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守りたい者 【真羅 ~side~】
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重々しい雰囲気がより重なる。
カイト君の表情は俯いてしまったため、分からない。
だがきっと、暗い表情をしているのだろう…
『カイト君が話したいタイミングで良いよ…』
〘うん……〙
「カイト君…無理なら大丈夫だから…」
〘ありがと………僕ね、ほんとは何も分からないんだ…〙
「………。」
〘ずっと…ずっとくらくて…せまいとこに居たの。〙
暗くて…狭い所…
閉じ込められていたのか、外に出ても夜だったのか…
〘大きな音がして…こわくて目をギュッてしてた…そしたら、明るくなって…目の前にはぁくんが居た………でも…っ…でもはぁくんっ…いっぱいいっぱい血が出ててっ…!〙
思い出したのか、大きな目から涙が零れ落ちる。
それを見ている勇間は苦しそうだ…
〘僕を外につれてってくれた瞬間……はぁくん動かなくなっちゃった……だから僕、いっしょうけんめい走って知らないお家入った。〙
『……頑張ったね。』
手を伸ばし、カイト君の頭に触れる。
優しい手触りだ…
思っていたよりもこの子はしっかりしている。
「話してくれてありがとう…」
〘うっ……うぅっ……〙
隣に移動した勇間にカイト君は抱き着き、声を荒げて泣き始めた。
一人で泣けなかったのだろう…
泣きたくても強がっていたのだろう…
苦しくても何も言わなかったのだろう…
強がっていた?
言わなかった?
どれも違う…
強がるしか方法が無かった。
誰にも言え無かった。
信用できる大人が居ないから…
信用できる人間が居ないから…
「もっと早く来てあげれば良かった…気付くのが遅くてごめんね…」
『………。』
〘うぅっ……うううっ……うぁあああっ!!!〙
暫くの間、カイト君の心からの叫びが響いた。
落ち着いたカイト君を連れて、勇間は購買へと向かった。
俺は一人、速水君の横顔を見つめる。
『カイト君、強くなったな…早く起きてあげろよ。』
〈………。〉
『……何があったんだ…君達に…』
〈……カイトの家は本当に危険なんです。〉
『!』
〈勿論…全部壊してきましたけど…〉
ゆっくりと細長い目が開いた。
『先生を…!』
〈良いです…大丈夫ですから…〉
『………。』
そう言いながら、速水君は身体を起こした。
〈カイトが…泣いていて…しかも傷だらけで…………気付いたら全員殺していました。〉
『こ、ろし……お前っ』
〈分かってます……けど俺にはもうカイトしか守る者は無い…カイトが居てくれたらそれで充分なんです…〉
『………っ』
〈死体諸共建物と一緒に燃やしました……で、気が付いたらここで真羅先生と会話してる。〉
『………。』
これ程まで…二人は必死だったのか…
なんと言えばいいのか…大人としての言葉を掛けるべきなのか…?
いや…でもこの子達は…
〈先生、俺達はただ二人だけの道に歩みたかっただけなんですよ…〉
『………。』
〈ここまで来てしまった…もう形振り構ってられないんです。〉
『……この先どうするんだ?きっとすぐバレる。』
〈そうですね……そうしたら俺達は上へ行きます。〉
『上…?』
〈……死にます。〉
『…っ!…それはっ』
〘はぁくん!!!〙
勢い良くカイト君が速水君に飛び付いた。
それを嬉しそうに受け止め、頭を撫でる…
〘はぁくん…っ…はぁくんっ!〙
〈うん……ごめんね、カイト…〉
「………。」
〈勇間君も、ありがとう。〉
「いえ……目が覚めて良かったです。」
二人のこの先は死…
その選択肢は…必然だったのか?
