アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
真羅 ~side~
-
朝物音がして目が覚めた。
勇間が何かしているのはすぐ分かった…でも、あんな事をしていたなんて…
悔しさもあったが怒りの方が大きかった。
泣きじゃくり、震えている勇間を見てもどこか冷めていて…何も出来なかった。
勇間は幸せじゃなかったのか?
無意識だったとしても…きっとそうだったからまた始めてしまったんだ。
そう思ってしまうほど…あの光景が頭から離れない。
『………。』
目の前のインターホンを押すと、友人が出てきた。
少し不機嫌そうな顔で…
[なんだ……また殴られに来たのか?]
『違うけど…ちょっとだけ力を貸して欲しい。』
[……入れ、先客居るけど空気だと思えば良い。]
先客?
疑問に思いながらリビングに入っていくと…日下君がいた。
とても良い笑顔で…
『あら…』
〔こんにちは!〕
『そう言えばそうだったけね…』
[は!?おまっ…話したのか…]
〔そんなに怒んないでよ〜!〕
[当たり前だろうが!!]
『…ま、まぁまぁ…良いじゃないの…似た者同士集まってて。』
そこまで言うと、叶は不服そうにしながらもお茶を出してくれた。
有難くそれを飲み下す…少し落ち着いたような……何も言わずに出て来てしまったけど、勇間は…
[…で?]
『ん?』
[何を手伝えって?]
『あぁ…』
[家出中匿えって顔じゃねぇ…何かすんだろ?]
『…まぁ、そんなとこ。』
〔え!?なになに!?喧嘩したの!?〕
[うるせぇなお前、空気なんだから黙って息しとけ!]
〔え〜!!〕
『………その…あんまり重い雰囲気にはしたくないんだけどな…。』
頬を掻きながら視線を下に落とす…
正直に全て話すべきか…いや、でもこれは俺らの関係であって…けど現にこうして叶の所に来てしまってるし…嗚呼、思考回路がめちゃくちゃだ…
[…話せねぇのに来たんなら、帰れ。そんなに暇じゃねぇんだ俺も。]
『ごめん……話すよ。』
所々掻い摘んで話した。
叶は全て聞き終わるまで、ずっと目を逸らさずにいた…
そして、大きなため息を吐き…頭を乱雑に掻き毟った。
『……。』
[だいたい今の状況は分かった……が、何で出て来た?悪化するかもしれないだろ。]
『そ、れは…』
[あ?]
『元凶を…絶たないとと思って…』
[はぁ?…まさかお前、あの生徒の親父に会いに行くつもりか?]
俺は黙って頷いた。
また一つ、叶は大きくため息を吐いた…
呆れているのか…何なのか、俺には分からない。
でも、俺の意志は固い。
意味が無いかもしれないが…一つの手段としては良いとは思う。
いずれにせよあの人は出てくるのだから…それならもう会わないように…記憶からも消せるように、どうにかしてやりたい。
方法は………まだ何一つと思い浮かんでないけど。
〔え?じゃあ何?勇間の親父さんを殺しにでも行くの?〕
[アホかお前は!]
頭を叩かれた日下君は、痛いと言いながらも笑顔だ…Mか?
[会ってどうする。]
『………。』
[どんなに酷い奴でも、父親は父親だぞ。]
〔えー…俺だったら迷うことなく殺すね。〕
[だからお前っ…]
〔だって、そいつのせいで恋人が苦しむなら解放してあげたいじゃん?何しても駄目なら先生みたく、元凶絶ちたくなるって。かなちゃん…現実思考だけじゃ解決できないことだってあるんだよ?〕
[……っ…]
押し黙った叶は、バツが悪そうにお茶のおかわりを作りに行った…
残された俺と日下君。
〔ね、先生…どうするの?〕
『どうする…って……流石に人殺しになりたくは無いよね。』
〔そっか!〕
『でもまぁ…一つの意見として有難く頂戴するよ。』
〔……でも先生、本当に会ってどうしたいの?話し合い?それとも説得?かなちゃんみたいに一発入れる?〕
[俺みたいには余計だ。つか、かなちゃん呼びやめろつってんだろ。]
戻って来た叶にまた殴られる日下君…こんなキャラだったのか…
殺す…までは行かなくとも、何かはしたい。
殴る?
話し合い?
どれも納得行く意見はない。
[先が長いな…そんな直ぐに行動しなくても良いんじゃないか?一旦家帰れよお前。]
『それは…』
[帰らないつもりか?ここに置けって?馬鹿言うなよお前。]
『……勇間が落ち着くまでで良い。』
[落ち着くまで…って…帰って死んでたらどうすんだよ。]
『そしたら俺も死ぬ。』
[……アホか。]
『まぁ…それは冗談として、そうなる前にはちゃんと帰るさ…』
ただ…それがいつかは分からない。
もう明日かもしれない。
それなら早くやる事を終えて、帰ってやらなきゃ…
今は…今はまだ帰れない。
帰ってもまた、朝のような事を繰り返すなら…まだ…
[難しい事考えてんじゃねぇぞ。楽観的に行けこういうのはな。]
『おう…』
〔かなちゃんカッコイイ〜!〕
[黙っとけ空気。]
俺は…
俺はどうしたいんだろうか…
勇間を笑わせてやりたい。
幸せにしてやりたい。
なのに…どうして上手くいかないんだ…
元凶を絶った所で、勇間は楽になるだろうか?
