アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
大谷君⑤
-
「えっと、それは……うちの親に俺が莉紅の愛人だって言うって事?」
佐々木君が一番動揺しているのではないか。
きっとお母さんには話していないだろうし、想定外の提案に違いない。
「そうだよ。全部包み隠さずに言うつもり」
「俺、お母さんに莉紅との事話してないよ」
「それはなんで?」
「なんでって……」
表情だけでなく、声でも困惑していると分かる。失礼だけど永瀬君って常識ない人なのか? と思えた。
「皆が言えない理由はなんとなく分かるよ。でもさ、なんで隠すんだろうね。和秋のお母さんの性格は知らないけど、反対されると思った? 怒られると思った? 嫌がられると思った? それとも言う必要ないと思った?
ねぇ、どうして言ってないの?」
「それは世間的に見て間違った事をしている自覚があるからだよ。俺は莉紅の愛人になって後悔してない、でも普通じゃないでしょ。
人は普通じゃない事を忌避しがちだ。俺のお母さんがどういう反応をするかは予想出来ない、だから言えない。分かった?」
無茶振りと思えた永瀬君の問いに、佐々木君は明確な答えを出した。
普段は不良グループにいるとはいえ大人しい佐々木君だけど、結構理論的なんだなぁ。
「和秋の意見は分かった。次は僕の気持ちを正直に話すね。
僕は君や、勿論葵唯と夏希の事を将来の事も見据えて付き合っているつもりだ。
でもいつかは、他に好きな人が出来たり、結婚とか様々な要因で僕の元を去る日が来ると思うんだ。その時は、君の幸せを第一に考えて行動すると約束する。
でも、和秋がお母さんに僕との事を言わなければならなくなった時や、言いたくなった時、僕はいつでも君のお母さんに挨拶に行く覚悟があるって事を忘れないでね」
佐々木君は泣きそうな顔をして、永瀬君に抱きついた。好きな人にそこまで言われて嬉しくない人はいない。
今の言葉を言われたのが俺だったら……そう考えると悔しくなる。
俺は全てを間違えていた。
愛人なんてすぐに別れるだろう、いつかはバラバラになるだろう、俺が説得して目を覚まさせないと、ってずっと思っていた。
自分が永瀬君の恋人になる事しか考えていなかった。
永瀬君を止められない。俺には無理だ。
そこまでの覚悟をもって愛人を作っている人に、愛人を捨てて俺と付き合えなどと誰が言える?
「莉紅、ありがとう。俺は一生莉紅から離れる事はない。愛してるからね。
でもお母さんにいうかどうかは、まだ悩ませて欲しい。いつか、絶対に莉紅の事を話すから」
幸せそうに笑う佐々木君は永瀬君に手を振って「明日そっち行く」と言い、俺にも笑顔を向けて「またね〜」と言って去っていった。
俺は今日、告白しようと思っていた。
でも、出来ない。もう出来ない。今の永瀬君の言葉を聞いているのに告白なんかする奴は、自己中以外の何者でもない。
「さて、映画館行こっか。見たいのってサイコホラー系なんだけど、大谷君は……。
──大谷君?」
「あのさ、さっき愛人達との将来を見据えてるって言ってたじゃん。それって何年後までを見てるの?」
答え次第では、入る余地があると思った。
俺は今日告白すると決めていた。そんな事する奴は、ただの自分勝手で無神経な馬鹿だ。
「勿論、死ぬまで」
「皆いなくなるよ? 学校出てバラバラになって、それぞれの世界で永瀬君以外に好きな人が出来て、いつか一人になるよ?」
何言ってるんだ俺は。やめてくれ、これ以上変な事を言わないでくれ。
永瀬君は、そんな問いにも真っ直ぐの目で答えた。
「ま、その時はまた新しい愛人でも作るよ」
「彼氏は作らないの?」
「うん。彼氏は永久欠番がいるからね」
「えっ彼氏いるのか!?」
そう聞くと、永瀬君はフッと顔を暗くした。寂しそうな顔だ。聞いちゃいけない事だったか?
