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繰り返す夢
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リン……
小さな鈴の音。
あぁ、またか。
まるで現実にいるかのような、鮮明な思考で思う。
でも、ここは夢の中だ。
どうして断言出来るのかって?
だって、おれはもう何度も同じ夢を見ているんだから。
リン……
…………
……
「……ん……?」
ああ……終わったんだ……
ぼんやりとまばたきをして、おれはカーテンの向こうに目をこらす。
くすんだグリーンのカーテンが、陽の光でまぶしく輝く。
これが、ごくごくつまらない日々を送るおれの、憂鬱な一日の始まり。
「いただきます」
一人食卓に手を合わせる。
おれは食パンを頬張りながら、片手でスマホをいじっていた。
「……げっ」
いつものようにアプリを開いた途端、思わず顔をしかめた。
「最下位かあ……」
「にゃにがあ?」
講義が始まるまでの退屈な時間、あくびを噛みながら呟く。
俺の代わりに盛大なあくびをして、友人が顔を覗き込んできた。
「星座占い」
「へ〜。おーじ占い好きなの?」
「好きっつーか……
もう日課みたいなもんだから」
「あ、じゃあねー
水瓶座は?」
手元に目を落とし、占いアプリを開く。
「二位」
最下位だったおれにしてみたら、羨ましすぎる。
憎々しげに告げると、彼は途端にまんまるの眸をキラキラと輝かせた。
「やったー!
二位ばんざい!」
人目もはばからず立ち上がり、今にも踊り出しそうな無邪気な"大人"の頭を押さえ付ける。
これでおれの二つ年上と言うのだから、呆れてしまう。
「そんなに嬉しいの」
問うと、彼はニコニコと嬉しそうに笑って頷いた。
「だって二位だぜ!
二位はねこさんの順位だー」
「はあ」
つまり、2とにゃーをかけてるのか。
何というか、こじつけてる感が否めないけど。
この底抜けに明るいフリーダムな友人、鴫光汰郎(しぎこうたろう)は、異常なくらいの猫好きで、大学構内でもちょっとした有名人なほどだ。
彼と交友関係を持つようになったのは、無論猫がきっかけだった。
「ねこ好きなの?」
突然声をかけられたのは、一年生の春。
入学したてで知り合いもおらず、一人ぼんやりと机に向かっていた時だった。
驚いて顔をあげたおれの右隣の席で、彼はちょっと興奮気味におれの目をじっと見た。
面食らってすぐに頭が回らなかったおれに、彼は繰り返す。
「なあねこ好きなの?」
おれは怯みながらも、おずおずと口を開いた。
「いや……別に」
「え〜嘘だあ。
じゃあこれはなに?」
彼はおれの筆箱のストラップを指さす。
「……猫」
「好きなんだろ?」
おれは顔をしかめる。
母さんに名札がわりにと押し付けられた猫のストラップをじっとり睨みながら、もう一度首を振る。
「別に」
「うそうそ。
だって、これは?」
言いながら、おれのノートを覗き込む。
「……猫」
「好きなんだろ?」
姉ちゃんにボールペンでらくがきされた、ぶさいくな猫。
おれはうんざりしてしまって、なげやりに頷いた。
「やったぁっ!!!」
ガタンッ!
ぎょっとして、突然椅子から立ち上がった彼を見上げる。
彼はおれの手を両手でがしっと握り締め、ぶんぶんと縦に勢い良く振った。
「きみ、名前は?」
「や、柳瀬皇子翔(やなせみこと)……」
「おれは鴫光汰郎!
こたって呼んでね。
うん、きみとはいいお友達になれそう!
にゃはは!」
それが彼……こたとの出会いだった。
後に聞いたことだが、ずっと同世代だと思っていたこたは、実は二年浪人していた。
つまり、十九歳のおれを二つ飛んで、二十一歳。
親しくなってしばらくして知ったため、今更敬語に切り換えることも出来ず今もタメ口で話している。
そんなこともあり、たまに年上ということを忘れてしまう。
「講義を始めるぞー」
「こた、ちゃんと座れよ」
「はーい」
というか、年上ってことが未だに信じられない。
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