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そして俺達の警戒が強まる日々が始まった。
先生はいつも通りの様に見えるが、その目はいつも警戒心を宿している…
日下君は常に俺の近くに居て、離れていても意識は此方に向いている…
俺はと言うと…
「………。」
誰とも話さず、ずっと警戒している…
皆が皆犯人では無いのに…何故かずっと疑ってしまう。
人が…怖い……
そんな俺を見ては、日下君が来てくれる。
誰かと話をして盛り上がっていても、切り上げて俺の所へ来てくれる…それにさえも罪悪感が生まれる。
〔大丈夫か?〕
「ごめん……話してたのに…」
〔いーんだよ。〕
「……なんか…皆を見る目が変わっちゃって…」
〔あー………まぁそうなるよなぁ…〕
俺の前に座り、日下君は微笑んだ。
〔大丈夫だって!勇間には真羅先生も俺も、かなちゃんだって居るし。怖いかもだけど、却ってそれが相手の思うツボかも知れないっしょ?〕
「うん…」
〔常に笑って、俺達は全前平気ですーって思わせてやろうよ!〕
「そう…だね…!」
そうだ…
俺が弱々しくなってしまったら駄目だ。
いつも通り、何も気にしてません…って風に装わなきゃ。
そうしたらまた、何か手掛かりになる物が増えるかもしれない…
怖い…けど、今が乗り越え時だ。
いつだったか…
神様はその人が乗り越えられる困難しか与えない。
そう聞いた覚えがある…
それなら乗り越えるしかない…俺は強くなったんだ。
もう昔とは違うんだ。
力強く頷くと、教室のドアに先生と叶先生が立っていた。
何やら深刻そうだ…
目が合うと手招きをされた。
〔なんだろ…行こ。〕
「う、うん。」
先生の所へ行くと、場所を変えると言われた。
大人しく後ろを付いて行く…
屋上まで歩き、なるべく人の目に触れない様裏手に周り腰を下ろした。
〔何かあったの?〕
[…大した事じゃ無いんだが…]
言い難い事なのだろうか…
叶先生は顔を顰めている。
『んー………大嶋居ただろ?』
〔あー、あのキチガイ。〕
[お前なぁ…]
〔だってそうじゃん!〕
日下君の言葉に溜息を漏らした叶先生…
やれやれ…と言うふうに首を振った。
対する日下君は、俺が落とされたときの事を思い出しているのか…怪訝な顔をしている。
先生も同様…怪訝な顔…と、怒りを浮かべている。
「その人が…また何かしたんですか?」
『いや……親御さんからの連絡で、暫く帰ってないそうだ。』
「………。」
〔えー……なにそれ…〕
[が、今朝校門に居たんだ。]
「!!」
生きていた…?
なんで?
あの時気を失ってただけ?
それならちゃんと捕まえないとじゃないと先生と俺があいつにした事全部バレてしまうでもどうしたら捕まえられるんだろうか俺と先生はこれから
『勇間。』
「あ……」
『大丈夫だ。』
「う、うん…」
[…なんにせよ、警戒を怠るなよ。]
〔ほーい。〕
大丈夫…
大丈夫…
きっと彼は俺の前に現れる。
だからその時まで待てばいい。
自ら踏み込まなくとも…向こうから来るのを待てばいい。
簡単な事だ…
何も焦り、動揺することでは無い。
先生がそう、目で伝えてくれた…
だから大丈夫。
俺は俺の神様の言うことを信じていれば、救われるんだ…
〔顔色悪いけど…大丈夫?〕
「え…あ、うん…大丈夫…」
『……。』
[日下、ちょっと来い。]
〔なになにー?〕
少し離れた距離に日下君と叶先生が移動した。
それを見計らってか、先生が俺に耳打ちしてきた…
『何も心配することは無い…大丈夫だからな。』
「うん…」
『ごめんな…俺が変になったせいで…』
「先生は悪くないよ…止めなかった俺も悪いし…」
そこまで話すと、先生は俺の頭を撫でて身を離した。
先生の体温で暖かくなった左腕が、急に冷たく感じる…
「……先生…」
『んー?』
「先生は…俺の味方だよね…?」
『………。』
目を見開いたまま固まってしまった先生。
先生を疑うなんてどうかしている…でも…不安なんだ…
