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話をしよう。
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「……」
霊力……
分かるもんなんだな。
声が聞こえることがばれたのは初めてだったから、正直驚いた。
「そんで?」
「……ん?」
唐突に聞かれて振り向くと、こたはジッとおれの顔を見上げていた。
「おーじがどんよりしてる理由はなに?
彼女にフラれた?」
「だから、彼女なんていないって」
「じゃあどしたの。
お兄さんにどーんと話してみなさいな」
「……」
まさか、そんな話を聞くためだけに、わざわざ学校から連れ出したのか……?
おれ、そんなに深刻な顔をしてたのかな。
「……こたってたまに歳上ぶるよな」
「にゃはは! 実際歳上だけどね!
まぁ確かにぃ、おれじゃあ頼りないかもしんないけど?
おれだってさ、友達が元気ない時に力になってあげたいって思うわけなのさ!
迷惑って思うなら、無理に言えとは言わないけどな」
「……」
迷惑、だなんて。
自分のことを想って行動してくれたのなら、どんなお節介でも嬉しいことに変わりはない。
こたはあまり周りが見えてないように見えて、たまにドキッとしてしまうことがあるほど、よく他人の言動や表情の変化に目敏く気付く。
身体が動くより先に頭の中でぐるぐると考え込んでしまうおれは、そんなこたにいつも助けられてきた。
大切な親友。
……こたになら、話せるかもしれない。
「……こた、」
「うん?」
「その……こたはさ……
ずっと一緒にいた人が、もうすぐいなくなるって知ったら……どう思う?」
要領を得ないおれのぎこちない問いに、こたは少しだけ首を傾げた。
「いなくなるって……引っ越しちゃうとか?」
「んー、そんな感じ……ただ、次いつ会えるかも分からないし、連絡も一切取れなくなる」
「その人って、すっごく大切な人なの?」
「……そう」
なるほど、と呟き、こたは珍しく神妙な顔をして考え込む。
おれはそわそわしながらこたの返事を待った。
少し経ってから、こたは突然がばりと顔を上げた。
「ね、なんかそれってさぁ……!
あと一週間で世界が終わるとしたらどうする!? ってやつみたいだよね!」
「……は?」
間抜けな声が漏れる。
こたは立ち上がり、おれに詰め寄るように続けた。
「おーじなら、あと一週間しか生きられないって知ったらどーする!?」
「はぁ?
なんで今そんなこと」
「いーから! 答えて!」
被せ気味に煽られながら、おれはほとんど迷うことなく答えを出した。
「おれだったら、いつも通り過ごすかな……」
「どーして?」
「そりゃあ……もうすぐ死ぬって言っても特別したいこととかないし、それなら普段と同じように最期まで過ごして生きて死ねたら幸せなんじゃねえかなって……
なんとなく、だけど」
おれがもごもごと話す言葉を、こたはうんうんとしきりに頷きながら聞いている。
おれはといえば、眉をしかめながら頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「で、それがなに……?」
思わず首を傾げれば、こたはにこにこと笑って、おれの肩を掴んだ。
「そっかそっか、それがおーじの答えなんだな!」
「だから何……」
「なら、そうすればいいじゃん!」
「は? なんの話?」
「だからさ!
大切な人がいなくなるって判ってても、いつも通り過ごせばいいんじゃない。
それが一番幸せに過ごせる方法なんだろ?」
「……え、」
ぽかんと目を丸くするおれの顔を見て、こたは自信たっぷりに笑ってみせた。
「ね、それが君の答え!」
ストン、と。
のしかかっていたものが、落ちた気がした。
どう考えても無茶苦茶で強引……
なのに、あぁそうか、と素直に納得している自分がいることが、なんだかとても可笑しかった。
「多分さ、会えなくなった後のことなんて後回しでいいんじゃない。
どうしよう、どうしようって悩んで、ぎこちないままさよなら〜ってなっちゃったら、おれ多分すっげー後悔する」
「うん」
「そりゃあさ、いっぱい悩むと思うよ。
苦しくなったり、寂しくなったり、泣いちゃったり、不安で不安で、たまらないこともあるかも……なーんてね、分かんないけどさ!
でもさ、また会えるんでしょ?
いつになるか分からなくても、また会えるって判ってるなら、おれ頑張れる気がする!」
「うん……」
「待ってる間さ、会えたときのこと、いっぱい考えようよ!
ぎゅーって抱き締めてあげようとか、おかえりって言ってあげようとか、考えるだけでワクワクしちゃうな!」
「うん、うん……」
「まぁ、本当はどうなるかなんて分かんないけどさ!
結局のところ、おれの意見なんてどーだってよくてさ、おーじはおーじのしたいようにしたらいいんだよ。
ただ……迷うくらいなら、今したいことを選ぼう?
がんじがらめになって何も出来ないくらいなら、傷付いて痛くても足掻こう?
たまには立ち止まったり後戻りすることも必要かもしんないけど、そこでうずくまるのだけは絶対無し!
一度うずくまったら簡単には立ち上がれなくなるから」
「うん……分かったよ、こた」
震える声で笑ってみせる。
泣いてしまいそうなのを堪えていた。
おれの顔を真っ直ぐに見て、こたは優しく微笑った。
「……頑張れ、おーじ」
「ありがとう……」
たまらず俯けば、涙が一粒零れ落ちた。
こたがよしよしとおれの頭を撫でるから、もう我慢することなんて出来なかった。
「おれ……馬鹿みたいだな、泣いたりして」
「おーじは一人で抱え込む癖があるからなぁ。
辛かったら、いつでも吐き出していいんだぞ!
何も、全部ありのままに話せーなんて言ってるわけじゃないんだからさ」
「うん……」
ありのまま……
こたになら、いつか話せるだろうか……
「……おーじは、その人のことが本当に大切なんだな」
「……うん」
「最近のおーじ、本当にキラキラしてたもんな。
こっちまで嬉しくなるくらいさ」
「そ、そうか……?」
そんな顔に出してるつもりはなかったんだけど。
そうだよ、と大きく頷いて、こたは続けた。
「だから、今日どんよりしてるの見て本当に心配したんだからな?
そんなオーラ出してたら、きっとおーじの大切な人も辛いと思うぞ」
「……」
そうだ、おれは……
自分の気持ちの整理でいっぱいいっぱいで、オトの気持ちなんてそっちのけだった。
オトは、どんな気持ちでおれに話をしたんだろう?
今、なにを考えているだろう?
家に帰ったら、ちゃんとオトと話をしよう。
オトを不安にさせたまま、別れるなんて絶対嫌だ。
そういえば、とおれは顔を上げた。
「今何限目だ……?」
「あ〜」
「あ〜じゃねえだろ!
学校戻んないと!」
「いいじゃん今日は。サボろうよぉ」
「そういう訳にいかねぇだろ!
あぁ、半日分の授業料が……」
「出た、おーじの貧乏性」
「うっさい。
ほら、早く戻るぞ!」
「ま、待ってよ〜
みーた、みーすけ……あれ? どこ行っちゃったのかなぁ」
「ん?」
そういえば、いつの間にか声が聞こえなくなっていた。
……あの斑猫が配慮してくれたのだろうか。
「……」
今度、あいつともちゃんと話してみたいな。
「しょうがない、行こっか〜」
「あ、うん。
間に合うかなぁ」
「だいじょぶだいじょぶ!
のんびり行こ〜ぜ〜」
「ったく、そんなんだから浪人するんだぞ」
「あ、今のグサッと来た!
おーじひっどい!」
「事実を述べただけだけど?」
「う〜〜、何も言い返せにゃい……」
「あははっ」
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