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あの後…俺達の泣き声を聞いて、何事かと医師たちが駆け付けた。
速水君が目を覚ましている事に驚いた医師達を横目に、俺達はただ二人をぼーっと見つめていた…
〈またね、勇間君…真羅先生…ありがとう。〉
そう言って笑った速水君の顔が、ヤケに頭に張り付いて離れなかった。
心を締め付けるような…そんな笑顔…
病室を離れ、中庭へと出る。
「………。」
『………。』
何も喋らず、ただ花壇の花々を見つめる。
先生…二人が選んだこの先は…?
そう問いたかった…けれど、先生の悔しそうな…苦しそうな顔を見てしまったら…
何も言えなくなった…
確信は得ていない…けれどきっと…
『速水君、目が覚めて良かったな。』
「……はい、カイト君も嬉しそうで…っ…」
嗚呼、涙が溢れる…
今ここで俺が泣いても変わらないのに…だけど…だけど…っ…
『……不甲斐ない大人でごめんな。』
爽やかな夏風が俺達の間吹き抜けて行った…
先生の言葉がやけに耳に張り付いて…堪えきれずに目から涙が落ちた。
先生は不甲斐なくない。
けれどそれは嗚咽に飲まれて、言葉にならなかった…
「…っ…ぅ…っうっ…」
『………。』
先生は何も言わない。
俺も何も言えない。
ただ時間だけが無情に過ぎていった…
大切な友人…
大切な存在…
それを2つも失くしてしまう。
止められない…
止める事が出来ない…
涙も…
別れも…
全部。
守りたかった…
守ってみたかった…
初めて出来た感情だった。
出会いは最悪だっけど、こんなにも最高だった。
速水君、カイト君…
君達は最高の友人だ。
これから先どんな事があってもそれは変わらない。
ずっと…ずっと俺達の心の支えで…
唯一無二の存在。
出会えて良かった…
ありがとう…
[遅かったな。]
日下君の病室へ戻ったのは夕方になってからだった。
泣きやまない俺の横で、ずっと俯いて気持ちの整理をしていた先生…
いつも通りってどうやれば良いんだろう。
『知り合いが丁度目を覚ましてな、暫く付き添ってた。』
[…そうか。]
〔勇間?目元が赤いけど…泣いた?なんかあった?〕
「ううん、大丈夫だよ。」
〔なら良いんだけど…何かあったならすぐ言えよ?〕
優しい…
とても優しい…
また泣きそうになる…でも、日下君達には話せない。
まだ…話せないんだ…
自分の中で整理してからちゃんと話す…いつになるかは分からない。
「日下君…」
〔ん?〕
「生きててくれてありがとう…」
〔お、おぉ……〕
軽く抱き締めて、そう呟く。
嗚呼、駄目だなぁ…全然いつも通りなんて出来ない。
気を緩めたら泣きそうなってしまう…
どうしよう…
[こいつは図太いからな、簡単に死なねぇよ。]
『確かにな。』
〔いやいや!流石に心臓刺されたら死ぬよ!?〕
三人の茶化し合いに、少し笑みを零す。
嗚呼…ちゃんと笑えている…
良かった…
[…真羅、ちょっと良いか。]
『ん?おう。二人共ちょっと待っててくれ、あー…勇間、もう少ししたら帰るから荷物持っててくれるか?』
「はい。」
〔えー帰っちゃうのぉ〜〕
『叶は置いてくから。』
〔………。〕
[俺じゃ不満か?糞ガキ。]
〔そんなこと無いよ!愛しいかなちゃんが居てくれたらそりゃあもう!〕
日下君の言葉をスルーして、先生達は部屋から出て行った。
やっぱり俺の反応で分かってしまったのだろうか…
〔…勇間。〕
「え、あ、何?」
〔やっぱり、何かあったでしょ。〕
「………。」
〔今は俺に言えないんだよね?〕
「う、うん…でも!日下君が頼りないとかそんなんじゃ…っ!」