どんなに大丈夫だと腹を括っても、次の瞬間には不安になっている…焦っている…
『当たり前だろ。』
「………ごめんなさい…疑って…」
『不安になるのは当然だ…何度でも聞いてこい。その度に答えてやる。』
「うん…」
また近くなった先生の距離…
また暖かくなった左腕…
ずっと…
ずっとこのままで居たい…
離れることも無く…
ずっと…
放課後になり、俺は日下君を待っていた。
夕日が校舎の隙間から射し込んで、眩しい…
「……。」
教室に一人…
少し不安だけれど、携帯の電源は常に入っている。
万が一の為に一応カッターとかは筆箱の中に忍ばせた。
手を伸ばせばすぐ取れるように、口を開けて机の上に置いた。
大丈夫…
そんな事を考えながら本を読み進める。
余分な事しか考えてないから頭に入ってこない…
小さくため息を吐く。
すると、教室のドアが開いた…
視界の端に映る人影は俺の前に腰を下ろした。
日下君、やっと用事が終わったのかな…
少し安堵し、本から目を話さずに会話をする。
「日下君この本読んだ事ある?」
回答が無い…
日下君じゃ無かったのかもしれない。
本から目線を外し目の前へ向ける…
{…………。}
「あ……」
目の前には、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべた大嶋君がいた…
{神様…}
「…………。」
{今日も美しいですね。}
「…………。」
{あぁ…不安げなその表情も素敵です……}
そろりと筆箱へ手を運ぶ。
カッターをキツく握り締める…嫌な汗が掌に滲んでいる…
どうしてここに?
今まで何をしてた?
疑問が次から次へと浮かんできてはそれを打ち消すかのように動揺する。
{どうかされました?}
「……帰ってないって…噂が…」
{あぁ…少し準備してたんです。}
「準備……?」
{はい、貴方を迎える準備を…}
「………。」
迎える…?
何を言っているんだろう…何も理解できない。
{貴方の周りを彷徨く邪魔者……そして貴方をいつまでも縛り付ける過去の者……全部消してきました。}
「は………?」
{分かりませんか?貴方は罪深い人だ……気付かぬ内に次から次へと人々を魅了してしまう…}
分からない…
気持ちの悪い笑みを浮かべたまま、大嶋君が席を立ち…教卓の前へ行く。
{あぁ…そうだ……手紙は届きました?}
「!」
{ふふふ……}
「大嶋君…やっぱり君が…?」
{えぇ……}
「………あの髪の毛…君のなの…?」
{いいえ?あれは貴方のお父様です。}
「え……」
{言ったでしょう?貴方をいつまでも縛り付ける過去の者を消した……と。}
「ま、さか……」
{あとはもう一人…}
父を消した?
つまり…殺した…?
ということは…日下君が戻って来ないのは…っ!
「………。」
{あぁ…その目です!その目が見たかったのです!何も映さないその真っ黒な瞳…}
また俺の元へ歩み寄り、頬に手を添えた大嶋君。
遠くから走る音が聞こえる。
「……ろよ…」
{鈴のように小さいお声だ……可愛らしくて}
「いい加減にしろ!!」
俺は握り締めていたカッターを取り出し、頬に添えられた手を弾いた。
{っ……!}
大嶋君は切れた手を抑えながらその場にしゃがみ込んだ。
俺はそれを見てもなんとも思わなかった…
それよりも怒りが勝っている。
父がどんな人であろうと、俺にとっては大切な親…家族だ。
そんな人を殺したこいつを俺は許す事はできない…
「許さない…」
{……。}
「勝手に決めつけるのも大概にしろよ…」
{な、なぜです!?貴方はあの人のせいで苦しんでた!}
「だから?」
{だ、から…}
「大嶋君…」
{………。}
「君は俺の事何だと思ってるの?」
{あ、なたは……僕の…}
『勇間!!!』
勢い良く教室の扉が開き、息を切らした先生が俺とカッター…
そして大嶋君を交互に見た。
その服は少しだけ血に濡れていた…
やっぱり日下君は…
「俺は俺だよ…君の神様じゃない。」
{でも…!}
