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学校に着き、朝のHRを終える。
一時限目は何だったか…確か現国だった気がする。
時間割表を見て、やっぱりそうだと確認し引き出しから教材を取り出す。
すると、俺の席にクラスメイトが来た。
〔なぁ。〕
「……。」
話しかけられるとは思ってなかったからちょっと驚いた。
周りのみんなも視線は寄越さないが、聞き耳は立てている。
「な、なに…」
〔……あ、ごめん…急に話しかけられたらビビるよな。〕
「いや……大丈夫…」
〔俺、日下龍って言うんだけど…勇間で合ってるよな?〕
「う、うん…」
二カッと笑った日下君…は、俺の前の席に腰を下ろした。
突然の事でまだ脳の整理が追いつけてない…
急に話し掛けて何なんだろう…
〔いや、前から話してみたいなって思ってて。話すタイミング逃しちゃっててさ〜。〕
「………。」
〔前、本読んでたろ?あれ、俺も読んでてさマイナーだから話し合う人いなくって!つい声かけたんだけど…迷惑だった?〕
コテン、と首を傾げる日下君はなんだか犬みたいで、 …思わず笑ってしまった。
「ううん、話しかけてくれてありがとう。」
〔…!良かった!〕
日下君が話し掛けてくれた事で、周りに人が集まってきた…
ちょっと恥ずかしい…ような、そんな気持ちになった。
«えー勇間クンの髪めっちゃサラサラじゃん!»
「…っ!」
急に触れられ、少し肩がビクついた。
まだいきなり人に触られるのは…困る…
『お前ら席付けー。』
「……ぁ…」
«ちぇー…»
先生が来て、みんなそれぞれ席についた。
俺の周りから一気に人気が無くなり、少しホッとした…
が、先生の顔色は心なしか険しい。
「………。」
『昨日の続きからなー。順番に読んでー。』
{えー何か真羅先生やる気無くなーい?}
『んなことないわ。やる気に満ち溢れてるぞ、お前からな。』
{ひっど!}
教室が笑いに包まれる中、先生が巡回して来て俺の机に何か置いた……紙…?
周りにあまり見られないように、それを机の下で開く。
ー『仲が良いのは嬉しいけど、触れすぎ。』ー
一気に顔が熱くなった。
触れすぎ…って…先生を見ると、ニヤリと笑った口元を教科書で隠していた…
俺にしか見えない角度で…
嗚呼、心臓が五月蝿い…顔が熱い。
先生の独占欲が見れたのは嬉しいけど…これは駄目だ…俺が持たない…
グルグルと身体の中で熱を持て余していると、俺の番が回ってきた。
先生はずるい…
昼休みになり、お弁当取り出していると日下君が来た。
〔一緒に食べよ!〕
「あ、うん…」
キョロキョロ先生が見てないかさり気なく見回すと、日下君が声を潜めた。
〔どうした…?まさか、独占欲強めの彼女居るとか…?〕
「え、あっ…いや、違うよ…」
彼女…ではないけど…独占欲は強めらしい。
案外こういった面では優しくないのかも…新しい面を知ることができて嬉しいけど。
そんな事を考えていると、日下君が俺のお弁当からミニオムレツを攫っていった。
「あ…」
〔んま!なにこれ!?手作り!?〕
「ま、まぁ…」
作ったの先生だけど…先生が褒められて俺が嬉しいって、なんか変かな…
頬を掻きながら俯いていると視線を感じた。
この視線は…カイト君だ。
廊下の方へ目をやると、案の定居た…
皆物珍しい物を見る目でカイト君を遠巻きに見ている。
まぁ…白髪に近い金髪で包帯だらけだし…そりゃそうか…
俺も…違う意味では遠巻きに見られてたし。
〔……あの子…勇間の知り合い?〕
「…いや。お隣さんってだけで懐かれてるみたい。」
〔ふぅん………なんか俺すっげぇ睨まれてんだけど…〕
「………。」
小さく溜息を吐き、日下君に一言告げて席を離れる。
カイト君は俺が近づくと分かりやすく嬉しそうな顔をした。
さて…どう向き合おうか…
「……。」
〘ユーマ!〙
「こ、こんにちは…カイト君。」
〘こんにちは!ユーマ!〙
俺より少し背の低いカイト君は、俺に抱き着いてきた。
周りから余計に訝しげに見られる…
まぁ…そうだよな…言動がどうしてもカイト君は幼い。
ネグレクト……それがまた何か関係してきているのかも…
〘あのね!僕ね!ユーマにまたプレゼント持ってきたの!〙
「プレ、ゼント…」
嫌な予感がする…
また何か変なものを渡されたらどうしよう…ましてやこんな…学校でだなんて。
〘はい、どーぞ!〙
「………。」
渡されたものはノートだった。
「なに……これ?」
〘僕のノートだよ!〙
「………。」
何でこんなものを?
