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山田さんからの紹介
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「山田さんからの紹介なんですね。ありがとうございます。」
「は、はい…。」
スーツを着て、真面目そうなこの人は、立花ツバキさん。
常連の山田さんの紹介で、今日、初めて来てくれたお客さんだ。
第一印象は、小柄だけど、背筋がシュッと伸びていて、綺麗なヒトといった感じだ。
オレは、整体師の二階堂シンジ。
大学卒業後、すぐジイさんの店を継いだ。
そこそこ人気の店だったみたいで、ジイさんのときからの常連さんがたくさん来てくれている。
それから、オレ目当ての客も来る。
立花さんのような人が、この店に来るのは珍しい。
基本的に、体格のいい男の客しか相手にして来なかったから。
「あの…二階堂さん…。」
スーツから、施術用スウェットに着替えてきた立花さん。
予想通り、かなり大きかったようだ。
「すみません。立花さんのような小柄なお客さんは初めてだったもので…。スウェット、かなり、大きいですね。」
「はい…。」
真っ赤になってうつむいてしまっている。
「ははっ。」
「え?」
「なんか、立花さんって、小動物みたい。」
「え?」
「そんなにビクビクしなくても大丈夫ですよ?」
「は、はい…。」
「緊張していますか?」
「…マッサージとか整体のようなものに来たの、初めてなので…。」
「そうですか。まずは、お話を聞かせてもらってもいいですか?」
「あ、はい…。」
カチカチに固まった立花さんを少しでもリラックスさせるために、好きなものでも聞き出してみよう。
「立花さんは、猫、好きなんですか?」
さっき、スマホに猫のストラップがついていたのを思い出した。
スマホカバーも猫だったのを見逃してはいない。
「はい。猫が好きです。」
「可愛いですよね、猫。」
ぱぁっと笑顔が広がった。
「猫のどんなところが好き?」
「えっと…見た目も可愛いし。ツンデレな性格も好きだし。声も可愛いし。ゴロゴロ言うのも好きだし。猫じゃらしにじゃれる姿も最高だし。ニオイも好きです。」
「ニオイ?」
「お日さまみたいなふわふわしたニオイです。」
「へぇ、猫ってそんなニオイがするんだ。」
「日向ぼっこしたあととか、すごくいいニオイがするんです。」
「猫、飼ってるんですか?」
「はい、2匹います。」
「見てみたいな。」
「写真、見ます?」
嬉しそうにスマホを取り出す立花さん。
よく見ると、ストラップの猫は二匹もついていた。
白と黒の猫がぶら下がっている。
「この子達です!」
ドヤ顔で猫の写真を見せてきた。
「可愛いですね。」
そこに写っていたのは、二匹の猫と…猫耳のパーカーを着た立花さん…。
猫耳パーカー、可愛すぎるだろ。
コレは、自撮りか。
猫たちも相当立花さんになついているようで、気持ち良さそうな表情をしている。
猫の話で、かなり緊張もほぐれた様子だ。
笑うと可愛いな、この人。
綺麗な顔がくしゃっとなるのが、いい。
声もいい。
なんていうか、聞きやすくていい声だ。
仕草もきれいで、育ちの良さが滲み出ている。
話をするときに、目が少しだけ合った。
きれいな目の色をしている。
吸い込まれてしまいそうなほど、綺麗な瞳。
不思議な人だ。
オレが誰かに興味をもつのなんか、初めてかもしれない。
「可愛いですね。猫ちゃんパーカーも。」
「あっ!このパーカーは…!山田くんがくれたんです。ボクが猫好きなのを知っていたから…たまたま見つけたらしくて。」
「猫ちゃんたちも可愛いけれど、猫ちゃんパーカーを着ている立花さんも可愛いですよ。」
「いや…いい年したオジサンが変なマネをして…ごめんなさい。」
「いや、立花さんがオジサンだったら、オレはどうなっちゃうんですか。」
ん?この人、すごく若く見えるけど、オジサンとかふざけてるのか?
お客さんのカルテを熟読しないのはオレの悪い癖だ。
なんとなくのフィーリングで物事を判断してしまう。
それは、たいてい当たるから、感覚に任せちまっているところがある。
この人は、オレより年下だろ。
肌艶がいいし、骨格や雰囲気が若々しいからな。
落ち着きあるのが不思議だが。
男なのにキレイだなとは思う。
下手したら今までの元カノより美人かもしれない。
ってか、めちゃくちゃ好みの顔をしている。
表情とか声、雰囲気がいい。
まぁ、元カノより可愛いのは、高校のとき、身の回りにうじゃうじゃいたからなぁ…。
アイツらに対してイイと思ったことはないが、この人は何でかイイ。
気になって仕方がない。
男なのに魅力的だ。
それに、美味そう。
…いや、美味そうとか、変だよな。
でも、食ってみたい。
…???
