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第3章 引越し
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「ジェボミヒョン、いい部屋見つかった?」
「ん、」
キッチンで水を飲んでいたら、ジニョンに声を掛けられた。俺の返事に目を丸くする。
「え、もう決めたの?」
「うん」
「引越しの日も?」
「うん」
「はやっ、決めたら速いよね。さすが」
「そうかな」
「うん、家賃節約するとか言ってたのに。僕ら全員が出るまで、ヒョンはいるのかなと思ってたよ」
「まー、タイミング。ちょうどいい物件あったし」
「タイミングね」
ジニョンが噛み締めるように言うから、なにか言いたいことがあるのかって、気になる。
「なに?」
「ううん、なんでもない」
「あの本棚、置いてくから」
「え、そうなの? まあ、そうなるか」
「使えそうだったら、ジニョンイが引っ越す時に持っていけばいいよ」
「うん、分かった、ありがと」
リビングにある、ジニョンとふたりでお金を出し合って買った大きな本棚。新しい部屋には大きすぎる気がする。
「もうふたりには話したの?」
「ああ、引越しの話は練習の時しただろ」
「うん、僕も知ってるから、ふたりも知ってるだろうけど。それでも、ちゃんといつ出て行くとかそういうこと、話したほうがいいよ」
「あ、うん、そうだな」
少し前、チームで集まって話してる時に、部屋を探してることが話題になった。だから俺が宿舎を出るつもりってことは、ユギョムもマクも知ってるだろうし。
そんなふうに軽く考えていたけど。
ジニョンに窘めるような口調で言われて。
たしかに、一緒に暮らしている仲間として、そういう話はきちんと、するべきだったか、って、思う。
ジニョンはときどき、年下なのにヒョンみたいになる。
「心構えがいるよ」
「え? なんの」
「ヒョンが出て行っちゃうんだから、寂しいでしょ」
「え? なんかちょっと、今のすごいよかったから、もう一回言って」
ほんとにそう思ったから言ったのに、ジニョンは思いっきり顔をしかめて首を振った。
「とにかく、僕よりも先にちゃんと伝えるべき人がいるんじゃないの?」
「えっ」
さっきの甘い言葉とは打って変わって、急に鋭い口調で言われて、言葉に詰まった。
胸がギュッと掴まれたみたいに。
「放ったまま行かないでよ? なんか後が面倒そうだから」
ジニョンはそう言って肩を竦めると、キッチンを出て行った。
俺はボーッと立ち尽くすしかなかった。
ジニョンは、なにもかも知ってるんじゃないか、って。突然ハッとした。
きっとさっきのも、ジニョンの気持ちを話した訳じゃないんだ。
面倒そうって……なにが、じゃない……だれが。
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