〔うん、大丈夫…分かってる。勇間が落ち着いたらちゃんと聞かせて?それだけ約束してくれれば良い。〕
「…うん。」
〔勇間一人で背負う事なんて無いんだからさ…な?〕
そう言って、日下君は俺の頭を優しく撫でてくれた。
優しくて…暖かくて、俺より少し大きい手で…
割れ物を扱う様な丁寧さで…
「ありがとう…」
〔ん。〕
「今は本当にまだ…気持ちの整理が出来て無くて……でもっ!でもちゃんと話すから…だから…っ…」
〔うん、それまで待ってるよ。勇間が落ち着いたら聞かせて、勿論焦らずにゆっくり時間かけて良いからさ!〕
「うん…っ……ありがとう…」
じわりと涙が滲む…
落ちない様に堪える。
優しさが染み渡る…これをあの二人にも分けたかった…一緒に包んであげたかった。
もう何を伝えても何をしても二人の選択は変わらない…
それが分かっているからこそ、もどかしい。
まだ二人は生きている…過去形で話す事をやめなきゃ…
『日下君…何泣かせてんの。』
〔いやいや!違いますって!〕
『あ〜?』
〔ちょっ!俺怪我人!怪我人ですから!かなちゃん助けて!!〕
[良いぞもっとやれ。]
〔裏切り者ォ!!!〕
笑いに包まれる病室。
幸せな時間…
なのに何でだろう…胸がざわつき、苦しい。
上手く笑わなきゃ…嗚呼、笑顔ってどう作ったっけ。
何かが崩れる。
何かが壊れる。
〔勇間?〕
失うのが怖い。
それならまた一人になれば良い?
そうしたら失う事はない。
一人になるのは簡単だ…
幸せはずっと続かない、いつかは壊れる。
苦しむ前に手放さなきゃ…
〔………。〕
『…勇間。』
皆が傷付かない方法。
俺だけが傷付く方法。
嗚呼…事の発端は全て俺じゃないか。
母は消え、父が死に…そして大切な友人を二人も失い、愛する人を傷付けては怪我をさせ…日下君と叶先生を巻き込んで。
それら全て、俺が原因じゃないか。
俺が皆と出会わなければ、皆は幸せだった。
俺なんかと出会ってしまったから…
『勇間。』
「え…あ、はい……どうかしました?」
気が付けば三人共俺を見つめていた。
心配そうな…そんな目をしている。
あれ…?
俺なんかしてたっけ…?
『考え事か?』
「あ、いえ…大したことでは…」
目を逸らそうとするが、先生はそれを許さない。
真っ直ぐ視線が絡み…ゆっくりと先生の瞳が細められた…
隠し事は許さない…そう言っているようだ。
「……後で…言います…」
『……。』
〔……。〕
暫く皆から離れた方が良いかな……
嫌だけど…自分の家に帰ろう…父さんも居ないし。
[おい、倉沢。]
「は、はい!」
[お前、変な気起こすなよ。]
「え…?」
眉間にシワを寄せた叶先生が、俺にそう言い放った。
変な気?
[……お前が思っている以上に、こいつ等はお前が大切だ。その気持ちを無下にするような行動をするなって事だ。]
「………。」
〔かなちゃん…〕
[俺の親友の大切な人だとしても、相手の気持ちを考えないクソ野郎なら一発入れるからな。]
「………はい。」
[お前は、他人に助けを求める事にまだ後ろめたさがあるのかも知れねぇ…けどな、そんなの気にしたって何も変わんねぇ。とことんその優しさに甘えりゃ良いんだよ。]
叶先生の手が俺の頭に触れる。
眉間のシワはもう無くて…優しい顔をしている。
叶先生…
「ありがとうございます…」
『……。』
今の俺に出来る事は、精一杯な笑顔を作って皆を安心させる事だ。
大丈夫…自分にそう言い聞かせて、平気なフリをしてよう…
そうしたらきっと、いつか平気になっている。
大丈夫…大丈夫…
俺は強くなったんだ。
だから大丈夫…
呪いをかけるように浸すら心の中で唱えた。
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