アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
・
-
学校に着くやいなや、先生を探す。
兎に角今は先生に今朝のことを話さなきゃ……だけど、全然会わない。
見つけたと思えば他の生徒や先生に呼ばれて居なくなるし…
途方もなく項垂れてしまう。
「はぁ……」
『ん?どうした勇間?』
「先生…!」
少し落ち着こうと屋上に来て正解だった。
休憩をしている先生に会えた…
『珍しく色んなところウロチョロしてんな〜って思ってた。』
そう言いながら俺の後ろ髪を撫で付ける。
気が付いてたなら声をかけて欲しかった…無駄足…
「あの、先生…」
『ん?どした?』
「えっと…」
『ゆっくりで良いぞ…』
俺の側に腰を下ろした先生は、煙草を堪能していた。
屋上……あの日のキスを思い出す。
「……今朝、カイト君が…」
名前を出すと先生は俺を真っ直ぐ見た。
その目はすごく心配していて、カイト君をよく思っていないことが分かる。
『何かされたか?』
「あ、いや…されては…無い…けど…」
『けど?』
「………。」
カミソリの事…言うべきだろうか。
先生は困らないだろうか…
黙って俺からカイト君に返せば、先生に面倒事を増やさないで済むかもしれない。
先生は今、テスト作成で疲れてるだろうし…
「いや、その…ベランダの仕切り超えて来て、ビックリしたって話です。」
『……ベランダ?!』
「そうなんです、身軽だなって思いますよねぇ…」
『いやいや、危な過ぎるだろ…』
言わなくても良いか…
俺がちゃんと突き放せばきっと大丈夫…
大丈夫…だよね?
〔じゃ、今日はここまで。ここテストに出すからそのつもりでな〜〕
皆の落胆が教室を包む中、最後の授業が終わった。
結局カイト君には会わなかった…
カイト君の事だから俺の教室にまで来るのかと思って、少しヒヤヒヤしていた。
窓の外を見ると、先生が忙しそうにしていた。
やっぱり、先生には言わないでおこう…
席から離れ、教室を出る。
相変わらず色んな目を向けられるが、今の俺にはそれも気にならない…
だって、先生がいるから。
共有する時間も帰る場所も同じで…この上ない幸せだ。
シアワセ……
今朝のカイト君の言葉は一体なんだろう…
彼から紡がれる言葉がどうも全て意味深に思えてしまう。
まるで…俺をあの頃に戻すかのような言葉…
「………。」
〘ユーマ!!〙
「!!」
渡り廊下に響き渡る程大きな声。
振り向くと、自分と同じ制服に身を包んだカイト君が居た…
「カ、イト…君…」
〘会いに来たよ!〙
「………。」
〘ほんとはお昼とかにしたかったんだけど…保健室のセンセーが駄目って言うから…でもホーカゴはいいって!だから来たよ!!〙
そう言って抱き着いてくる勢いで喋るカイト君。
唯一の救いでもある速水君は見当たらない…
どうしよう…
悩んでいるとカイト君が俺の腕を掴んだ。
「な、なに…」
〘ユーマ…ユーマは最近楽しそうだね。〙
「………。」
急に真顔で話し出すカイト君…何だか怖い。
振り解こうと思っても何だか悪い気がして出来ない…
「あの…離して…」
〘朝あげたの、使わないの?〙
「…っ……つかわ、ない…」
〘なんで?〙
なんでって……
どうしてそんな事君に言われなきゃならないんだ。
〘ザンゲ…〙
「…!」
〘しないの?〙
腕から頬へとカイト君の手が移動する…
真っ黒な瞳に捕らえられ動けない……振り解いて帰らなきゃいけないのに。
〘生まれてきてごめんなさい…って。〙
「………。」
〘ユーマはシアワセになっちゃだめなんでしょ?〙
そう…だ……俺は…
〘ふふっ………シアワセが怖いんでしょ?〙
「……う、ん…」
〘僕とユーマは違うけど、僕はユーマの気持ちがわかるよ。〙
「なんで…」
〘僕は…はぁくんが構ってくれるから。〙
「構う?」
〘うん。僕が怪我をすればはぁくんは構ってくれる。でもユーマは違うでしょ?ザンゲでしょ?〙
懺悔…
でももう開放された…
じゃあ一体何に対して…
〘ユーマは…あのセンセーにとって何?〙
「先生にとっての……俺……」
〘ユーマのパパは殴ってくれた…でもあのセンセーは何もしてくれない……ユーマのこと構ってくれない。〙
「か、まう……」
段々と脚の力が抜けて、俺はその場に崩れた…
先生は俺に何もしない…
それはいい事だと思っていた……
―【っとによぉ…お前はストレス発散にしか能がねぇな!】―
父はそう言って殴った…
それすらも今はされない。
〘痛みがない世界なんて……いらないでしょ?〙
「………。」
〘ねぇ、ユーマ…朝あげたの…ほんとに使わないの?〙
脳裏によぎるカミソリ…
"ソレ"を腕にあて、横に引けば血が流れる…
そうしたら先生が…
〘ふふっ……そうだよユーマ…その目だよ…何も映さないキレイな目…〙
「……。」
〘ユーマは可愛いね……〙
座り込んでしまった俺をカイト君は抱き締めた…
そして優しく頭を撫でる。
消毒液の匂いが頭を埋め尽くす…
〘はぁくんはね、僕のことが好きでワザと僕を置いてったりするんだよ…僕がはぁくんのこと好きか確かめたいから…ふふっ…可愛いよね…〙
「………。」
〘ユーマはセンセーに愛をもらってる?〙
愛を…貰う…?
