アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
12.
-
「ーー煩いな…ッ!だったら勝手に一人で死ねばいいでしょ!?」
病室に響き渡る声。
その瞬間、悠の声はピタリと止み泣き声すら聞こえなくなった。
息が切れるほどに叫んでハッと我に返った要が悠を見る。
悠は音も立てずに大粒の涙を零していた。
「っ…、は…」
「ーー何、してるの?」
悠に手を伸ばし掛けていた要は、その声に心臓が嫌な音を立てたのが分かった。
恐る恐る振り返った先に、今一番来て欲しくなかった人が呆然と立っていた。
「…つ、ばさ…」
翼は顔から笑みを消して驚愕に言葉が出ないようだった。
今まで一緒に生きてきた翼ですら、こんなに取り乱した要を見たことがなかったのだ。
「翼…これは…、」
なんとか弁解しようとして立ち上がった要に翼は俯きながら無言で近付く。
そして悠から遠ざけるように、要の肩を掴んで後ろ側に強く引いた。
「翼…」
要が思わず名前を呼んでも、いつものように翼が返事を返すことはなく、翼は悠の前に膝をついてその背中に手を回し優しく抱き締めた。
そっと頭を撫でながら後ろの要に漸く視線を向ける。
然しその顔は怒りとも取れる冷めきった無表情で、そんな翼の尖った表情を見た事のない要は咄嗟に身を引いていた。
「…何があったのかは知らないけど、取り敢えず要は帰って。悠の傍には俺がいるから」
「…でも、」
「ーーいいから。…早く出て行って、話はまた後で」
そう言って翼は要から目を逸らした。
こうなってしまった以上、翼の言うことを聞くしかないと思った要は素直に分かった、と頷いて病室を出る。
肩越しに二人の姿を捉えながらドアを閉め、要は壁に拳を強く打ち付けた。
「…っ…クソ…!」
これが、後に取り返しのつかない後悔を生むことになる最初の出来事だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 257