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8.
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研究室の扉を勢い良く押し開けると実験台の前に立っていたミギナが驚いたようにセレンを目をやった。
「なんだセレン。ノックも無しに…何かあったのか」
ミギナは手に持っていた鋭く光る金属を一度台の上に置いて少しばかり身を引いた。
その時、ミギナの身体で隠れて見えなかった実験台の上に肌が剥き出しの足のような物が見えてセレンは鋭く息を飲む。
「っ…メイア…!」
セレンはミギナを押し退けるようにして実験台の前に躍り出るとその姿を目に映してーー絶句した。
身体を纏う一切の布を取り払われた裸体は申し訳程度の薄い布が一枚だけ掛けられ無防備に実験台の上に寝かされていて、昨夜見た傷の全てが顕にされている。
頭や腕には複数の管が繋がれていて、目は閉じられたまま指先一つ動く気配が無い。
「…っ、主…一体彼に何をしたんですか」
「なに、身体の機能を停止させただけだ。昨日お前も言っていただろう、こいつの身身体はもう限界だと。今メイアの記憶をデータ化してこちらに転送しているところだ。それが終わり次第、その個体は処分して新しい物に引き継がせる」
「…今までも、ずっとこんなことを…?」
信じられない、というふうにセレンが問い掛けるとミギナは呆れたように態とらしい溜息をついて回転椅子に腰掛けた。
「…セレン、お前は余程そいつを気に入ったようだな。だがな、何度も言うように所詮メイアは実験体に過ぎない。お前の人間らしい面が見れて研究としては成功だが、こうも反抗心を剥き出しにされると一度リミッターをかける必要が出て来てしまう。それは私もあまり望ましくはないのだがな」
「…リミッター?」
「制御するんだ。主には感情のコントロール、メイアがいい例だろう。怒り、憎しみ、悲しみ、恐怖心、反抗心、その全てを取り払っている。尤も、こいつの場合リミッターを掛けていない感情まで自分で勝手にセーブし始めた所為で、かなり感情の乏しい人形になってしまったわけだが」
なんでもないようにそうスラスラと話すミギナにセレンは怒りのあまり拳を握りしめて小刻みに震わせる。
軋む音がする程歯を強く食いしばりミギナを睨み上げた。
自分はこんな非人道的な研究によって生まれた存在なのだということに酷くショックを受けた。
間接的とはいえ自分がメイアを傷付けてしまったことは変えられない事実だ。
セレンがこの世に生まれてこれたのは紛れも無く、メイアとそしてこのミギナという人形師の尽力あってこそである。
そしてセレンはそんな自分という存在にも無性に腹が立って仕方がなかった。
然し、セレンにメイアを直す術は何一つ無い。
ここでセレンがいくら反抗したところで、メイアが元に戻るわけでは無く、今までの惨い事実を消し去ることが出来るわけでもないのだ。
メイアはもうこの世から消えることを望んでいるのだろうか。
それとも、本当の人間のようにして穏やかな日常を送っていたいのか、セレンが軽々しく判断することは出来なかった。
「…分かりました」
セレンは苦虫を噛み潰したような表情で躊躇い気味に後ろに下がって目を伏せる。
賢明な判断だ、とほくそ笑むミギナに何も言い返すことが出来ない自分が憎くて堪らなかった。
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