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流れていく景色を見ながら、段々と近づいてくる自分の家だった場所…
不思議となんの感情も湧かない。
『じゃあ俺はここで待ってるから、必要な物だけこの袋に入れて戻って来な。』
「うん、ありがとう。」
『もし…もし戻れそうに無かったら連絡して。すぐ行くから。』
「うん。」
頭を撫でられ、俺は車を降りた。
玄関の前で足が止まる…
「………ふぅ。」
少しだけ深呼吸をし、ドアノブに手を掛ける。
繰り返された暴行…折檻………
思い出すだけでも震えそうになる。
それでも…それでもこう来て生きていられたのは先生のおかげで…
チラリと先生を見つめると、先生も俺を見ていた。
何だか恥ずかしい…
逃げるような勢いで家の中に入る…
途端、噎せ返るような血の匂いがした。
「…ゔっ……」
吐きそうになるのを手で押さえ込む。
靴は脱ぎたくない…家だけれど土足のまま上がる。
自分の部屋の前までなんとか辿り着き、ドアを引く。
鉄臭い匂いがより一層強くなった気がした…
「……。」
タンスの前まで行き、ふと思い出す…
俺から逃げ込んだあの日の事を…
冷たくて……暗かった…
「……。」
生きたいと願った…
早く目当ての服を入れて先生の所へ戻ろう。
タンスを開けると同時に息を止める。
まだ血痕が残っていて…身体が震えた…
あまりその場所を見ないように、制服を袋の中へ押し込みタンスの扉を閉めた。
途端に脱力し、その場に崩れるように座り込んでしまった。
「…はぁっ……っ…」
鉄の匂いと埃の匂いを肺に取り込み、考える。
"アレ"はどうしようか…
机を見つめながら震えと脱力感のある身体を動かす…
持って…行こうか………
家を出ると、先生が車から降りていた。
『平気か?』
「うん、大丈夫。」
『本当に?』
「うん。」
本当は少しだけ思い出してしまい、玄関の前で呼吸を整えていた。
「帰ろ…先生。」
『………うん。』
車に乗り込み、また走り出す。
もう二度と帰って来ることはないこの家…
少しだけ寂しくもあるが、もう用は無い。
「……ふふ…」
『………。』
殴られも蹴られもしないなら…自分で必要性を見出だせば良いんだ…
なんで気が付かなかったんだろう。
『勇間…』
「…ん?」
『制服以外にも何か袋入れたろ。』
「何も入れてないですよ。」
『じゃあ見てもいいか?』
「…どーぞ。」
路肩に止め、袋の中身を見る先生。
袋の中には制服しかない…それは事実だ。
『……ポケットは?』
「………。」
『勇間…?』
「無いよ…何も…」
ポケットにも入れていない。
持ってきてはいないから…
持ってこようとしたけれど…やめた。
先生が悲しむから。
『本当に…大丈夫か?』
「……うん。俺には先生が居るから…」
『……。』
「大丈夫です。」
ぎこち無く頬を上げてみるが、きっと失敗に終わってる気がする…
先生がハンドルに凭れ掛かったまま動かなくなったから…
「先生?」
『ゆっくりで良いからな……ありがとう。』
また頭を撫でられた…
何だか心がむず痒い気がする。
先生が笑ってくれるだけで、俺こんなにも幸せだ。
どうしたら返せるだろうか…
「先生…」
『んー…?』
車を発進させた先生を横目に、震える声で呟く。
「俺…ほんとに先生が好きだよ…」
『うん…俺も好き。』
「…っ…」
今すぐ抱きつきたい…そんな衝動を押さえ込み、先生の手を掴む。
自分の指と絡める…先生の手はこんなにも大きい…
俺も大人になったらこんなに大きくなれるかな…
「先生、料理教えて。」
『もちろん。』
「凄く上手くなって、先生を見返します!」
『ふふっ…楽しみにしてる。』
幸せな時間も…幸せな空間も…全部俺のモノだ。
俺だけの…
俺だけの先生だ。
家に着き、制服を洗濯機に入れる。
鉄臭い匂いが取れるといいけど…
「先生、他に何か洗濯するもの………あ…」
寝てる…
仕事したまま机で突っ伏している。
チラリとパソコンの画面を見る…
テスト…?
これ俺が見たら駄目なやつだ……そう思い、パソコンをそっと閉じた。
保存したほうが良かったかな…データ消えてないと良いけど…
そんなことを考えながら、先生に掛ける布団を取りに行く。
勝手に開けてもいいのか分からないけど…先生の部屋…ここだよね?
「……。」
変に緊張しながらドアを開ける。
先生の匂いが詰まっている……少しだけ心が跳ねた。
先生の…匂いだ……俺の好きな匂い…
タンスを開けると、もっと匂いが強くなった。
先生の匂いと…タバコの匂い…
落ち着くなぁ…
「………。」
これら全部が俺のモノ……嬉しいような…怖いような…
少しだけ震える手で膝掛けらしきものを掴み、リビングに戻る。
先生の部屋を出るとき、ちょっとだけ心の中で"お邪魔しました…"と唱えた。
なんだか見てはいけないものを見たような気がしたから…
「……痛くならないかな…」
突っ伏した体制だと後で節々が痛くなりそう…そんな事を思いながら先生に膝掛けを掛けた。
何しよう…
一応家主の許可は得てるとは言え、赤の他人だ。
勝手に彷徨くのもどうだろうか……悩んでいると、先生が起きてしまった。
「あ…ごめんなさい、五月蝿かった?」
『んーん……あれ…掛けてくれたの?』
「一応…」
『ありがと……』
まだ眠そうに目を擦る先生がなんだか子供みたいで…可愛い。
緩んだ頬をバレぬように手で隠していると、先生が笑った。
可笑しな顔…してただろうか…
「あ…パソコン…閉じちゃいましたけど………大丈夫ですか?」
『ん?あぁ…大丈夫。』
「テスト…ですよね…」
『見た…?』
「いや…っ……えーっと………ちょっと、だけ…」
『なんだと〜?』
立ち上がった先生は俺をくすぐり始め、二人してソファーに倒れ込んだ。
「ちょっ……あはっ……あははっ!」
『ちょっととか言ってガッツリ見てたりして〜っ…』
「ほんとにちょっとです…っ!……はははははっ!」
先生に擽られて大声が出る俺に、気を良くしたのか更に攻めてくる。
「も…っ…ギブ!…ギブです!!」
叫ぶように言うと、先生は手を止め俺にもたれ掛かった。
先生の鼓動の音と…優しい匂い…
全てが心地良くて、段々眠くなってくる…
『勇間。』
「はい…」
微睡む意識の中でなんとか応える…
けれど、もうすぐそこまで眠気が来ていて…先生の言葉は俺に届かなかった。
先生…
二人だけの世界ってこんなにも幸せなんだね…
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