『勇間と…父親を対面させる…?』
[は!?お前…それは冗談だろ?]
『いや…割と本気だ。』
[馬鹿か?対面させたとて、また何かあったらどうすんだよ!]
〔俺もそれは反対かなぁ…だって、居場所突き止められるようなもんじゃん。勇間が危な過ぎる。〕
『……。』
〔先生さぁ…切羽詰まり過ぎじゃない?もうちょい慎重に行こーよ。〕
[………。]
〔そんなに焦らなくても勇間は死なないよ、だって先生がいる訳だしさ。たまには勇間を信じてみたら?〕
『そう、だな…』
〔信用できないの?〕
『いや…そういう訳じゃ…』
そういう訳じゃ無いけれど…あの状態を見たら少しだけ欠ける。
嫌われたくない…捨てられたくない………か…
でもあの時、勇間は言っていた…全てを無くしたい、と。
弱くて汚い血………そんな事は無い…
俺の手を取って一緒に来てくれた…その決断をしただけでも充分強いのに。
じゃあ…汚いって何のことだろう…
嗚呼、また一つ俺が分からない勇間が居る。
全てを理解したい…けれど、全てを打ち明けてはくれない…
追い掛ければ逃げてしまう…
それでも…俺に縋る勇間…俺は…どうしたいんだろうか。
また悩んでいると友人に殴られてしまうな…とか考えながらちらりと二人を見る。
[考えなんかすぐまとまる訳がねぇ。だけど、生半可な事を言ったらまた殴るからな……いいか、あの生徒にはお前が必要だ。お前にも…あの生徒が必要だ。お互いが100%信用できないなんて当たり前ってもんだ…世の中そんな上手い話あるわけが無い。話したくない事だってある、全部を知ることが義務じゃねんだ。]
『……。』
[お前はきっと全部分かってやりたいんだろ?けどな、それをあの生徒が望んでたか?全部を知って欲しいってよ…無理矢理聞いてお前は納得するか?]
『しない…』
[たまには自己解決させるのも手だぞ。]
『………おう。』
自己解決させる…か……
本当にそれで良いんだろうか…嗚呼、今凄く弱気になっている。
これじゃあ駄目だ…駄目なんだけどなぁ…
自嘲気味に笑うと、叶が眉を顰めた。
[後悔してんのか?]
『まさか…ちょっと自分の弱さを知っただけ。』
[なら良いけどよ…あんま煮詰めんなよ。]
『おう。』
叶は本当に強くて優しい奴だ…
俺は…優しいだけで全然弱い…勇間は俺なんかと一緒で本当に幸せなんだろうか。
幸せなら…どうして…
嗚呼…苦しい…
このままじゃ駄目だ…何かしなくちゃ。
『自己解決させるにしても、あのままだとどうなるか分からない。』
〔んー……取り敢えず先生と勇間で話し合ってみたら?そんで、たぶん勇間も自分が何でしたのか分からなくてパニック起こしてるだろうから、刺激せずちゃんと待ってあげなよ。全て聞けなくても、先生には何となく分かるところもあるでしょ?かなちゃんも言ってたけど、そこから自己解決させてみたら?〕
『日下君…なんか大人だな…』
〔先生が珍しく弱気だからだよ。〕
笑いながら言う日下君に、少し救われたような気がする。
話し合い…そうだな、もう一度勇間に聞いてみよう。
朝は怒りで余り聞けなかったと思う…勇間も焦って言えなかったこともあるだろう…
[ま、今日は無理だろうから明日話し合ってみろよ。]
『ん、そうする。』
〔良い?先生。絶対に、怒り任せで言葉を発しちゃだめだよ?落ち着いて、しっかりと言葉選ぶんだよ?〕
『ふふっ……なんか俺、一番下っ端みたいだな。』
[助言求めてる辺りそんなもんだろ。]
笑い合いながら、頭は勇間の事でいっぱいだ…
今どうしているのか…
ちゃんと今日はご飯を食べてくれるのか…
ちゃんと…寝られるだろうか…
早く解決して抱き締めてやりたい。
安心させてやりたい。
そして、謝りたい。
怒りだけの感情で何も言わずに…何もしてやれずに出てってしまった…
だから帰ったらちゃんと手当して、大丈夫だって言ってやりたい。
だから勇間…今は頑張って…
俺も頑張るから…
また幸せな日々を送ろう…
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 244