交換日記でもするつもりなのか…?
ページをなんとなく開く…
「……っ!!」
思わずノートを床に落とす。
開いたページはどれも赤茶色に染まっていた…これは……血だ。
文字が書かれているのも見えるが読む気にはならない…
こんなものがプレゼント…?
やっぱりカイト君は狂ってる…
〘せっかくプレゼントしたのに……〙
「これがプレゼント…?こんなのが…?!…ぅ…っ…」
吐きそうになり手で口元を抑える。
それを見ていた日下君が来て、ノートを手に取った。
〔…なにこれ…〕
〘返せよ!!それはぼくがユーマにあげたやつだ!!〙
〔ふぅん……?〕
ペラペラと冷めた目で、次から次へとページを捲っていく日下君…
それに対してどんどん怒りが膨れていくカイト君。
〔これ…他人にあげるもんじゃねぇだろ。〕
〘うるさい!!さわるな!!〙
〔うるさいのはお前だよ。何処のどいつか知らねぇけどよ、勇間は迷惑なんじゃねぇの?〕
「く、日下く…っ…大丈夫だから…」
『なんの騒ぎだ?』
〔……こいつが勇間にこんなの渡してたんすよ。〕
『…ノート…?』
日下君からノートを受け取り、ページを捲っていく。
その顔はどんどん不機嫌になっていき、終いにはそれを無言でゴミ箱へと投げ捨てた。
〘!!!!〙
『カイト君、人が嫌がる事はやめようね。』
〘〜〜〜っ……僕はユーマにあげたんだ!!〙
「………。」
ピリっとした雰囲気が4人を包んでおり、行き交う生徒たちが少し興味を持ち始めていた。
短い溜息を先生が吐くと、日下君に話しかけた…と同時にカイト君はゴミ箱に向かい、ノートを回収してその場から走り去って行った。
『ありがとな、日下君。』
〔いーえ。〕
「………。」
『大丈夫か?勇間…』
「…あ、はい。大丈夫です…それと、日下君ありがと。」
〔いいってことよ!〕
ニコリと笑う日下君に少しだけ救われた気がする。
胃から据えた臭いが競り上がって来て、堪えられずトイレへと急ぐ。
急いで個室へ入り、鍵を閉めて便器へと吐き出す…
「ゔ……ぉっ……え゛……」
鼻からも口からも嘔吐物が自分の意思に逆らって流れ出す…
落ち着いたかと思えば、また競り上がって来て吐き出す。
苦しい……涙も溢れ、今の顔面はとてもじゃないが誰にも見せられない…
そんな事を考えている間にも、次から次へと押し寄せては吐いてしまう。
『大丈夫か?』
「せ、んせ………」
ドアをノックする音と先生の声が耳に届いた。
ホッとするのも束の間、また吐き出す…
汚い音がトイレに響き耳を塞ぎたくなった。
胃の中が空っぽになったが、胃液すらも吐き出さなければ許さないと言わんばかりに胃が痙攣する。
『落ち着いたら開けて…ゆっくりでいいからな。』
「ゔ、ん……ぉえ゛…っ……ゔ……」
先生に聞かれたくない…けれど抑える事ができない。
苦しくて恥ずかしくて…辛くて…涙がもっと溢れてきた…
なんで俺がこんな目に合わなきゃ……っ……
やっと嘔吐くことも無くなり、トイレットペーパーで口元や鼻を拭く。
「はぁ……っ……はぁ…」
鍵を開けるが、出ていく気力も無くて…
力無く項垂れていると、先生がドアを開けた。
『落ち着いた?』
「うん…っ………ごめ、ん……」
『大丈夫……口の中濯ぐか?』
「うん…」
先生が買ってきたのか、ミネラルウォーターを俺に差し出した。
それを受け取り、口を濯いだあと胃を落ち着かせるために水を飲み下した。
冷たい感覚が胃に広がり…少し落ち着いた気がした…
「ありがとう…」
『ん。』
「………。」
何もせずに言葉を発しない先生…居心地が悪い。
怒ってる?
それとも…何か考え事?
恐る恐る先生のほうへ目を向けると、優しい顔で俺を見ていた。
『今日はもう帰りなさい…』
「で、でも…」
『またカイト君が来たら、俺が困る。』
「……。」
『それに、そんなになってる勇間を放っておけない…』
頭を撫でる先生の手がとっても優しくて、暖かかった。
思わずまた泣きそうになる。
緊張してたんだと…そう実感した…
「ごめん、せんせ…っ…」
『良いんだ…』
ゆっくりと抱き締められ、その胸に縋るように抱き着いた。
すると、出入り口付近で何か落ちる音がした。
その方向へ目を向けると…そこには日下君が居た…
そう言えばここ……学校…っ!
