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存在
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〔退院おめでとー!!〕
「ありがとう……って言っても特に大きな事では無いんだけどね…」
〔それでも入院は入院だろー?〕
「ま、まぁ…」
〔それに、怪我も酷くなくって安心したし…本当良かったよ。〕
「そうだね…」
久しぶりの太陽…かと思いきや雨だった…
全然晴天じゃない。
ジメジメしてて嫌だなー…と、日下君はワイシャツをパタパタと扇いだ。
うっすらと汗が滲んでて、前髪が額に張り付いている…
「タオルあるけど…使う?」
〔お!サンキュー!〕
ベンチで先生の迎えを待つが…中々来ない。
渋滞でもしているのだろうか?
「日下君って癖っ毛だったりする?」
〔ん?どうして?〕
「毛先がいつもよりうねってるから…」
〔あー、なるほど…そーなのよぉ…だからホント梅雨嫌い。〕
不貞腐れた様に髪の先を指で摘んだ日下君。
その髪も汗で少し束になっている…
〔勇間はストレートっぽいな。〕
「うん、髪の量も少ないから楽だよ。」
〔将来早く禿げそうだな!〕
「失礼だなぁ…ワックスとかアイロンとか使ってストレートにしている人程禿げやすいって聞くけどー?」
〔そうなのか!?やっべぇじゃん……〕
真に受けて落ち込む日下君を見て、思わず笑ってしまった。
そうこうして居る間、先生からメールが届いた…
どうやら着いたみたいだ。
「先生、来たみたい。」
〔お!じゃあ行くか!〕
「うん。」
〔荷物持つよ…貸して。〕
「ありがと…」
一番着替えが入った鞄を日下君が持ってくれた。
なるべく雨に濡れないように…と、二人で車一直線に走った。
先生の車に乗り込み、息を整える。
久し振りに走った気がする…
『凄い雨だよなぁ…』
〔ほん、とにねぇ…はぁっ…〕
『ほら、二人共タオル。』
「ありがとう、先生。」
〔俺はさっき勇間から借りたから大丈夫!〕
『そうかそうか、じゃあしっかり拭けよ〜。』
そう言って先生は車を走らせた。
流れる景色に目を向けながら、たまに窓に反射している先生の横顔を見つめる。
『あ』
「どうかしました?」
『退院おめでとうな。』
「ふふっ……はい。」
『おかえり。』
「…ただいま。」
〔………ちょっとちょっと〜?俺居るんですけどぉ〜…〕
不貞腐れた顔の日下君が俺らの間に割って入った。
思わず俺と先生は顔を見合わせながら笑ってしまった…
『ごめんごめん…後で叶呼んでやるから。』
〔それならまぁ許します…〕
「許しちゃうんだ。」
笑いながら会話を続けていると、マンションに着いた。
先生と日下君が俺の荷物を全て持ってくれたので、俺は手持ち無沙汰になってしまった…
大人しく後ろを歩いていると、ふと視界にポストが目に入った。
白い封筒…?
『どうした?』
「いや……手紙、ですかね…これ…?」
意外と軽い…けど厚みがある…
部屋で開けるのが何故か怖くて、その場で封を切った。
「ひ…っ!」
手から離れた封筒は中身を吐き出した…
入っていたのは黒い髪の毛で…
気持ち悪くなった俺はその場に力無く座り込んでしまった。
中身はまだある…
それは今度こそ紙で…
風に吹かれてそれは開いた。
- 会いたい…けれど今はまだダメ -
赤い…赤い文字…?
も、しかして…これ……血で書かれた文字…
『勇間…!』
「はっ……あっ……」
息が苦しい。
誰がこんな事を…
父か?
それともあの男子生徒?
もしかしたら知らない人かも…
『大丈夫…落ち着け…ゆっくり息を吸うんだ。』
〔これ捨ててくる!!〕
『ああ、頼む…!』
「はっ……はぁっ……は…っ……」
『大丈夫…大丈夫だぞ……』
優しく抱き締める先生…
背中を優しく撫でる手のお陰で、段々と自分の呼吸のリズムを取り戻せる事が出来てきた。
「はぁ…っ……はぁ…っ……な、にアレ…」
『考え無くて良い…もう忘れよう…歩けるか?』
〔捨ててきた…何アレ…勇間大丈夫か?〕
『取り敢えず今は部屋に行こう。』
肩を強く抱きながら先生は歩き出した。
呼吸は治まったものの、心臓が五月蝿い…
何だったんだろう…
何が目的なんだろう…
俺の幸せを奪うつもりなのだろうか?
