面に出さないようになんとか笑顔を繕って分かった、と頷いた。
それから暫くして、病院に行く前に本屋に寄って行こうと思い、要はまだレポートをやっている翼を置いて先に図書館を出た。
「…僕より悠、か」
翼と別れた要は屋外の春の空気を吸うとともにため息混じりにそんな声を漏らして、学校を後にした。
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