〘一緒にいるだけなら…動物にだって出来るよ?ユーマじゃなくても出来る…〙
「……。」
〘ユーマが可哀想だから一緒に居るんじゃない?〙
「俺が…可哀想だから……?」
頭の中で警告音が鳴る。
頭では違うと叫んでいる…けど………けど……
〘でも今のユーマは可哀想じゃないよね…じゃあもういらないんじゃない?〙
「いら、ない……」
〘可哀想なユーマ…センセーに捨てられちゃうね。〙
先生に…捨てられる。
嫌だ……嫌だ!!
先生に捨てられたら俺はどうしたらいい?
〘捨てられたくないなら…ケガしちゃえばいいんだよ。〙
「………。」
カイト君がポケットからあのカミソリを取り出す…
そして優しく微笑んだ。
〘こうやって……〙
俺の腕を掴み、袖を巻き上げる…
カミソリの刃を腕にあてがい、より一層深く微笑んだ。
〘またやろうね…〙
鋭い痛みと共に、腕にぱっくりと白いスジが出来上がった…
プツプツと赤くなり血が溢れる…腕を伝い、床に斑点を残した。
〘戻っておいでよ…ユーマ。〙
そう言ってカイト君は俺の血を舐めた。
ピリピリとした感覚が身体中に広がって、我に返る。
「………っ…!」
急いで立ち上がり、下駄箱へと急ぐ。
切られた腕を抑えながら…
「…っはぁ……はぁ……っ…」
カイト君の言葉が離れない。
俺の必要性?
懺悔?可哀想だから?
分からない…分からない……嫌だ…嫌だっ…
―〘可哀想なユーマ…センセーに捨てられちゃうね。〙―
捨てられるのは…もっと嫌だ…
それなら…どうしたら良いんだっけ…?
―〘捨てられたくないなら…ケガしちゃえばいいんだよ。〙―
ケガしちゃえば……良い……
でも…それをしたら…先生は…
だけどっ……俺は…っ……
「……っ……」
腕が痛い…
腕が熱い…
目が熱い…
先生は…俺に優しい……
優しいけど……それは俺の必要性の答えになってない…
先生が俺に優しくするのは…俺が可哀想だから…
父に暴力を加えられる俺を…助けたいから……
それなら…今の俺は……?
父に暴力を加えられない俺は…?
「……はぁ……はぁ……っ……」
足を止め、下駄箱で佇む。
先生に必要とされるなら……また…
でもそれは先生を困らせるだけだし…
でも…バレないなら…
『勇間?』
「…っ…」
ビクリと肩を揺らしながら声の方を向くと、先生をが居た。
大量の資料を抱えている…
「何でも無いよ…大丈夫…」
そう告げ、靴を取り出した。
『勇間。』
「……。」
資料を下駄箱の上に置いた先生は、俺の前に立った。
真剣な顔をしている…
そして俺の頬に手を添えた。
『本当に大丈夫か?』
「…っ…大丈夫だって言って」
『泣いているのにか?!』
「……っ…!」
『それのどこが大丈夫だって言うんだ!』
声を荒げた先生に少し驚いた。
怒っているのが目に見えて分かる…
『ごめん…大声出して…』
「………。」
『勇間……何があった?』
驚きと戸惑いで余計に涙が溢れる…それを必死に拭うが止まらない。
先生を怒らせてしまった…
先生を困らせてしまった…
面倒臭いって思われてしまった…
捨てられる?
良い子じゃないから…っ…
どうしよう。
どうしよう…
『勇間…』
「ごめ…っ……なさっ…ごめん、なさいっ…」
『ごめん、ごめん勇間…違う…違うよ。』
「いっ…良い子になる、から…っ…だからっ、捨てないで…ぅっ…」
『…っ…ごめんな…』
俺を優しく抱き締めた先生…
力が篭っているけど、優しい包み方。
頭を撫で、何度も謝る先生…
俺のせいで…先生が謝っている。
違う…俺のせいなのに…俺のせいで…っ…
ごめんなさい…ごめんなさい…っ…
自分で…罰を与えなきゃ…
あの後、先生は俺を家まで送りまた学校へ戻って行った…
先生の匂いがする…
けれどそこには先生が居ない。
ただの暗い部屋だ…
俺のせいで手間を増やしてしまった…
また涙が溢れそうになり、堪える。
朝カイト君から貰ったモノが机に置かれている。
「………。」
それに手を伸ばし、掴む。
先生に迷惑を掛けている……でも先生は優しいから俺を殴らない。
それなら俺自身が罰を与えなければ…
「ごめん…なさい……」
腕に刃を立て横に引く…
月明かりに照らされ、ゆっくりと溢れだした血が光る。
痛みは…無かった…
久しぶりの感覚に何だか胸が高揚した。
嗚呼…この感覚だ……
段々と自分の感情が落ちていく。
先生…ごめんなさい。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
19 / 243