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帰宅
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「おおっ柳瀬、来たか!!」
「へ?」
スタッフルームのドアを開けた途端、店長が慌てておれに駆け寄ってきた。
ガシッと肩を掴まれ、パチパチと瞬きする。
おれ、なんかやらかしたかな……?
「バイトがバックれたんだ」
「……はい?」
「ただでさえ人手が足りねーのに、一人昼から入る予定だった奴が休みやがったんだよっ!
おかげで仕事が追っつかねぇ」
「じゃあ、」
「わりぃけど、超特急で品出しとドリンクの補充、終わらせてくれ。
タバコとレジはおれがやるから」
「え、そんなに残ってるんですか!?」
「終わらなかったら残業な! 頼んだぞ!」
「て、店長!?」
う……嘘だろ。
終わる気がしないんですけど。
「……よ、よし」
とにかく、やるしかない!
週6でバイトしてるおれの底力を見せてやる!!←やけくそ
…………
……
「………………はぁ〜……」
結局、全部の作業が終わることには、本来帰れるはずの時間から一時間も過ぎていた。
控え室でぐったりするおれの頬に、店長が暖かい缶コーヒーをくっつけた。
「お疲れ」
「あ……ありがとうございます」
受け取って、手のひらで包む。
長い時間ウォークインにいたせいで、かなり冷えていた。
「いつも、無理させて悪いな」
「いえ……」
小さく苦笑する。
確かにこき使われてはいるが、それは店長がおれのことを信頼してくれてるってことだから、
「このくらい、全然大丈夫です」
強がってそう言った。
期待を裏切るようなことはしたくない。
「柳瀬は、本当にいい子だなぁ」
ガシガシとおれの頭を撫で回す。
おれは照れ隠しに、唇を尖らせた。
「子ども扱いしないでくださいよ」
「ははっ、わりーわりー。
そうだなぁ、柳瀬は、いずれおれの義弟になるんだもんなー」
義弟……
「まだ、結婚の予定は決まってないんですか?」
「んー。
おれもあいつも、今自分のことで手一杯だからな。
もう少し余裕が出来たら、とは思ってる」
「そうですか」
姉ちゃんが結婚かぁ。
「なんか……あんまり、実感わかないですね」
ぽつりと零すと、店長は声を上げて笑った。
「ま、そんなもんだろ。
おれなんて、いまだに、あいつと結婚出来るなんて夢みたいな話だと思ってる」
「はは……」
「柳瀬も、早くいい女見つけろよ?
ま、休日もバイト三昧じゃあ、捕まるもんも捕まんねーかもしんねーけどな」
「う、それは言わないでください……」
「はははっ!」
その後少しだけ店長と話して、廃棄目前のパンやらおにぎりやらを持たせてもらって、帰路についた。
きっと、オトが待ちくたびれてるだろう。
おれは駆け足で、オトが待っているはずの塀へと向かった。
だけど、
「あれ……?」
そこにオトはいなかった。
もしかしたら、家の前で待ってるのかもしれない。
そう思ってアパートの階段を上っても、黒猫の姿は見当たらなかった。
「あいつ……なにしてんだろ」
まさか、まだ隣町に?
こんな時間までウロウロしてるなんて、さすがに危険なんじゃ……
……まさか……
捕まったり、してないよな。
「……っ」
ぞく、と身体が震える。
思わずきびすを返そうとして、
聞こえてきた声に足が止まった。
『どこに行くの?』
「あっ……」
暗がりに浮かぶシルエット。
紛れもなく……
「オト……!」
たまらず、駆け寄って抱き上げた。
「こんな時間まで出歩いてたのか?
なにかあったんじゃないかって、心配したよ」
『ごめんね。
……あのね、おれ、ミコトのあとをつけてたんだ』
「へ? おれの……?」
『……おれが知らないところで、ミコトがどんな顔して、どんな声で話してるのか知りたかったの』
「は?
もしかして、朝からずっと……?」
『うん』
まじかよ。
じゃあやっぱり、あのときの鈴の音は……
『ミコトって、大切にされてるんだね』
「……そう思う?」
『うん。
……もっと、嫌な気持ちになるかなって思ってたけど
案外、嬉しかったよ』
「嬉しい?」
『おれがいなくなっても、ミコトを想ってくれるひとはたくさんいるんだなって……ホッとした』
「お前……またそんな、ネガティブなこと考えてたの。
大体、100年も生きてるならそう簡単に死んだりしないだろ。全く……」
『……』
「オト?」
『……ミコトには、ちゃんと話しておかないとね』
聞きたくない。
……反射的にそう思ったのは、どうしてだろう。
きっと、心の何処かで、覚悟していたはずなのに。
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