俺の平和を奪うつもりなのだろうか?
俺の世界を奪うつもりなのだろうか?
頭でどれだけ考えても纏まらなくて…
頭でどれだけ考えても気持ちるくて…
どんどん嫌になる。
どうしたら解放される?
どうしたらやり直せる?
分からない…
もう何も分からない…
分かりたくもない…
分かってたまるものか…っ
『大丈夫か?』
「…はい。」
先生が作ってくれたホットミルクを飲み下す。
温かい感覚がお腹を中心に広がっていく…
〔にしてもアレ…マジで気持ち悪ぃ…〕
『……エスカレートする前に犯人を見つけ出したいけどな…今の所目星もつかない…』
〔大嶋…とか?〕
『どうだろうな…』
〔………暫く俺、勇間と一緒に居るよ。登下校は先生、校内居る時は俺が…病院に居た時よりももっと警戒しなきゃでしょ?〕
『そうだな……頼めるか?』
〔勿論。一応かなちゃんにも説明しておくね。〕
『あぁ…』
「ごめんなさい…二人共…俺のせいで…」
〔違うよ勇間…俺が勝手に首突っ込んだだけだし…乗りかかった舟ってヤツだから…存分に甘えてよ。〕
「うん…」
『それに…お前はもう俺の家族みたいなもんだし…何より恋人だろ?』
「………。」
優しい言葉…
優しい気持ち…
優しい気遣い…
心強い優しさ…
「ありがとう…」
精一杯の笑顔を二人に向けると、心強くて眩しい笑顔が返ってきた…
二人には本当に支えられてきたな…そんな事を思うと胸が締め付けられた。
「俺もなるべく…協力したい。」
『危険な事はさせられない、絶対に。』
「でも…俺は…協力したいんです、先生…」
『………。』
〔…一人で何かしないって約束できる?〕
「うん。」
〔何かあったら必ず言ってくれる?〕
「うん。」
〔…だってさ、真羅先生。〕
『………はぁ。』
「俺だって…二人を危険な目に合わせたくない。」
『それは分かるけど……』
「お願い、先生。」
強く先生の目を見つめる。
『分かった……分かったからそんな顔するな。』
先生が俺の頭を優しく撫でた。
俺の気持ちが届いたみたいだ…
『その代わり、常に携帯は持ち歩いて電源を付けておけよ?』
「はい……?」
〔GPS付けるの?〕
『あぁ。……まぁ、勇間が嫌なら別の方法を』
「良いよ。それなら俺も先生も安心だし…」
〔即答とか…勇間らしいね。〕
万が一連絡が取れなくなってしまった時、一番役に立つ…
嫌な予感がする…
あの血で書かれた文字は…どういう意味何だろうか。
- 会いたい…けれど今はまだダメ -
今は?
今はダメ?
何が?
どうして?
分からない…
もしかしたらこれは俺宛では無くて…先生宛なのかもしれない。
そうなったら話はまた変わってくる…
〔どうした?〕
「あの文章…」
〔文章…?〕
「もしかしたら…俺じゃないかも……本当は先生宛なのかも…!」
〔いやいや………どうしてそう思う?〕
「だって……会いたいなら来ればいいし…でも来ないって事は…まだって事は、先生も関係してくるんじゃないかな。」
〔………たし、かに…〕
『だとしても、狙いは勇間って事には変わりないだろ?』
「……だけど…」
『分かった…俺も充分気を付けておく。』
〔なんか……分けわかんねぇ…めちゃくちゃだよ…〕
本当に日下君の言う通りだ。
なぜこんなにも俺達には邪魔ばかり入るのか…
ただ…
ただ幸せになりたいだけなのに…
やはり俺は幸せになってはいけない存在なのかな…?
それとも…周りが異常なだけ?
俺は幸せになるな…と?
そんな事をどうして他人に左右されなければならない?
考えている間に次第に腹が立ってきた。
『何百面相してんだ…大丈夫だ。』
「……はい。」
大丈夫…
先生がそう言うと本当に大丈夫な気がして来るから…不思議だ。
大丈夫…大丈夫…だよね?
先生も俺も…幸せになれるよね?
先生を見つめながらそう思ってしまう。
『………お互いがちゃんと想い合っていれば大丈夫だ。俺達が幸になれる道をゆっくり選んで進もう…な?』
そう言って先生は俺の頭を優しく撫でた…
そうだ…
俺達が選ぶんだ…
選んで進むんだ…
その道を誰かに決められる事は無い。
幸せを掴む。
絶対に…
だって…
俺の神様がそう言っているんだから…
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