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ワスレナグサ
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俺の恋人は眠る度に記憶をなくす謎の病を患っている。
半年前に急に発症したその病気は、俺の大切な人から些細な記憶も、大事な思い出も少しずつ奪っていった。
勿論病院に行ったけど原因が分からず治るかどうかも分からなかった。
幸い、今は俺のことを覚えているけど、いつ忘れてもおかしくない状況だった。
だからできることは全てやった。
記憶力を高められる脳の体操、食事。
脳に刺激を与えるのも一つの手だと色々な国へ旅行に行ったりした。
でも改善されることはなかった。
恋人も俺も、いつ大切な人を忘れてしまうのかと夜も眠れなくなり、見るからに憔悴していった。
記憶がなくなることがこんなにも怖いものなのかと震えるしかなかった。
そんなある日、恋人から別れようと言われた。
自分といると不幸になるだけだから一緒にいない方がいい、誰か自分以外の人と幸せになって欲しい、と。
頭が真っ白になった後、怒りが込み上げてきた。
俺がこいつといると不幸のままだと思われていたことに、こいつ以外と幸せになれると思われていたことに、
こいつと壁を乗り越えられないと思われていた俺自身に
すごくムカついた。
「...馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺がいつお前といると不幸だって言った?俺がいつお前以外の奴と幸せなれるって言った?俺がいつお前と離れたいって言った?俺はお前と離れる気なんか更々ないんだよ!俺はお前とじゃなきゃ幸せになれないんだよ!俺を不幸にさせたくないんだったら...幸せにしたいんだったら俺と別れたいなんて絶対に言うんじゃねぇ!!」
途中から涙が溢れて止まらなかった。
俺達は不安でしょうがなかっただけなんだ。
誰にも相談できない病気で、いつ治るかも分からなくて、色々試しても戻ることがなく消えていく記憶に焦っていただけなんだ。
その夜は2人で散々泣き、疲れて寝た。
不思議と今までみたいな不安や恐怖はなく、久しぶりに幸せに包まれながら寝ることができた。
次の日、目が覚めると誰にも見せられないぐらい目元が腫れていた。
それは俺だけじゃなくて、隣で眠っている愛しの人もだった。
思わず笑ってしまう程の酷い顔を写真におさめる音に反応して目を覚ました。
暫くほうけていたみたいだったが何かに気づくと目を見開いた。
「悠(はる)!!記憶が戻ってる!!」
何を言ってるのか理解できなかった。
言葉一つ一つは分かるのに意味として頭まで入ってこない。
「悠、今まで忘れていたこと全て思い出したよ。」
昨日出し尽くしたと思っていた涙が溢れ出した。
記憶...記憶が戻った。
半年間奪われていくことに苦しめられた記憶が。
「ほ、ほんとか?初めてデートした場所も両親の名前も、全部全部、思い出したのか?」
忘れてしまった友人の名前も、高校、大学の頃の思い出も、よくやってたゲームの名前も。
戻るか分からないって言われていた記憶、全てが。
信じられない、信じられるはずがない。
今まで何をやっても戻らなかったのに。
「良かった...本当に良かった...」
昨日みたいに2人で大声をあげて泣きあった。
皮肉なことにこの病気のおかげで2人の絆がより深まった気がした。
ワスレナグサ
真実の愛
私を忘れないで
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