アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1.入り乱るは現
-
「翼!!」
病室に飛び込んできた要を椅子に座っていた清治が出迎えた。
ベッドの上で死んだように眠る翼の腕には沢山の管が繋がれていて、口元は酸素マスクで覆われていた。
外傷も酷く、頭や手足に巻かれた包帯やガーゼの白が痛々しいほどに目立っている。
要は歯を食いしばって翼の手を握った。
「…んで…、なんでこんな…っ」
あまりのショックに崩れ落ちそうになる要の肩を椅子から立ち上がった清治は優しく叩いた。
そして、次に父の口から出た言葉に要は目を見張る。
「翼が、悠君を庇ったんだ」
「え…、」
「通報してくれた、現場の目撃者が教えてくれたよ。突然道路側に倒れそうになった悠君を、翼が庇って…そのまま轢かれたみたいだ」
悠を庇った。
それは言い換えれば悠が翼を殺しかけたのと言っても過言ではない。
怒りのあまり震えた息を漏らした要を見て、静かに目を伏せながら再度椅子に座った清治は眠る翼の髪をそっと撫ぜる。
「幸い、命に別状はないらしい。悠がもし轢かれてたらどうなっていたのか分からないけれど、その状況でも咄嗟に受け身の姿勢を取れたんだから、流石翼だって感じだな」
清治も不安と心配でいっぱいいっぱいの筈なのに、要を安心させるためか、もしくは自分を落ち着かせるためなのか困ったように笑った。
そんな清治の姿に要もいつもの冷静さを取り戻そうと目を閉じて深呼吸をして口を開く。
「…悠は」
「悠君はあの後高熱のせいで意識が混濁してしまっていてかなり危険な状態だったんだが、今は薬のお陰で眠ってる」
「…そう」
要はただその事実に対する返答をして、それっきり黙り込んだ。
この時、要の顔を見ていなかった清治は気付かなかったであろう。
要が胸の奥に静かに蓄積させた、明らかな嫌悪と憤りを。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
40 / 257