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崩れていく精神
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あれから二ヶ月が経った。
カイト君は何も干渉してこなくなった…
ベランダからも、学校からも…平和な日々が流れていった。
けれど、その代償のように最近は悪夢を見るようになった…
今朝も悪夢から目が覚めて、時計に目をやればまだ4時だった。
「………。」
冷や汗をかいていたのだろう…体中がベタつく…
シャワーにでも入ろうか…そう思いベットから降りようとした時、左腕に痛みが走った。
捻ったのか…?
いや、違う。
この痛みはよく知っている…まさか…いや、でもどうして?
恐る恐る左腕に視線をやると、血が滲んでいた…
滲むの域を超えている…嗚呼…なんで、どうして…
記憶がない、無意識?
でもこの部屋には刃物なんて無いはず…
どうしよう…
どうして…
現状を把握しようとしても、疑問が次から次へと出てきて頭の中がごちゃごちゃになっていく。
袖を捲くれば無数の切り傷…
なんで…
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてなんでなんでなんでなんでなんでどうしてなんでなんでどうしてどうしてなんでどうしてなんでどうしてどうしてどうしてどうしてなんでどうしてなんでどうしてなんでどうしてどうしてどうしてなんでなんでなんでなんで………
なんで………
幸せな毎日な筈だろう?
あの人を悲しませては駄目だろう?
怒られる…捨てられてしまうかもしれない。
あの日後悔したじゃないか…っ!!
なぜこんなことを?
なぜこんなことに?
嫌だ…
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!!!
嫌われたくない捨てられたくない先生に捨てられてしまったら俺はもう生きている価値なんて無くなるそうしたらもう二度と立ち上がれないそんなことよりも早く隠さなきゃ刃物なんてこの部屋には無いはずなのにどうして見つかりたくない嫌われたくない包帯はあるだろうか気持ち悪い痛い苦しい捨てないで先生嫌わないで先生俺から離れないで先生助けて早く見つけてやっぱり見つけないで欲しいどうしたら良いどうしたら隠せるもう何も考えたくない死にたい生きたい怖い痛いお願いだから…
捨てないで…
ぐちゃぐちゃな脳内を必死に活動させ、取り敢えず手当はしなきゃ…
救急箱…は、リビングだ…でもそうなると必然的に先生の部屋の前を通らなくてはならない。
足音を立てずに行ったとしても…きっと物音がしたら先生は起きてしまう…
嗚呼…どうしよう…
行くだけ行ってみようか?いやでも見つかったらどうしよう…
また複雑に絡み合う思考…それでも身体は既に動き出していた。
「………っ…」
痛い…
バレないようにそっと足を忍ばせる…外にも聞こえてるんじゃないかってくらい、体中に響く痛みが五月蝿い。
リビングに辿り着き、救急箱を探す…
たしか棚の上にあったはずだ……嗚呼、あった。
そっと持ち上げ、蓋を開ける…減ったら確実にバレてしまうかも…
不安な気持ちがある…でもこのままだと駄目だろう。
包帯とガーゼ、テープを必要なだけ取り出し、脱脂綿に消毒液をたっぷりと染み込ませその場を立ち去る。
全て音を立てないように慎重に行った…
部屋に戻り、どっと疲れが襲った。
こんなにも神経を使うのはいつぶりだろう…
早くこれをどうにかして、またいつも通りに戻らなきゃ。
話したら先生はきっと……きっと……っ…
「…っ…ぅ……」
涙が溢れて、嗚咽が溢れた。
外に聞こえないように手で口元を必死に抑える。
大丈夫…大丈夫…前まで出来ていたじゃないか…
そう自分に言い聞かせながら、必死に…必死に声を押し殺して泣いた。
先生のお陰でここまで変われたのに…これじゃあ意味がない…
結局またふりだしに戻るなら…先生のしてくれた事全てが無駄になってしまう。
そんなのは許さない…先生が許してくれたとしても俺は一生自分を許してはおけない。
ごめんなさい…ごめんなさい…
「…っ…め、なさ…っ…うっ……ぅぁっ……ふ…っ…」
手の隙間から漏れる声が嫌に響いて、耳も塞ぎたくなった…
俺はなんて最低な人間なんだろう。
生きたいと願い、先生の手を取り…幸せな日々を送っていたのにこうして踏みにじるようなことをして…
無意識だったとしても、自分でやったことには間違いないし変わらない事実で…嗚呼、また息苦しい日々がすぐそこまで来ている。
終わらせなきゃ…自分の手でどうにかしなきゃ…
なのに……なのに頭のどこかで先生の助けを求めている。
醜い……弱い……何も変わってない…
こんな自分なんて大嫌いだ…っ…。
怒りを込めて自分の腕を、消毒液に浸された脱脂綿で乱暴にこする。
血が止まらない…こんな血なんて無くなればいいのに…
先生との幸せな日々で満たされたい…なのにどうして…。
嗚呼、この血が無くなれば……
そうか…無くせば良いんだ。
床に落ちた血液に微笑む自分が映っている…
うん、そうだ…無くそう…
ふらりと立ち上がり、キッチンへと向かう…
「無くそう……全部…」
包丁棚の奥に押し込まれるようにして、果物用の包丁が居た…
少し血が付着していて、嗚呼…これが俺の使っていたものだったんだ…なんて思いながら手に取る。
切れ味はさぞ良いだろう…
汚い血に染まった腕に刃をあてがい、横に力を込めて引く。
切り落とす勢いでやったのに…全然切れていない。
もっと…
もっと強く。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!!!!!!!!!!!
