アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
真羅 ~side~
-
風呂場からシャワーの音が聞こえる…
勇間が脱衣所に入ってから少し遅かった。
『さて、と……勇間は何を隠して居るんだろうな。』
ソファーに座り、考える。
ふと足元を見るとカーペットの端が赤くなっていた。
『………。』
捲るとその下には血が付着していた。
量からして…恐らく沢山切ったんだろう。
指ではなく、腕を…
『はぁ……』
深い溜息を吐き、顔を手で覆う。
勇間が泣いていた理由と何か関係があるのだろうか…
もしかして…
『カイト君…か……』
きっと放課後、どこかで鉢合わせたか…カイト君が勇間に会いに行ったか…
どちらかは分からないがきっと後者だろう。
何を吹き込まれたのか…勇間をあの状態にして、なんの意味があるのか…何一つとして理解し難い。
怒鳴るのは嫌だ……勇間が怖がってしまうから。
でも今俺の中を埋め尽くしている怒りは…きっと消えない。
勇間を怒っても仕方の無いことではあるが…強く突き放せない勇間に腹が立ってしまう。
嗚呼…頭が痛い…
『………。』
窓の外を見れば雨が降っていた…
明日まで続くんだろうか。
誤魔化しの様に頭で考えても、目はカーペットを見つめている。
部屋に帰ってきた時、何か違和感を感じていた…
ぎこちない表情の勇間…そして、少し切ったくらいでは充満しない筈の血の匂い…消毒液の匂いよりも強かった。
指摘をすれば勇間は嘘を付くために切ったのであろう指を見せた…
野菜を洗っているのに腕まくりをしなかったのもきっと…
カイト君と一体なんの話をしたのか…
前の勇間とごちゃごちゃになっている表情、行動。
幸せ………か……
俺だってまだ分からない…
確かに勇間と一緒に居るだけで幸せだと感じられる。
けれど、それは明確なものでは無いのも確かだ…
大方…カイト君に聞かれたのであろう。
『はぁ………』
2度目の溜息は重く感じた…
どうしたら良いのか…少しだけ勇間との接し方が分からない。
泣かせたいわけでも、怖がらせたいわけでもない…
でも強く言わなければならない場面で強く言えないこの状況が…なんとも歯痒い。
大きな音や声が…勇間にとってトラウマでもある…
「先生…?」
声の方を向くと、勇間が居た。
お風呂から上がった髪は、ちゃんと拭けていないのか水が垂れていた。
『ん、温まった?髪…まだ濡れてるからちゃんと拭きなさい。』
「あ…っ…」
タオルを取り、勇間の頭を拭く。
同じ匂いのシャンプーなのに…なんだか自分のじゃないみたいだ…
『………勇間…』
「ん…?」
ソファーに座るよう促し、俺は目の前に腰を下ろす。
勇間の手を包み込むように取る…
『………。』
「先生…?」
なんて言おうか…
勇間の事だからきっと聞いてしまえばまた傷を作る。
かと言って放置しても傷を…
吐き出しそうになった溜息を飲み込み、項垂れる。
幸せなら…それで良い……でも、それだけでは通せない事もある。
足元にはあの血痕…
自然と視線は勇間の腕にいく。
その行動を見ていたのか、勇間の身体が強張った…
「………。」
『俺の聞きたいことが分かるな?』
「う、ん……」
『じゃあ教えてくれるか?』
「……ごめ」
『聞きたいのは謝罪じゃないよ。』
「……。」
少し強く言い過ぎたのか、勇間は俯いてしまった…
それでも聞かなければならない。
俺だって怒ることはある…
確かにすぐにやめろと言ってもやめられないのは分かってる…
だが…1回に行う量が多い…それは勇間にとっても危ない。
だからこそ……
『勇間…傷はどれくらいだ?』
「………。」
『ここ、血で汚れてる。』
退いてカーペットに付着した血液を見せると、勇間の顔は青冷めた。
きっと気が付かなかったんだろう…
『捲ったらもっとあった……1つや2つじゃないだろ…』
「…っ……」
『勇間。』
言葉を探しているのか目が泳いでいる。
「ご……っ……えっと……」
『………。』
それでも言わない勇間に段々と腹が立ってきた…
少しだけ溜息を吐き、勇間から離れた。
「あ…っ…」
自室へ行こうとリビングを出た先で、勇間が後ろから付いてきた。
何を言うでも無いのに…引き止めてどうする気だ?
