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大谷君③
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俺が……永瀬君の愛人だって!?
「屋上で話聞いてたなら分かるだろ。葵唯は僕の愛人なの」
「恋人じゃ……」
「違うよ。お互いの利害が一致しているから付き合っている、けど葵唯は愛人であって恋人ではない。
どうだい? 大谷君、君も僕のハーレムに入ってよ」
イチモツを尻穴に埋められたままのあられもない姿だというのに、何故そんな自信満々に話せるのか。恥ずかしくないのだろうか。
話が突飛すぎて、最早どうでもいいところに目がいった。
「い、嫌だ。俺はお前らに学校でそういう事して欲しくないだけだ。学校でしないなら口出しはしない」
「だーかーらー、そのうるさい口を閉じるには共犯にしちゃった方が早いだろ?」
「なっ──! 悪いが、俺にそういう趣味はない!
なにより気持ちが悪い。他の男のイチモツを入れたところに入れるなんて、考えただけで嫌悪する。
俺は将来ただ一人と決めた相手としかしない主義だ!」
「あーそう。じゃあ話は平行線だね。戻っていいよ、これ以上邪魔するようなら、僕……大谷君の事苛めちゃうかもね」
反論が出来ない。
嫌悪感から逃げ出したくなった。ここで逃げたら俺の負けだ、分かっているのに永瀬君に従ってしまう自分がいる。
不思議と彼のものになってしまえば安心出来るだろうと思わせる何かがあった。
結局、俺は何も言えずに教室へ戻ったのだった。
それから俺は彼らに口出しする事が出来なくなった。諦めの境地というやつだ。
世の中にはどうにもならない事があるのだと学んだ。父さんが言っていたが「世の中理不尽な事ばかり」なのだそうだ。
俺は理不尽な目に遭った事がない。
真面目に生きてきて、両親から愛されて信頼されて期待されて育ってきた。
期待に応えるのが辛いと思った事もない。
学業成績が上がれば褒められたし、先生からの信頼も得られた。
今はクラスの友人には無視されてしまっているが、友達も多い方だ。彼らが無視をしているのは自分を守る為だ、俺はそれを非難しようとは思わない。
そんな思いをしてでも俺は永瀬君を救いたいと思ったんだ。
それもただの空回りでしかなかったが。
俺は、もしかしたら、永瀬君に惹かれているのかもしれない。
儚げでいつ消えてしまうか分からないような、雪のような君。あんなに犯されて汚れているのに綺麗で、美しい。
初めて見た時から胸が騒がしいのだ。
『へぇ……君って、正しい事が本当に正しいと信じているんだね。世の中、理不尽な事ばかりなのにね』
そう言っていた永瀬君は切なそうだった。悲しそうだった。
きっと俺が経験した事のない「理不尽」に苦しんだ事があるのだろう。
もう俺は彼らに何も言えない。
幸せに育ってきた、永瀬君の闇を一緒に抱える事の出来ない俺には権利など最初からなかったのだから──。
それから数日経ち、俺が小倉君達に歯向かわないと安心したクラスメイト達がまた前と同じように友達に戻ってくれた。
今はこの幸せを大事にしようと思えた。
放課後は皆でファストフード店に立ち寄った。くだらない話ばかりしていた。楽しい時間だった。
四人で街を歩く、帰って宿題するのだりぃな
なんて言いながら……。
「この子、ナガセリク君っていうの」
「へぇ〜可愛い子捕まえたじゃん」
路地裏から一瞬そんな声が聞こえた。
聞き間違えとは思えなかった、ハッキリと聞こえていた。ナガセリク……永瀬莉紅……。俺は立ち止まった。
「大谷君?」
「……ごめん。用事を思い出した、先に帰ってくれ」
俺は友達を置いて走り出した。路地裏の道へ向かって。
二人の男が呑気そうに歩いていた。
一人はスキンヘッドのいかにもヤンキーに見えるパーカー姿の男で、もう一人は汚らしい金髪で、耳にピアスが沢山付いている。
「半年前かなぁ、拉致ってマワしたんだよ。写真撮ったから口止めしてあるし、良いケツ穴だったからまた拉致ろうかと思ってさ、お前も来る?」
「行く行く!」
男が持っているスマホの画面には、本気で嫌がって泣いている永瀬君が裸で精液塗れになった状態で写っていた。
……そりゃ理不尽だ。コイツのせいか。
コイツのせいで、永瀬君は時折悲しそうな顔を見せるのだ。
後ろから不意打ちなんて卑怯だとも思わなくもなかったが、俺は思い切り助走をつけ、ハゲ野郎の肩を掴んで振り向かせるとストレートパンチを食らわせた。
ボキィと鈍い音がした。拳には相手の歯が砕けた感触。気持ち悪さと他人を殴った嫌悪感で胸が痛い。
だがこんな痛み、永瀬君の痛みと比べれば些細な事だ。
俺は地面に倒れたハゲからスマホを奪い取ると、