『勇間、何してんだ…?』
「…っ!!」
先生の声がすぐ後ろから聞こえた…
見られた…見られてしまった。
どうしよう、捨てられてしまう。
嫌われてしまう…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ…嫌、なのに……
『勇間。』
「…ぁ…っ……あぁ…っ…ごめんなさい…っ…っごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」
『聞きたいのは謝罪じゃないよ…』
優しい口調なのに今はそれが怖い。
どうしたら許してもらえる?
どうしたら笑ってもらえる?
嗚呼…気持ち悪い…嫌だ…苦しい痛い…
自分でやったことなのに、まだ縋ろうと…許しを乞う自分が気持ち悪い。
『はぁ……』
先生が大きくため息を吐いた…
身体が石のように固くなっていく。
呆れられた…
駄目だ…
捨てられた…
嫌われた…
もう生きてる価値が無い…
死にたい…
死ななきゃ…
血を全て無くしたら許してもらえる?
必死に手を動かし自分の血を流す。
先生直ぐに全部無くすからだから待っててお願い捨てないで嫌いにならないでっ…
『勇間!!』
駆け寄り、俺から包丁を奪おうとする。
嫌だ…まだっ…まだ全然足りない、まだ全部無くなってない。
『やめろ!!!!』
「……っ!」
先生が大声を上げた…
嗚呼、また…また同じ事を…
カタカタと震える身体…でも先生は抱き締めてくれない。
当然だ…先生が嫌な事をしてしまったんだから。
自業自得だ…
「無、くしたくて………っ…全部!…汚くて弱い自分の血を…っ…先生に嫌われたくない…でも…っ…でもっ…!」
嗚咽のせいで言葉が上手く発することが出来ない…
どう言っても先生には響かない…そんな事は分かりきっている。
でも…でもどうにかしなきゃ…じゃないと見棄てられてしまう。
『………。』
先生は何も言わない…
嗚呼…終わったんだ…もう…もう何を言っても無駄なんだ。
より一層目から涙が零れ落ちていく…
苦しい…辛い………でもこの状況を作り出したのは他でもない…自分で…だからもう無駄な足掻きはやめなきゃ…見苦しい、だけだから…。
「ご、めん……なさい…」
『うん……取り敢えず包丁は貰うからな…』
床に落ちた包丁を手に取り、先生は苦しそうな表情で流しへと置いた。
まただ…また俺は先生に…
『勇間…またカイト君が関係してるのか?』
「………。」
『…黙ってたら何も分からないだろ?』
俺だって分からない…
朝起きたらあって…自責が押し寄せて、それは自分の血が汚いからで…でも…でも……
「……っ……」
『はぁ……』
また一つ…先生が大きな溜息を吐いた…
もう何を言っても先生を呆れさせてしまう…それなら喋らないほうがいいんじゃないか?
そう思ってしまうほど、俺の頭も気持ちもぐちゃぐちゃになっている…
先生…先生ごめんなさい。
許して…お願い捨てないで。
見つけてくれてありがとう…見ないで欲しかった。
嗚呼…気持ち悪い…嫌だ…
『勇間…』
「………。」
『勇間、こっち見て…』
「い、やだ……」
『勇間…』
「やだ!!だって……だって先生今から俺のこと捨てるんでしょ!?そんな話なら聞きたくない!!」
『……違う。』
「違くない!!先生はもう俺を嫌いになった…呆れてるじゃん!俺は…っ…俺は先生に捨てられたら…っ…もう…っ」
『いいから聞け…!』
先生に両頬を挟まれ、強制的に目が合わさる。
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
聞きたくないやめて捨てないで嫌だ先生ごめんなさいやめて。
『勇間は…幸せじゃなかったのか…?』
「………。」
頭を強く殴られたみたいに、真っ白になった…
先生にこんな…こんな辛い言葉を言わせてしまった。
嗚呼…なんて俺は馬鹿なんだ…
どうしてこんな事をしてるんだ。
『俺の力不足…か…』
「違う!!!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
でも…でも確かにそれは違うんだ…
「先生は…先生は俺を救ってくれた!!俺を好きになってくれた!!全然力不足なんかじゃ…っ…」
『じゃぁ…じゃあどうしてこんなことを…っ…』
嗚呼…先生をまた泣かせてしまった…
嗚呼…嗚呼…。
「あ、朝起きて…腕が痛くてっ…見たらもう…」
『そっか……』
わかってもらえた…?
でも何か…何か違う。
先生は頭を撫でてくれた…優しい顔と暖かい手で…
でも違う…
「せんせ」
『…ごめんな。』
そう告げると先生は俺を抱き締め、部屋に戻った。
何がごめんねなの?
どうして先生は…
また涙が出てきた。
嗚呼…最後なんだ…撫でてもらえるのも抱き締めてもらえるのも、優しい声も顔も全部…
最後なんだ…
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