俺は正直言って、そんなに待ってられない。
『勇間、俺前にも言ったよな?』
「え…?」
震え混じりの声を発しながら、勇間は俺を見た。
その目は今にも泣きそうで…
でも俺には何も感じられない。
『俺でも怒ることはあるって。』
「あ…っ…せんせっ」
勇間の制止を解き、一瞥して自室に入った。
ドアの前で勇間が動揺しているのが分かる…
[……で、あの生徒が今日一日お前を遠くから追ってるわけか。]
『ん…まぁ……』
[一難去ってまた一難だなぁ…]
残業を進めながら友人と会話をする。
話の内容は…昨日の事だ。
あの後勇間とは顔も合わせず、会話もせず…
勇間が俺の後を遠くから尾行し、話しかけるタイミングを伺っていたのは知っている。
だがそれに気付かぬフリをしていたら…もうこんな時間になっていた。
『俺は…勇間が思ってるより心広く無いんだよ…』
[まぁそりゃ人間誰しもが広いわけねぇべなぁ。]
『でも逆効果な気もしている…』
[ん?……あー…そうかもなあ。]
責めれば責めるほど、勇間は自分を傷つけてしまう。
結局俺が折れなければならないのかもしれない…
それでも…今回はなぜか許そうとは思えない。
カイト君のせいだとしても、勇間の気持ちの問題でもある…
『はぁ……』
[………お前さ、あの子の何になりたいんだよ。]
『え?』
何になりたい……?
言っていることがよく分からず、動かしていた手を止めた。
友人も手を止め、俺を見つめている…
『そんな事…』
[あ?]
『分からない…』
[……。]
『今の俺は…勇間にとって"先生"だと思う…』
[そんなことは聞いてねぇよ。]
『………。』
[じゃあなんだ?救いの手を差し伸べるだけの神様にでもなりてぇのか?それとも、親代わりか?それなら誰にだって出来んだろ。]
苛立っているのか、友人の声は少しだけ荒くなった。
真っ直ぐ俺を見る目がなんだか居心地が悪く、耐えられず逸らしてしまった…
すると、急に立ち上がり俺を殴った。
『……って……何すんだよ…』
口の中が切れたのか、鉄の味がする。
対する友人は俺の胸ぐらを掴んだ…
[お前が今してる事は、迷いがあっていいのかよ!]
『…あ?』
[お前が迷えば、あの子はもっと不安になんだろ?!あの子の手を引くお前が!迷ってんじゃねぇよ!!]
もう一発を喰らい、俺は力無く項垂れる。
こいつの言ってる事は分かる…だがそれじゃ駄目な気もしている。
『お前に…っ…お前に何が分かる!!好きなやつが!何度優しい言葉を投げても自分を傷つけてしまうこの状況が!!』
[それでも手を差し伸べたのはお前だろうが!!!]
お互いを睨みつけ合い、荒い息遣いが準備室に響く。
生徒がいないとはいえど、警備員が駆け付けてしまうかもしれない…
口の中が鉄臭い…
怒りで頭も痛い…
この状況が苦しい…
『…っ…』
[こうなることくらい…お前ならわかってただろ?]
『……。』
[今更投げ出してんじゃねぇよ!救うだけ救ってお終いか?!ああ?!そんなん…無責任過ぎんだろ…!]
迷えば迷うほど、勇間は不安になる。
けれど、責めれば責めるほど傷が増えていく…
じゃあどうしろって言うんだ。
[お前だって…あの子だって人間だ。綺麗事並べて救われるなら皆救われてる。]
『……分かってる…』
[分かってねぇからこうなってんだろ。]
『……責めれば責めるほど、傷が増える。それならどうしろって言うんだ。』
腹の中でグルグルと掛け巡る疑問をとうとう口に出してしまった…
[だから怒りをぶつけて放棄するのか?]
『………。』
[……あのなぁ…お前があの子にとって良い人で居る必要なんて無ぇんだよ。お互いの感情を伝えずに、良い人ごっこで居て何が楽しい。]
『………。』
[傷が増えたら治してやればいい…壊れたならまた作り直せば良い。お前には幾らでもその手があんだろ。]
治す…
俺の上から降りた友人は、殴った腕をプラプラとさせていた。
体を起こし、口端から垂れていた血を拭う。
[殴って悪い…なんて俺は思ってねぇからな。]
『はっ……上等だ、今度は俺が殴ってやるからツケとけ。』
[んな状況俺が作ると思ってんのかよ。逆に手を痛めさせた慰謝料請求してやるわ。]
『ふっ…………ありがとな、なんか目ぇ覚めたわ。』
[そりゃ良かったよ。]
俺が迷ってたら駄目だろ。
勇間が悩む必要なんてない…
俺が守ってやらなきゃいけない存在だ…
大切な…
大切な俺の恋人を。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 244