「煩いな……じゃあ、君が納得する言い方に変えるね。」
俺は大嶋君と同じ目線になるように座り、カッターの刃を彼の胸元に突きつける。
「君の神様は怒ったんだ。親を殺され、大切な友人まで傷つけられた事に…信者が勝手に舞い上がったせいでね。」
{ゔ…っ…}
力を込めてカッターを押し込む…
手に少しだけ皮膚を裂いた感触が伝わる。
「死んで償う?それとも…目の前から消える?」
{あ……あぁ…っ…ぼ、くは…っ…}
怯えているのか…それとも喜んでいるのか…
よく分からない表情をして、何も言わない大嶋君に腹が立つ。
回答を待っていられるほど俺は優しくない…
「俺は…お前みたいな奴が一番嫌いなんだ!」
カッターを投げ、大嶋君に馬乗りになり殴る。
初めて人を殴った…
初めて先生の前以外で涙を流した。
「勝手に決めつけて…!勝手に行動して…!」
{ゔっ…あっ……いっ…痛いっ…}
「俺の気持ちも俺の事も何一つ考えないお前らが!!」
永遠に殴り続ける。
拳が痛いとか…
相手が可哀想だとか…
俺の頭には一つも思い浮かばない。
ただただ怒りに任せて殴り続ける。
もう一度カッター手に取った…
{…っ…っ……っ……}
「そんなお前らが!」
{…………。}
「俺は…!!」
精一杯腕を上げ、カッターの刃を大嶋君の胸へ一直線に振り下ろす。
『勇間!!!!』
が、それは先生によって止められた。
刃を握り締める先生の手から、血が溢れている…
それでも俺はとどめを刺したくて、上げた腕を下ろそうとした。
先生の手はどんどん赤く染まっていった…
甲高い音と共に、カッターの刃が折れた。
『勇間…もういい…もういいから…』
先生の声が耳に伝わる…
自分の息が荒くなっていることにもたった今気が付いた。
俺の下で白目をむいたままピクリとも動かない大嶋君を見て、自分が怒り任せに何をしていたのかを理解した。
殺したかった…
けれど…
殺せなかった…
大嶋君にとってこの状況が悪いことであって欲しい。
殺されたいと願っていて、殺されなかった事を悔やんでいて欲しい。
『勇間……』
先生が俺の肩を抱いた。
そして大嶋君の上から俺を降ろし、少し離れた所に座らせた…
そのルートを示すように、先生の血が床にポツリポツリと続いている。
『お前の意思も、お前の行動も…俺は決められない。でもな…この手も身体も、誰かを傷つける為にある訳じゃないだろ?』
「………。」
先生の手が俺の手を包む…
赤く染まる二人の手…
『沢山悩んで、沢山考えて…それから行動しろ。』
「………。」
『勇間…』
「うん…」
『……初めてお前が人を殴る所見た。』
先生はそう言って笑った。
「俺も…初めて殴った…」
『意外と強いんだな。』
「………うん………俺…強いんだ…」
俺は強い…
そう言われて…
そう言葉に出して…
何故か涙が溢れた。
俺は強かったんだ…
その術を知らなかっただけで…
本当は強かったんだ。
『………お前は一人じゃないよ、俺が居る。』
「うん…っ……」
一人じゃない。
父は亡くなった。
でも、先生が居る。
だから大丈夫。
「…日下君は…?」
『大嶋君を見つけて、引き留めた時に彼が持っていたナイフで腕を刺されたらしい……今は保健室に叶が一緒に居る。あと少ししたら救急車が来ると思う。血だらけで俺の所に来てくれたよ。』
「そ、か……」
俺の所に来たら居場所がバレるから…
日下君……っ…
『いい友達を持って良かったな…日下君には感謝しないと…』
「うんっ………あ、先生…」
『ん?』
「ごめんなさい、俺っ…手…!」
『良いんだよ…勇間を守れたから。』
そう言って微笑む先生に、俺はただ申し訳ない気持ちになった。
俺のせいで怪我をしてしまった…
怒り任せに先生まで傷付けてしまった。
駄目だな…俺…
[大丈夫か!?]
息を切らした叶先生が教室に入って来た。
その服も手も日下君の血で汚れている…
汚れの着き方からして、相当血が出たのだろう…
心なしか叶先生の目尻は赤くなっている。
かなり泣いたのが分かる。
[おま…っ…血!]