慌てて離れようとしたが、先生が離してくれなかった。
「せ…っ…」
〔先生と勇間って…そういう……?〕
「あのっ……えっと…」
どう弁解しようかと悩んでいると、落とした荷物を拾いながら日下君が笑った。
〔なるほどね…だから先生あんな目を俺に向けて来てたのか。納得したわぁ〜。〕
「へ…?」
〔あ、気にしなくて良いよ勇間。俺別に偏見とか無いからさ!〕
呆気にとられていると、先生がやっと俺を離してくれた…
が、手は腰を抱いたままだ。
笑顔でいる先生だが…心なしか苛立ってるような…
『悪いな、日下君。』
〔いえいえ…ってかそんなに警戒せんでくださいよ、俺狙ってないっす。〕
『……そう?』
〔えぇ。なんせ好きな人居るんで、俺。〕
『あぁ……叶か。』
〔あ、分かります?〕
「??」
話についていけなくて、頭に疑問符を浮かべていると先生がクスリと笑った。
そして俺の耳元で話しかけた。
『俺を殴った先生のこと。』
「えっ…!?」
驚いて日下君を見つめると、ニコニコと笑っていた。
まさか日下君が…?ということと、あっさりカミングアウトしていいの?という2つの疑問が頭を埋め尽くした。
〔そ、だから別に大丈夫っすよ。ただ純粋に勇間と仲良くなりたかっただけ。〕
『そ…』
そこまで聞いて、先生は俺から離れた。
少し寂しいような……
〔で、あいつ本当に何なの。〕
『んー……日下君まで巻き込む訳にはなぁ…』
〔もう充分首突っ込んでますって…〕
「……ごめん…」
〔あ、勇間のせいじゃねぇって!俺が勝手に入っただけだから!〕
「………。」
日下君も…優しい人だ……
何も知らなかった…皆、俺と話してみたかったって言ってくれてた…
なのに俺は変に過敏になって逆に遠ざけてた。
こんなにも優しい人ばかりだったのに…
『まぁ…今の所カイト君は勇間に懐いてる…それも可笑しな形でな…』
〔まぁ…あのノート見てプレゼントだとは誰も思わないだろうね。〕
「……っ…」
血に染められたノート…
"死ね"という文字で埋め尽くされていたあのページ。
あれがプレゼント…?頭がおかしい…
〔他にも何かされてたりするのか?〕
「……。」
『話したくなければ俺が言うよ…?』
「大丈夫……」
深呼吸をし、ゆっくりと口を開く…
あの日の出来事と、カミソリを渡された事…自分のペースでなるべく伝わりやすいように話した。
話を聞いた日下君は、顎に手を添えて何か考え込んだ。
重い話だし…聞いて後悔してるのかも…
「ごめんね、日下君…こんな話…」
〔いやいや、寧ろ聞けて良かったよ。話してくれてありがとな…〕
今までの屈託ない笑顔とは違って、優しい…気遣う笑顔が向けられて…なんだか胸が苦しくなった。
『と、言う訳で…とりあえず今日は帰りなさい。』
「う、うん…」
『ベランダも玄関も鍵をちゃんと締めること。』
「うん。」
『チャイムが鳴っても出ちゃだめだ。』
「はい。」
『俺が帰るときは連絡するから…』
「…はい。」
〔え?なになになに?二人って同棲してんの??〕
その言葉に先生はニコリと微笑んだ。
〔うわマジかーーっ!!〕
崩れ落ちる日下君を見て更に笑う先生…なんだか悪魔みたい…
そんなことを考えながら、俺達は教室に戻った。
先生に言われたとおりに帰る自宅をしていると、また人が集まってきた。
《大丈夫?》
「あ、う、うん…」
[お大事にな…]
色々声を掛けられながら、教室を出る。
すると先生が待っててくれていた…
『またカイト君に来られちゃ困るからな。』
「うん…ありがと、先生。」
他愛もない会話をしながら正門まで来た…
家で会えるけれど、なんだか心細い。
それを察してか、先生が俺の頭を撫でた。
『大丈夫、すぐ帰るから。』
「うん…」
『じゃあ…家の掃除とか任せてもいいか?体調が優れなかったら全然休んでて良いから。』
「うん、頑張るね…じゃ、先に帰ってます。」
『気を付けてな。』
先生が帰ってくるまで、家の掃除をして…洗濯物を干して、畳んで…
夕飯の支度もしちゃおう。
そしておかえりなさいって言うんだ…
先生の疲れを吹き飛ばせるように…
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