何考えてんだ、オレ。
男相手に。
あぁ、そうだ。
茶を出すのを忘れていた。
この人、かなり緊張しているし、普段の客には出さない、オレのお気に入りの紅茶を出してやろう。
まぁ、多分気付くことは無いだろうが、好みの顔というだけで、特別サービスだ。
山田にはもちろん安い茶しか出したことがない。
「立花さん、紅茶飲める?」
「はい。大好きです。」
かぁわいい。
大好きだって。
オレにも言ってもらいてぇわ。
「ちょっと待ってて。今、入れてくるわ。そういや、お客さんが置いてった、猫の雑誌があっから、それでも見て待ってて。」
客にも猫好きがかなりいる。
そして、猫の可愛さを押し付けてくるから、雑誌をよく置いて行くのだ。
自分家にも猫がいるとか言ってたな。
名前、なんだっけ。
よく作業着を着て来るから、なんかの業者さんなんだろうけど。
「ありがとうございます。わぁ、可愛い。うふふ。嬉しいです。」
可愛いすぎ。
なんなのこの子。
さっさと紅茶を入れて立花さんのところへ戻る。
真剣に猫雑誌を読んでいる。
うん、可愛い。
そっと近づき声をかける。
「はい、どうぞ。お口に合うといいんだけど。」
「二階堂さん、ありがとうございます。」
雑誌を閉じて、こちらの目を見てお礼を言ってきた。
そういう一つ一つの仕草が美しい。
夢中になっていたのに、きちんと手を止めて、こちらを見るという当たり前の動作でさえも愛おしさを感じ始めている。
客に出すのじゃなく、オレ専用のマグカップを出すという下心にも気付かず嬉しそうに紅茶の香りを楽しむ立花さん。
「いい香り。あれ?この紅茶って、近くの紅茶専門店のものではないですか?茶葉の種類までは分からないけれど…あそこにはよく一人で行くんです。読書したり、ぼんやりしたり。」
「常連さんだったんだ。うちにもそれくらい通ってくださいね?」
「うふふ。まだ、施術をしていただいていませんが、お店の雰囲気も二階堂さんも素敵だから、通いたくなっちゃいました。」
「立花さんに褒められて嬉しいな。」
それにしても、この子、いつまでたっても紅茶を飲まないぞ?
ずっとフーフーしている。
「ねぇ、立花さん。」
「はい。」
ニコッと笑顔を向けられる。
オレ専用のマグカップを持つ可愛い立花さんの笑顔のダブルパンチにやられそうになる。
クラっとするのを堪えて気になっていたことを質問する。
「立花さんって、もしかして猫舌?」
「…お恥ずかしながら…そうなんです。ごめんなさい。時間がかかってしまって…。」
いや、可愛いからゆっくりでいいし。
なんなら動画撮りたいくらい可愛いし。
「気にしないで。ゆっくり飲んでて。立花さんで今日のお客さん、最後だし。」
待っている間に立花さんのカルテを熟読する。
身長、体重。
身体の辛いところ。
…職業は…?
あれ?オレでも聞いたことのある、あのデカい会社か?!
まさか、山田もそこに?
アイツは、そんなに優秀には見えなかったが。
ってか綺麗な字だなぁ。
字まで綺麗とか、この人にマイナスポイントはあんのか?
見た目は完璧にドストライク。
声も仕草も可愛すぎる。
そして、超エリートらしい。
オレとは住む世界が違いすぎる。
軽く凹んでいたら、やっと紅茶に口をつけた。
オレ専用のマグカップに口を!
いや、洗ってるけどさ、なんか興奮すんだろ。
「美味しい。」
きゃ、きゃわいい。
ズギャン!と雷が落ちてきた。
なんだ、今の?
心臓がバクバクしているし、一瞬変な汗も吹き出した。
…どうした、俺の身体?
いや、確かにこの人は可愛いし、好みの顔をしている。
しかし、男だ。
昔は男女関係なく抱いてたけど、男は濡れないから面倒だったし、固いし、抱き心地はそんなに良かった覚えがない。
百瀬は、たまに美味そうだなと思ったことがあったけど、流石に手を出さなかった。
いや、出せなかった。
アイツには番犬がいたし。
しかも、かなり獰猛なのが。
百瀬に近づくヤツのことは、徹底的に排除してたもんなぁ。
今も百瀬からは連絡が来るから、なんとか上手くやってるらしい。
一度別れてから、相手の束縛が落ち着いたとは言っていたけど。
「二階堂さん?どうされましたか?大丈夫ですか?」
心配そうにこちらを見て来る。
それすら可愛い。
そうか、オレは恋に落ちたのか。
知らなかった。
いきなり雷が落ちるんだな。
…はぁ。
可愛い。
可愛い以外の語彙が減る。
いいな、この人。
欲しい。
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