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「あの!」
然し、彼が蒼司の声に気が付くことはなく、どんどん距離が開いてしまう。
スマホを落として気付かないってどれだけ鈍いんだと思いつつ蒼司はすみません、と周囲の人に謝りながら人の間を縫って漸く追いついた少年の肩をトン、と叩いた。
すると少年の肩が大袈裟に震え、咄嗟に振り向いて視界に捉えた容姿に不覚にもドキリとする。
白く透き通った肌に一度も染めたことがないのであろう黒髪、小さな顔には長い睫毛に縁取られたアーモンド型の大きな双眸と、小さく高い鼻、そして小ぶりな桜色の唇がついていて、どこか怯えるような表情をしていた。
華奢な身体つきだが、身長は程々にあり百七十九センチの蒼司の鼻下位までの身長で、男であることに間違いはないようだった。
思わずそう思いながら見つめていると、あの、と少年の横から低い声が聞こえ蒼司はハッと我に返る。
「…何か?」
声の主は蒼司より少しばかり背が高く、黒のキャップを被り背中にはギターケースを背負っていた。
青年は少年を守るように腕を伸ばして蒼司との間に割ってはいると訝しげな視線を送ってきて、蒼司は慌てて口を開く。
「あ…、すみません。これ、落としませんでしたか?」
そう言ってスマホを差し出すと青年はあっ、という顔をして、先程までの表情とは打って変わって申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません、こいつのです」
こいつ、ということは矢張りこの少年の物だったのだろう。
少年は怯えたような表情から、今は慌てたようにズボンのポケット等を叩くと困ったように肩を竦めた。
そんな少年を見て青年は溜息をつきながら、少しばかり腰を折って少年の耳元に口を寄せる。
「ったく…だからちゃんとしまっとけって言っただろ?…ホントありがとうございます、助かりました」
「あぁ、いえ」
青年は蒼司から受け取ったスマホを少年に渡すと、少年はもう離さないよ、という意思表示をするかのように胸の前でギュッと握り締める。
そんな少年の頭を青年は優しく撫でて、仕方ないと呆れたように笑った。
その様子が少しばかり微笑ましくて思わず笑うと、少年は恥ずかしそうにはにかんでこちらを見た。
するとほんの僅かに唇が震えて小さく口が開かれる。
「…ありがと…、ございます」
開けられた口の大きさ通りの小さく、微かな声は少し特徴的なテノールで、蒼司の鼓膜を揺らしやけにハッキリと聞こえた。
呆然とする蒼司に彼らは小さく会釈をしてその場から立ち去っていく。
蒼司は呆気にとられたまま、暫くの間そこから動くことが出来なかった。
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