「ご、ごめん……デリカシーなかった」
「ううん。僕の彼氏さ、二年前に死んじゃってね」
「ごめんっ」
「うん、彼氏の話は……ごめん」
どんどん暗くなっていく。
愛人ばかり増やしている理由は地雷だったんだ。本当、俺はデリカシーない上に自己中で最悪だ。
どうしよう、どうしよう。
「本当に悪かった。ごめん、許して。あ、そうだっ! え、映画奢るよ。だから、ね?」
「あははっ、必死な顔して面白いの。やった大谷君の奢りだ〜」
「なっ、永瀬君!」
「あはははっ」
永瀬君は明るい笑顔で両手を挙げて万歳している。
暗くなったのは勘違いだったのかな、それか俺を困らせる演技?
それから俺は映画館で二人分の料金を払って映画を観た。まぁ昼ご飯奢ってもらったしお互い様だなって。
映画のジャンルはサイコホラーで、所々驚かされるシーンはあったけれど、まぁまぁ面白かった。永瀬君は猟奇殺人のグロシーンが一番良かった、とか言っててなんか怖かったけど。
「今日はありがとね!」
「ああ。次会うのは二学期かな」
「そうだね。大谷君、僕君の事愛人にしたい気持ち消えてないから、二学期は覚悟しててね」
「……なんで俺? 他にも永瀬君の愛人になりたい人いそうじゃないか?」
「今のところはいないかな。そもそも僕の愛人になるのは条件があるんだよ。でもね、大谷君はその条件満たしてないんだ」
でも愛人にしたい、と通常通りの笑顔を見せた。何考えてるか分からない笑顔。
「条件に合ってないなら余計気になるね」
「きっかけは二ヶ月前の事かな。
君は、なんのメリットにもならないのに僕を救ってくれた。それで好きになっちゃったって言って信じて貰えないかな?」
二ヶ月前、俺は永瀬君を脅していた不良達を殴った。殴ってしまった。
永瀬君の為だから誇らしく思いたいが、まだ殴ってしまった感触が拳に残っている。
ずっと空手をしてきたけれど、あんな無抵抗の相手を後ろから不意打ちで殴った事は今までなかった。
本当に殴る事でしか解決出来なかったのか。
その件で永瀬君は救われたと礼をしてきた。永瀬君が救われたなら少しでも意味はあったのだろう。罪を背負うと決意してやった事だ。後悔はしていない。
「あんな事で?」
「僕からしたら大きい事だよ。さっき大谷君は僕がいつかは一人になるって言ったでしょ?
僕もその日がいつか来ると思ってる。その時、きっと大谷君は僕の元に留まってくれるでしょ?」
「なっ……えっ? そんなの、その時になってみないと……」
「分かるよ。君は真っ直ぐで、僕を裏切らない。そして、僕の事を好きでいてくれているでしょ?
君は僕の恋人になりたいんだ。愛人になりたい人とは違う」
バレてた!? 俺の気持ち。永瀬君への気持ちを知られていた?
肯定も否定も出来ない。このままでは肯定と受け取られてしまう。
「バレバレだよ。大谷君、いつも学校でのエッチ止めてくる時、僕の事しか見てないんだもん」
「俺は永瀬君が、す──」
好きだと言いたい。今日は告白するつもりだった。なのに、なのに……言ったら終わる気がした。
きっと永瀬君の口車に乗って、俺は愛人になってしまうだろう。
言いたい、けど言えない。
「──ごめん。俺はまだ自分の気持ちに素直になれない。ここで認めてしまえば楽なんだろう。
だが、それでは俺はずっと納得出来ない気持ちを抱えたまま君の近くに居るしかなくなってしまう」
「ん……分かった」
永瀬君は少し寂しそうに笑みを浮かべて「またね」と言って帰っていった。
この時どうすれば良かったのか。俺には分からない。
その翌日だ。佐々木君から電話が来た。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
32 / 63