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5 《一時》
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《一時》
「一時(いちじ)先輩!上がりですかー?」
俺の眉が、ぴくりと動く。
「…何度も言ってるな?
俺の名前は、一時(かずとき)だ!!」
「えーー?
でも、紛らわしい名前…。
いっそ、いちじに改名した方が良くないですか?」
「そんなの出来るかっ!!じゃあな!」
「お疲れさまでした!いちじ先輩!!」
疲れた…。
莫迦な後輩のせいで、どっと疲れた…!
いや、紛らわしい名前だとは、俺も思う。
何度、この名前のせいで、笑いものになった事か…。
でもな…。
親から貰った名前変える気はないしな…。
疲れて帰って、いざ、食事!
と思ったら、材料がなんもねー!
しょうがない、カップラーメンでも…と思ったけど、それもねー!
と、いうわけで、遅くにスーパーに走った。
遅くに行くスーパーは、値引き合戦で、我先にちょっとでもいい物を買おうと、血眼になってる。
だから、来たくなかったんだよ…。
早々に、戦線離脱してカップラーメン2つをカゴに入れて、レジに並んだ。
レジで見てると、肉の値引きシールを貼って行く間から、どんどん手が伸びる。
あれ?
主婦の戦場に、一人、子どもがいる?
少女?
カゴを持って、ウロウロしては押し除けられて…?観てる方がイライラするほど、鈍臭い。
がんばれ!
あ、やっと肉掴んだ!
やった!
と、思ったら、同じようにウロウロしてるおばあさんを見つけて…迷ったけど肉を渡した??
おばあさんは、肉を引ったくって取り、次の物を買いに行った。
なにしてるんだ?!
ようやくゲットしたのに!!
でも、怒りもせず、子どもはニコニコして、肉取り合戦に、また参加したが、とうとう手に入れることはなかった……。
次の戦場は、魚だ。
またウロウロして、押し除けられて…!
くぅー、イライラする!
俺は、レジを離れ、魚売り場に行って、値引きシールついたのをゲットした。
「ほら!」
子どもは、一瞬キョトンとしたが、あたふたと狼狽る。
小学生高学年か?
「えっと…僕に…?」
「そう!他に買いたいもんは?」
「え…と…大根…半分と…ほうれん草…。」
手早くカゴに入れて、2人でレジに並ぶ。
「…あの…えっと…ありがとうございました。」
会計を済ませて店を出ると、子どもは深々とお辞儀をした。
うん、子どもにしては、なかなか行儀が良い。
よくよく見れば、男の子、だ。
「どういたしまして。
お母さんのお使いか?偉いな。」
「あ…いいえ。」
ニコニコ、笑って言う。
え?
ま…深く突っ込まないでおこう、うん。
これから先、会う事もないだろうからな。
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