『ん?あぁ…平気。それより日下君は?』
[応急処置は済ませた…あと10分くらいに救急車が来ると思う。]
『そうか…』
[……そこに居るのが大嶋か。]
『あぁ。』
[………。]
『強かったぞ、勇間。』
[へぇ…お前がやったのか、凄いじゃねぇか。]
そう言った叶先生は大きな声で笑った。
そしてそのままネクタイを外して、大嶋君の腕を後ろで縛った。
少し苦しそうに唸った大嶋君だが、まだ気を失っている。
「あの…ごめ」
[謝るんじゃねぇよ、もう乗った舟だ。今更降りる気なんざさらさらねぇよ。……っしょ、重いなコイツ。]
「………。」
そしてそのまま叶先生は大嶋君を担いで去って行った…
『じゃあ俺らも行くか。』
「う、うん…」
『立てるか?』
「大丈夫…」
先生は床に点々と付いた血を親指で拭いながら、教室を出る。
俺もその後に続く…
そこでようやく、拳が痛いことに気が付いた。
人を殴った…
人を殺す手前だった…
今更少し怖くなって来た。
先生が止めてくれなければ、今頃俺は殺人者だった…
良かった…
止めてくれて良かった…
「先生。」
『んー?』
「ありがとう…止めてくれて…」
『…うん。』
少し前を歩く先生の背中にそう投げ掛けた。
ありがとう…本当に…
俺の傍にいつも居てくれて…
俺の事を想ってくれて…
感謝してもしきれないよ…
お互い言葉を発しないまま、足音だけが廊下に響いている。
『勇間。』
「ん…?」
階段を降りる途中で先生が振り返った。
少し俺のほうが高くなって、新鮮だ…
『………。』
「わっ…せ、先生?」
黙ったまま、先生が俺に抱きついた。
突然の事でどうしたら良いのか分からず、手の置き場に困る。
先生は何も言わない。
「どうしたんですか…急に…」
『無事で良かった…』
「………うん。」
『遅かったらどうしようって思った…』
「……うん。」
『でも…お前は無事で…』
「うん。」
『本当に力が抜けたよ…』
乾いた笑いが俺の体に響いた。
「でも先生を傷つけちゃった…」
『良いんだよ、俺は。』
「……良くないよ…」
『……そうだな、ごめん。』
「でも止めてくれてありがとう。」
『うん。』
そしてまた歩き出す。
今度は隣で…
ゆっくりと…でも速く。
お互いの歩幅に合わせて…
「日下君…大丈夫かな…」
『彼は強いからな……だんだん叶に似てきてる。』
「ははっ…それなら強いね。」
保健室に辿り着くと、中には先生方が大勢居た。
皆慌ただしくしている。
随分と大事になってしまった…
[お、来たか。]
「日下君…」
痛そうに顔を歪めながらも、日下君は笑った。
〔無事で良かった〜…何もされてない?〕
「うん……逆に色々しちゃった。」
〔え、何それ超気になる!…っつ…〕
「あんまり動いちゃだめだよ…ごめんね…」
〔何で謝るんだよ…〕
「だって…」
〔……俺が勝手に首突っ込んでるんだし、勇間は変に心配しなくて良いんだよ。〕
「………。」
〔乗りかかった舟ってやつ?〕
「………。」
-[謝るんじゃねぇよ、もう乗った舟だ。]-
叶先生と本当に似てきてる…
思わず俺は笑ってしまった。
すると遠くからサイレンが聞こえてきた。
「警察…」
[そりゃ、殺傷事件でもあるからな。]
「そっか…」
[……お前の事はなんとでも言える、だからそんな顔してんな。]
「はい…」
そして叶先生は俺の頭を撫でた。
先生とはまた違った大きさの手…
暖かい手…
[…なんか猫撫でてるみてぇだな。]
『ちょっとちょっと…お触り禁止。』
[いやいや、何言ってんだお前。]
『………。』
[分かった分かった悪かったよ。早く乗って行けよもう。]
半ば無理矢理に俺と先生は車に押し込まれた。
暫くしてから、動き出した。
目の前には気を失った日下君。
気を張っていたからか、サイレンが聞こえると同時に気を失っていた。
カーテンの隙間から、心配そうな眼差しを向ける叶先生が見えた…
大丈夫だよ、叶先生…
日下君は強いから…
今度は俺が皆を守るから…
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