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千尋の家は薬屋で父親は街でも有名な医者兼薬剤師だ。
その日も午後からお客が来るから行儀良くしていろと言われた千尋が剣の稽古でもしていようと外に向かうと、玄関口に同じ年頃の少年が立っていた。
少年は庭先から出てきた千尋を見て唐突に剣は得意?と聞いてきた。
彼の挑発的な言い方に火がついた千尋は、剣の腕にはかなりの自信があり自分に勝負を挑んできたことを後悔させてやろうとその勝負を受けーー見事に惨敗した。
千尋は彼に全く歯が立たず、人を小馬鹿にするような綺麗な顔に酷く腹が立ち何度も勝負を挑んで父親にこっ酷く叱られてしまった。
その彼こそが一千花である。
元々客として来ていた一千花はニコリと笑って、薬待ちの空き時間のいい暇潰しになったとサラリと言ってみせた。
それを見た千尋は更に顔を顰め、此奴は嫌いだと確信してしまった訳だが。
それから数ヶ月、一千花は定期的に薬を貰いに来るようになった。
なんでも長年通っていた薬屋の店主が亡くなってしまったらしい。
一千花は寂しそうに笑いながらそう言っていた。
そんなこんなで度々来るようになった一千花を父も母も歓迎し、千尋の弟妹も一千花に良く懐いた。
一千花が来ることを望んでいないのは千尋ただ一人である。
千尋は呆れたように溜息をつきながら玄関に置いた木刀を手に外に出ると母に呼び止められた。
「ちょっと、千尋どこに行くの?」
「友達の道場で木刀振ってくる」
「待ちなさい千尋、今日は稽古しないで、薬の処方と診察終わったら一千花君お家まで送ってあげなさい」
「なんでだよ。別に俺アイツの友達でもなんでもないんだけど」
「なぁに言ってるの。一千花君、今日あんまり元気なさそうだったから心配なのよ」
「はぁ…なんで俺なんだよ」
「あんたしかいないでしょうに。お願いね」
そう強引に押し付けられてしまえば、千尋はもう頷くしかなかった。
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