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夢を見に行く
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「なあ、行って大丈夫なのか?」
「もうここまで来てんだ、お前だってたまにはいい夢見たいだろ」
昔馴染みが少し前を悠々と歩きながらケラケラと笑った。いつもより少し洒落た着物が夜の闇に揺れる。
「でもやっぱり、梅に悪くないかね」
頭の隅に恋人の顔が浮かんでは消えていく。妻帯者だってここには多くいるのだろうが、やはりどこか良心が痛む。
「お前なあ......たまには良いんだよ、たまには。いつもしけたツラしてるんだ、たまには思うがままに楽しんでみろよ」
しけたツラ......確かに俺はいつもどこか冷めていると色んな奴に言われてきた。梅との仲だって気がついたらそうなっていただけで、周りのような熱い恋心なんて持ち合わせていない。
そのせいか梅からもよく「あんたは他の男衆みたいに熱がない」と嫌味を言われている。
だが、これで良いとも俺は思っていた。悪いことではない。諍いもなく結婚し、子をもうける。平坦で安寧、欲を出さなきゃそこそこの人生を送れる。
そんなことを思いながら道を進んでいると、突然友人が目の前で立ち止まった。危うくぶつかりそうになりながら俺もすんでのところで立ち止まる。
何事かと思い顔上げると、目の前に五尺八寸は優に超えていそうな大男が立ちはだかっていた。
大男は物凄い形相で友人を睨みつけている。対する友人はというと、首を傾げつつ怯えたような瞳で男を見つめている。全く心当たりがなさそうな顔だ。
しばらく膠着状態が続いたが、痺れを切らしたのか大男がゆっくりと口を開いた。
「お前ぇよお、俺の女に手を出したろう!」
友人はますます不思議そうに首を傾げる。何を言われているか理解が出来ていないようだった。
昔からそういう奴だった、自分の行動をいまいち覚えていない。まるでダメな奴。
だがそれでも友人なのだ。助けぬわけにはいかなかった。
「すまないが、傾城に所有者はあるのか?貴方は一介のお客とは違うのか?」
俺がそう問うと、男はぎろりと俺の方を睨みつけ、怒鳴り始めた。喧嘩の相手は俺に変わってしまったらしい。
「五月蝿えよ!あいつが俺だけだって言ったんだ!だから俺ぁ特別な男なんだよ!あいつの特別なんだ!」
勢いづいたのか、むなぐらに手が伸ばされ締め上げられる。どうもこの男は傾城の世辞の言葉を馬鹿正直に信じているらしい。
遊郭に詳しくない俺でもわかる。そんなのは嘘だ。上客を繋いでおくための方便だ。
そう思ったが、首を絞められて話すのは愚か、息さえまともに吸えない。このままでは死にかねない。
周りの人間に視線をやるが、皆俯いて足早に通り過ぎて行ってしまう。面倒事には関わりたくないということか。
はてどうしたものか、と思っていると何処からかしゃなりしゃなりと鈴の音が聞こえてきた。
「あれ、何事ですか?」
鈴の音と共に、これまた鈴を転がしたようなゆったりとした耳に心地よい声がした。
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