アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4.
-
ーー結局、駅周辺を流離っていたらいつの間にか開場時間間近となり、蒼司は言われた通りに最前列を陣取った。
かなり余裕を持って来たものの熱狂的なファン達が会場前に既に列を作っていて驚いたが、何とか会場入りすることが出来たことを友人に連絡する。
多少の事前情報はあった方がいいだろう、とスマホで"Mental connection"と検索しブログ等の書き込みを辿っていく。
そこで得た情報は、まず友人から聞いていた通り一斉を風靡する実力派のインディーズバンドだということ。
もう一つはバンドマン達の顔面偏差値が異様に高く、平均年齢二十一歳のメンバーはアイドル的な意味でも推せる要素があるということ。
そして、ボーカルがまだ十七歳の高校生でファンの間では『喋らない天才ボーカリスト』と呼ばれているということだった。
喋らない、とは一体どういうことなのだろうと蒼司は首を傾げる。
ライブといったらバンドマン達が客を煽り、掛け声で盛り上げていくのが主流だという偏見があったのだが、もしかしたらしっとりバラード系のバンドなのだろうか。
然し、いくらバラードが主体のバンドだったとしてもボーカルが一言も発しないというのはどうなのだろう。
ただ寡黙ということをオーバーに言っているだけなのかもしれない、と他のブログにも手をつけてみるがどうやら本当に歌以外に声を発したことは今までに一度もないという。
それに加え、他のメンバーは顔を晒しているのにも関わらず、そのボーカルの彼はいつもキャップを目深に被りその上を黒のパーカーのフードで覆っていた。
更に長めの前髪で目元が隠れている為ライブ会場の眩い光の中では殆ど判別がつかないらしい。
なのでSNS上では、声の綺麗さから顔も絶対美人系と言い張る者や、実は顔は普通で周りのメンバーがイケメン過ぎるから隠蔽している、まだ高校生だから変なストーカーとかついたり、学校で騒がれたりしないように隠してる、等と言いたい放題だ。
本人達の公式アカウントでライブ後のオフショット等にボーカルの彼らしき人物は写ってはいるが、どれもマスクをつけていて他のメンバーに隠れるように写っている。
単純に顔を晒したくないからという理由なら簡単だが、どうもそれ以外の理由が何かあるような気がしてならなかった。
基本的な情報に戻るが、"Mental connection"は"精神に直接語り掛ける音楽"ということを主柱に、ボーカルのケイ、ギターのチハヤ、ベースのヤト、ドラムのユウ、この四人で構成されたバンドである。
本名は公開しておらず、ベースのヤトという青年は元々違うバンドのボーカルを担当していたらしく、他のメンバーより認知度が高いように見て取れた。
ドラムのユウは全くの音楽未経験者だが、大学までスポーツをやっていたおかげもあってメンバーの中では一番背が高く体格もいい。
ギターのチハヤという青年がリーダーらしいが、誠実そうな彼の顔にどこか見覚えがある気がして蒼司は首を傾げる。
ーーこの顔どこかで…。
妙な既視感を感じているといつの間にか会場内に人が密集し始めて、もうすぐライブが始まることを分かりやすく示していた。
最前列だからこそ、周囲の人間の本気度が明らかに違い、ちょっと暇潰し程度に来てみましたみたいな自分の場違い感が拭いきれず少しばかり居心地の悪さを感じる。
出演者と知り合いならまだしも、ハッキリ言って今さっき漸くバンドメンバーの顔と名前が分かった程度の知識しかない自分がこの場にいることに引け目しかなかった。
然しながら、始まる前の高揚感と何とも言えぬ熱気にあてられて自分も何だか心拍が上がっていくのを感じながら、蒼司は今か今かとその瞬間を待ち侘びる。
そして開演時間、会場の電気が全て消えステージの明かりがつくと裏の上手からギターを肩にかけたリーダーのチハヤを先頭に、ミヤとユウ、そして謎多き少年、ケイがステージに上がってきた。
途端に会場内の空気が変わったのが背中越しに分かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 19