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永瀬君①
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僕には他の人にはない特殊能力がある。って言っても、超能力とかそういうやつではない。
大体その人の顔を見れば、ある程度の感情が分かるんだ。昔は直感なのかと思っていたけど、実際はよく分からない。
子供の頃は大人と関わる事が多かったからか、笑顔の裏に隠しているものを見る事が何度もあった。
嘘の笑顔を見ると吐き気がするくらい気持ち悪くなるようになった。
だから同級生が僕を好きか嫌いかくらいは容易に判断出来た。
小学校に入って知り合ったのは二人。緑と葵唯だ。
緑は一匹狼なところがあって、あまり人とつるまない。でも仲間だと認識した人には優しい顔を見せる。
初めて知り合った時、緑は僕に冷たかった。
でも顔を見て僕を嫌ってないって分かったから、僕から何度も話しかける内に仲良くなった。
緑が特に気にかけていたのが葵唯だった。
葵唯は人と接する事に慣れていないみたいで、クラスで孤立していたから、緑が声を掛けたそうだ。
そういう優しいところがやっぱり好きで、僕は緑が葵唯より僕を見るように仕向けたんだ。
コミュニケーション不足で、感情表現が苦手な葵唯が絶対に出来ない事。それは相手への愛情を相手が分かるように伝える事だ。
僕は素直に緑が好きだと言ったし、緑が僕を気にするように軽々しく接した。
女に見えるように可愛くするのは当然。
小学二年生の頃には、緑がもう僕を意識してるって分かった。
葵唯はずっと僕に敵意を剥き出しにしていたっけ。そりゃあそうだよ、葵唯には出来なくて僕に出来る方法でアタックを仕掛けていれば、完全な恋敵相手にムカつかないわけない。
だから、僕は葵唯に何か言われても一度も怒った事がない。自分の方が有利って分かっていたからだ。
こんな狡賢い僕だけど、昔からつきまとう悩みがある。
幼稚園の時からそうだったけど、いつもクラスの男子にイジメられるんだ。緑と一緒にいた時は大丈夫だったけど、小学三年生の時に遂に緑とクラスが別れてしまった。
葵唯と同じクラスになったけど、当然僕の味方にはなってくれない。
「なんでお前と同じクラスなんだよ」
って悪態をつかれてしまう始末。僕は「ごめんね」って謝ってみせた。
嫌味だよ。君がどう足掻いても緑は僕のものだよ、ごめんねってね。あー僕って性格悪。
春も過ぎた頃。物を捨てられたり、机に落書きされたり、僕の家の鍵を複数人で僕が取り返せないように回しあったり、とまぁ嫌なイジメをされた。
僕は「返してよ〜」なんて泣くような弱いいじめられっ子にはなりたくなかった。黙って耐えているように見せて、このイジメすらも利用する事にした。
緑に頼ったんだ。緑は僕が頼ると、少し嬉しそうな顔色になる。彼の前なら弱さも演じた。
けど、事を大袈裟に見た緑は葵唯に僕の事を頼んだ。確かに葵唯は守ってくれるようになった。
僕に「俺が守るから安心して」と心にも無い事を言ってくる。
嘘なのバレバレ。世界で一番憎い相手を守らないといけないなんて可哀想。緑に言われたら断れないんだ? 弱点だよね、それ。
葵唯は家庭環境もあまりよろしくない。言っちゃ悪いけど、僕は葵唯と自分を比べて優越感に浸ってた。
愛する人の愛は僕のものだし、学業成績も、運動神経も、全部僕が上だから。
緑も、僕の事は莉紅って呼ぶけど、葵唯の事は小倉って呼ぶ。僕が優遇されているのは明白だった。
葵唯は僕と緑だけに流れる空気を感じたのか、もう必死になって緑に振り向かせようという気概がなくなった。
それでも好きなのはやめられないから、ずっと緑の近くにいた。恋心を忘れられない目をしていた。
どうしてそんな思いをしてまで緑を好きでいられるんだろう、と気になって葵唯と二人きりになった時。
「小倉君は、緑の事まだ好きなの?」
って聞いた事がある。
葵唯ってば僕の事を怒りの目で睨んできた。
「だからなんだよ。お前なんかいなければ良かったのに」
ちょっとショック……? 存在を否定された気がして胸が痛くなる。でも、何も言い返せなかった。
なんで嫌な気分になったのか分からない。ただなんとなく不快だった。
僕は葵唯が嫌いになった。弱い癖に、緑と僕がいなきゃ一人の癖に、なんで僕に攻撃的なの?
