アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
7.
-
その日から、一千花は千尋の家に来なくなった。
その代わり父が診察具と薬の入った鞄を持って何処かに出掛けることが頻繁になり、家に父がいないことが増えた。
陸や桜は一千花が来ないことに痺れを切らしているようだったが、千尋は一千花が来なくなってより一層稽古に打ち込むようになっていた。
そんなある日、稽古中に怪我をしてしまった千尋が父の部屋に向かって歩いていると、部屋の中から父と母の話し声が聞こえて千尋は思わず身を隠し耳を澄ませる。
「あなた…一千花君は大丈夫なの?」
「…今は何とも言えんな…。両親は多忙で殆どあの子の傍にいてやれていないみたいだからな…、何かあった時女中だけでは心配だ。また明日、様子を見てくる」
「そうね、私も心配だわ。陸や桜も、一千花君まだ来ないのって最近そればかりなのよ。最後に来た時もあまり顔色が良くなかったから…」
「あの子達も随分彼に懐いたな。一千花君にとって辛いことかもしれないが、今は病状が回復することを祈って、治療に専念してもらおう」
「ええ、そうして下さい」
二人の会話を聞いた千尋は足音を立てないようにそっとその場を後にした。
自室に戻り、畳の上に寝転がった千尋は腫れてきてしまった腕をぼんやりと見つめながら先程の会話を頭の中で反芻していた。
体調を崩しやすいということは以前母から聞いていたがそんなに酷いものなのだろうかと考える。
薬を受け取りに来る一千花の顔を何度思い出しても病人のようには感じられなかった。
憎たらしい笑みを浮かべる顔も、刀を振る時の真剣な眼差しも、陸や桜と遊ぶ時の穏やかな表情も、全てが自然でとても無理をしているようには思えない。
そして現に千尋は一千花との勝負に一度も勝ったことがなかった。
病人相手に劣るほど千尋は弱くない。
きっと風邪を拗らせているだけなのだろうと思いながら目を閉じた千尋だったが、その後もずっと一千花のことが頭から離れることは無かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
91 / 257