「ハァァァァァァアアアアア!!」
と、瓦割りをする要領でソイツを拳で壊した。
永瀬君を苦しめているであろうデータ。スマホやSDカードを壊しても意味は無い。今はほぼクラウドサービスでインターネットに残ってしまっている場合が多いだろう。
けれど、永瀬君を苦しめる原因となるものを、見過ごせなかった。
「お、おいテメェ!!」
戸惑っていた金髪は事の事態を受け止めると、俺にパンチを食らわせようと向かってきた。
遅い、力がこもっていない、フォームが歪んでいる。
素人同士の喧嘩ならそれで済むだろうが、そんな攻撃は俺には効かない。
左脚を軸に、相手の腹部に上段蹴りを食らわせた後、倒れた金髪の背中にかかと落としを決めた。
「今後永瀬君に近付いたらタダじゃおかねぇ。次があれば本気で迎え撃つ! それと、画像きちんと消しとけよ」
俺はそう告げると、その場から立ち去った。
警察に……と考えなくもなかったが、永瀬君の将来を考えた。知られて困るのは彼だ。
いつだって傷付くのは被害者の方なのだ。
何も悪い事はしていないのに、何故苦しまなければならない。
今もまだ苦しみの中にいる。
小倉君ならばきっと癒せるのだろう。永瀬君が彼に向ける表情はいつも優しい。
愛人だとか、望むものを提供しているとか言っていたが、本心ではないと俺は信じている。
「あー、素人相手にしちゃマズイのにやっちまったなぁ……」
いつもだったら、俺は罪を認めて罰を受ける覚悟をした。けれど、俺が暴行したとバレてしまうと迷惑がかかるのは永瀬君だ。
制服は半袖シャツとスラックスで、鞄は脇に置いてきたから学校の特定はされないと信じたい。
これから俺がする覚悟は、自分の罪を背負って生きる事だ。永瀬君の為という大義名分はあれど、彼のせいではない。それだけは胸に刻まなければならない。
自分の意思でそうしたのだと。
俺は放置していた鞄を拾うと何事もなかったかのように帰宅した。
けれど、夜一人になるとどうしても永瀬君の事を考えてしまう。彼の苦しみを思うと、自分まで辛く感じた。
「胸が痛い。永瀬君の方がもっと痛かっただろうに……」
翌日の昼休み、何故か俺はまた永瀬君に呼び出された。
小倉君も含め、三人で屋上にいる。
「大谷君、昨日はありがとう」
まず頭を下げたのは永瀬君だった。小倉君も何故か一緒に頭を下げている。
「え、何が? どうしたんだ、二人とも」
「昨日さ、僕アイツらに呼び出されてたんだ……写真で脅されるのもしんどくて、戦う準備をして葵唯連れて行ったんだよ。でも、大谷君が僕を救ってくれた」
「大谷、ずっと莉紅も俺もアイツらが不安の種だったんだ。
本当は俺ら高校は別々の学校に進学する予定だったんだけど、あんな事があって……俺も一緒に戦うつもりで同じ学校にしたんだ」
進路調査表を破ったというエピソードはそこに繋がるのだ。俺は唖然とした。
そして、成敗したところを見られていたとは。なんとも恥ずかしい……。
「ずっと怖かった。葵唯がいつも俺の事慰めてくれてて。でもそれでも不安で仕方なくて。
でも昨日、あの後ようやく解放されたよ。アイツらに今後俺に関わらないって約束させた」
「そ、そうだったんだ……」
永瀬君は今までに見せた事のない、安心した微笑みを俺に向けていた。その笑顔は何物にも変え難い宝石のようであり、美しい花のようでもあった。
俺はきっと永瀬君に恋をしていたのだろう。けれど、それはすぐに失恋に変わる。
俺が助けたのに……なんて思わないさ。それで俺が初めて好きになった人が安心して生活出来るなら、それが一番だ。
胸の痛みなんか大した事じゃないだろ?
「じゃあもう学校で複数プレイとかしなくて済みそうかな?」
これで安心だ。と思ったのだが。
「…………え? すぐやめられるわけないじゃん」
ん? 勝手な想像だが、永瀬君は不安を振り払う為にあんな事をしていたのではないのか?
にしてもあんな事をされたのにトラウマになってはいないのだろうか?
「アイツらにヤラれたお陰で体が疼いて仕方ないの。それに、あれはお遊びだよ。大谷君には僕の愛人になってもらいたいなぁ」
不安がなくなったのだろう、ニコニコと楽しそうな笑顔で永瀬君が誘ってきている。それに関して小倉君はなんとも思っていないのか、傍観している。
「いやいや、だって小倉君だって嫌だろ? 君は永瀬君が好きなんじゃないのか?」
「……だって、俺……寝取られ趣味あるから」
と、照れているのか頬を人差し指で掻きながら答えた。永瀬君も「利害の一致だよ」と言っている。
そんな趣味知りたくなかったよ!
「だとしても、断る!!」
そして俺の初恋は、多分終わった……と思う。
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