分からなかった。
それからかな、葵唯が僕をいじめ始めたの。葵唯が悪役を引き受けてイジめるフリをして僕を守ってるって言ってたけど、それ嘘なのモロバレ。
ハッキリとした悪意を持って、葵唯は僕をイジめた。
と言っても全然イジメって程でもなかったけど。小突いてきたりとか、俺の物投げて拾わせたりとか、そういう子供っぽいイジメ。
イジメもどきをする時葵唯は周りに「俺の獲物だから手を出すなよ」って言ってたけど……。
それは本心で言ってるの、悲しかった。
僕と葵唯の仲は最悪だったけど、間に緑を挟めば、大人達から見て仲良しに見えてたみたい。
特に夏休みは三人でいる事が多かったし。
でも、その関係が全て崩れたのが小学六年生の冬だった。
その頃の葵唯は、僕にも緑にも関心を示さなくなっていた。恋を諦めてたんだと思う。
僕と緑の距離は近付いていってて。
「莉紅……俺と付き合ってくれ」
「ん。もちろんいいよ」
緑に告白された。緑は僕をぎゅーって抱き締めてくれて。ようやくこれから幸せに二人でラブラブ出来るね、って思ってた。
だけど中学に上がって僕へのイジメが酷い事になった。
他の小学校から一つの中学に上がるものだから、生徒数が多くなった。それで、僕へのイジメは暴力的なものへとシフトした。
また同じクラスになった葵唯が、もう義理なんてないのに僕を守ってた。
イジメっ子のリーダー格の男を殴って、緑も加勢に来てたけど、こういう時緑は役に立たない。
喧嘩とか争いとか嫌いだからね。いざそういう場面に立った時、どう動くべきか知らないんだ。
葵唯は相も変わらずイジめるフリをして僕を守っていた。そういうフリをして僕をイジメてたんだけどね。
それでも他の人にイジメられるよりは遥かにマシで、暴力行為に見せていても、殴ったり蹴ったりなんてしない。
僕もやられてるフリをしていた。
「どうして僕の事、守ってくれるの?」
そう聞くと、葵唯は心底僕を嫌いだっていう顔をして、
「お前がちゃんとしてないから、緑が心配するんだろ」
って言ってきた。あーそうですか、緑の為ね。
まだ好きなのかよ、しつこいな。
やっぱり葵唯の事は好きになれなかった。
付き合いだしてからは、緑といる時間が増えた。葵唯の事は知らない、放課後と土日はよく緑がうちに遊びに来たし、僕もたまに緑の家に行った。
「莉紅」
急に緑に呼ばれたらキスの合図だ。目を閉じると、緑が口付けをしてくれた。
なんか僕の見た目が女っぽいっていうのもあるのかな、緑は僕をよく女扱いしていた。
例えば胸を触ってきたりだとか、尻を撫でてきたりだとか。
緑に愛される為なら女に見えてもいいと思って、迫っていたんだから文句は言えない。
女がするようにフェラをして、緑のものをアナルに受け入れた。
嫌じゃなかった。緑相手なら。愛してるからなんでも出来たんだ。
ね、緑。知らないでしょ。本当の僕を。君にだけは見せたくない汚い僕を。
「緑。僕、緑の事愛してるよ。緑の全部を受け入れるから、全部見せてね」
「あ……あぁ」
僕を見て顔を赤くさせる緑を見ると自己肯定感を満たされて気分が良かった。
葵唯の事なんかすっかり忘れる程、緑にのめり込んでいた。
けど、中学二年に上がって。緑は明らかに体調不良で、日曜日に僕と一緒にいる時に倒れた。
おかしいとは思っていたけれど、緑が大丈夫だと言うからそれ以上突っ込まなかった。
緑はずっと隠してたんだ。僕に心配かけまいと。
結局入院する事になって。病室に見舞いに行った時に、僕は緑に責める言葉を投げつけた。
「どうしてだよ、なんで、なんで具合悪いの隠してた?」
「好きな子の前で弱いところ見せたくないでしょ」
「バカじゃねぇの? ガンだって? ステージ4で助かる見込みはないって? もっと早く病院に行っておけば……!」
「風邪って言われてたんだよ。胃腸炎とか、そういうのだと思ってたんだ。まさかな」
「バカ、バカ、バカ! 僕を一人にしないでよ、君がいなくなったら僕はどうすればいいのさ」
なんで病人を目の前にして、自分の事ばかり言ってるんだろう。
今は緑を労る言葉をかけるべきなのに、どうして止まらないんだよ。
僕は、どうして愛する人を傷付けてるんだよ。
「ねぇ、莉紅。莉紅は小倉の事どう思ってる?」
「嫌な奴だと思ってるよ。僕の事嫌いな癖に、緑の近くにいたいからって僕をイジメから守ろうとしてる。あいつ嫌い、大嫌いだ」
「そう言わないで。きっと仲良く出来るよ、君達は、なんだか似てるから。
俺が死んだら、二人仲良くして欲しいんだけどな」
この時、緑はよく分からない事を言い出したんだ。
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