でも心のどこかで、羨ましいとも思ってしまっている…
頭を軽く振り、顔を上げると勇間が心配そうな顔をしていた。
安心させる為に笑顔を浮かべると、少しだけ安堵の表情になった…
「先生呼んで来ますか?」
〈うーん…今はまだ良いかな、カイトが落ち着くまで…〉
愛おしそうにカイト君を見つめる速水君は、本当に幸せそうだ…
守りたい者の為に、こんなにも全てを投げ捨てられるなんて…
傍から見たら可笑しいのかもしれない。
けれど、当事者達はこんなにも幸せそうなのだ……本人達が選ぶ道に第三者が口を挟む必要はないだろう。
まだ若い二人が幸せになる為の選択肢、それならば俺は見届けなくては……それが答えだ。
『速水君もカイト君も、充分頑張った…君達は強いよ。』
〈……ふふっ…ありがとうございます。〉
歳相応な笑みを見たのは初めてだ…
いつもどこか達観視していて、大人の様に見えた…でも違った。
本当は彼も誰かに弱さを見せたかった筈だ…
それがこんな形になるなんて…な…
「先生?」
『ん?』
「あ…いえ…」
俺は大人であり、子供たちの教育者でもある…
なのに…嗚呼…失格だなぁ…
乾いた笑いを漏らすと、いつの間にか目の前に立っていた勇間が困った様な…泣きそうな様な…表現しづらい表情をしていた。
『どうした?どこか痛いのか?辛いのか?』
慌てて勇間の両頬を包みながら問う。
けれど、首を横に振るばかりで答えてくれない。
「先生…何かあったんですか?」
『え…?』
「ずっと…苦しそうな顔…」
嗚呼…
この子は他人の感情を敏感に感じ取れる子だった…
駄目だ…しっかりしろ…
目の前で失うかもしれない2つの命に、動揺していた…
そのお陰で勇間にこんな顔をさせてしまっている。
小さく溜息を吐き、少しだけ自分を落ち着かせる…
『ごめんな…後で話すから…』
「………。」
頭を撫で、微笑み掛ける…
それでも勇間の顔は浮かない。
少し怒っているのかもしれない…
相手の感情を揺さぶっているのに、どこか嬉しい自分が居る。
勇間が変わっている…
感情が表によく出るようになった…
嬉しい…
ずっと見ていたい…
見届けてやりたい…
〈カイトを見ていて下さって、ありがとうございます。〉
『……速水君。』
〈は、い…え、何ですか…急に…〉
速水君の頭を撫でる。
自分の精一杯の優しさで、まだ大人じゃない小さな頭を…
黒い髪は意外とサラサラしていて、嗚呼…早くこうしてあげれば良かった。
〈真羅先生?〉
『君はよく頑張っているよ、お疲れ様…』
〈……。〉
小さいながらも大人の皮を被った、その子供の瞳から涙が溢れた…
〖はぁくん?どこか痛いの?大丈夫?泣かないで…〗
「………。」
速水君の涙に反応して、カイト君も泣き始めた。
こんなにも…こんなにも幼い二人を、失わなければならない。
悔しくて…苦しい…
誰かに伝えたかったであろう心の叫び…
それを今、こんな形で知る事になった大人の俺は…なんて不甲斐ない。
『ごめんな…もっと早くこうしてあげたら良かったな…っ…』
ポツリと小さく呟く…
守るべき者はこんなにも近くに居た。
それを知らずに何か大人だ…何が教育者だ。
本当にごめん、何も出来なくてごめん…
歯痒さと自分の愚かさの怒りが、体中に行き渡る。
速水君を強く抱き締め、歯を食いしばった。
『次もちゃんと幸せになれよ…』
そう彼の耳元で呟くと、より一層心の叫びが室内に響き渡った。
勇間も何かを察したのだろう…カイト君を抱き締めながら、涙を流した。
生きていて良かった、無事で良かった…
出会えて良かった、知り合えて良かった…
君達のお陰で俺達はここまで来れた…
君達のお陰で俺達は幸せになれた…
ありがとう…
ありがとう…
感動の再会、けれどそれは別れの再会だった…
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