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あの日から何日も経った…
カイト君と速水君の事については俺も先生も何も喋らなかった。
「……。」
-『……不甲斐ない大人でごめんな。』-
そう言った先生の顔を何度も思い出す。
悔しそうで、悲しそうなあの表情を…
先生にあんな言葉を言わせてしまった。
先生にあんな表情をさせてしまった。
謝るのは俺の方だ…いつも先生に頼ってばかりで…
嗚呼、思考がどんどんマイナスへ向かう。
あの日からずっとそうだ…こんなんじゃ駄目だ…
頭を掻き毟っていると、目の前にコーヒーを差し出された。
『大丈夫か?』
「………。」
先生の表情はずっと穏やかだ…
良かった…けど、やっぱり俺は先生から離れなきゃ。
駄目になってしまう。
俺も、先生も…潰れてしまう…
「先生…」
『ん?』
「……俺、先生と出会えて良かったよ。」
『……。』
「この先ももっと一緒に居たい…でも…」
『勇間…?』
「……でもね、先生。俺」
『待て、その先の言葉は…今は聞きたくない。』
「………。」
先生の表情が曇り、険しくなった。
焦りと…動揺と……………悲しみ。
それでも俺は言わなきゃ…先生から離れなきゃ。
「…俺と先生は、恋人である以前に"先生"と"生徒"です。」
『……。』
「この関係を知ってるのは、日下君と叶先生だけ…いつバレるのかも分からない。」
それらしい言葉を述べながら、本題へ入ることを恐れている…
先生と離れたくない…そう思っているのが自分でもこんなに分かる。
「だから…」
『俺から離れるのか…?本当に?自分の意思で?』
嗚呼…先生が動揺している。
違う…違うよ先生…
そんな顔をさせる為じゃないんだ。
「っ…先生、ちゃんと聞いて欲しい。俺が今から言う事で先生が動揺したり悲しんだりする必要はない。ちゃんと俺の意思で、ずっと迷ってた事……先生が居たからやっと決められた。」
『………。』
先生は強ばっていた力を抜き、ソファーに凭れた。
天井を仰ぎ見ながら、腕で目元を覆った…
ごめんね…先生…
「俺、先生に頼ってばっかりでした。……あの日先生の口から…不甲斐ない大人でごめん、とか言わせなく無かった。先生が居たから、俺はやっと笑えるようになった…人の大切さも知る事が出来た。自分を……大切にする事を知った。」
『………。』
「さっきも言った様に、これからもこうして身近に居過ぎると…きっと周りにバレてしまう。これ以上先生に負担は掛けさせたくない。」
『勇間…』
「カイト君と速水君の事があったからじゃ無いよ。俺はちゃんと」
『勇間っ!!』
先生の声がリビングに響く。
急に大声を上げた先生に驚き、俺は俯いていた顔を上げた…
そこで気が付いた…
先生が泣いていた事に…
なんで泣いてるんだろう。
俺は先生の為を思って…
「………。」
『もう良い…聞きたくない…』
「ごめ」
『謝罪も要らない。』
「…っ…」
冷たく鋭く……先生に初めて睨まれた…
『勇間がしたい事に俺は、何も言わないで賛成してやりたいと思ってる…でもこれは賛成出来ない。あの家にお前を戻したく無い…』
静かに…先生の頬を伝っていく涙…
胸が苦しい…
『もう勇間を傷付ける奴はいないとしても、嫌だ。』
「先生……」
『勇間はここに居たくない?』
「違う…違うよ先生、居たいとか居たくないって話じゃ」
『居たくないのか?』
「…っ……」
そんなの…居たいに決まってる…
「居たいよ…けどっ…このままじゃ…っ!」
『勇間…もしかして、自分が一緒に居ると周りに迷惑が掛かるって思ってんのか?』
「っ…」
『そんな事考えてんじゃねぇよ!!』
また先生が怒鳴った。
これは怒りだ…
『お前は…っ…』
「ごめん…先生…」
『……もう良い……兎に角、俺は許さない。あの家に戻る事も、今のお前のその思考も…もう一度考え直せ。』
「………。」
そう言って先生はリビングから出て行った…
俺がこの考えを捨てない限り、先生は口を利いてくれないのだろうか。
先生を怒らせてしまった…泣かせてしまった…
俺は何をしても先生を困らせてしまう…そう思いながら小さく溜息を吐いた。
冷めきったコーヒーが喉を通り、胃へと広がる…
どこまでも冷たい…
どう伝えたら良かったのだろうか。
どう話したら正解だっただろうか。
素直に伝えて、先生なら許してくれると…勝手にそう思ってた。
俺は先生の気持ちなんて考えてなかった…決めつけていた…
でも今先生は、その事で怒っているんじゃない。
俺が、自分のせいで周りに迷惑が掛かってしまう…
そう思っていたからだ。
その思考が許せないんだ…
自分がしていた事を否定されたように感じたんだ…
「………。」
違う…違うよ…
このままみんなの優しさに甘えてたら…きっと、きっと俺は駄目な人間になってしまう。
それが許せない…
どうして伝わらないんだろう…どうして…
ゆっくりと先生の部屋の前へ向かう。
震える自分を落ち着かせるために、軽く深呼吸をしてドアをノックする。
「先生…」
返事は無い。
それでも話をしたくて…ゆっくりとドアを開けた。
「………。」
部屋の中が煙たい。
先生の煙草の匂いが強い…
その張本人は、別途の縁に腰を掛け項垂れている。
頭を掻き毟ったのだろう…いつも丁寧に纏められた髪はボサボサだ…
「先生…」
『………。』
ピクリと動いた指…
そのままゆっくりと口元へ運ばれ、煙草の先が強く光った。
溜息のように白い息を吐いた先生は…やっぱり俺を見ない…
ここまで怒った先生を見たことがなくて、部屋中に充満する圧に震えてしまう。
目の前まで歩き、腰を下ろす。
前髪で先生の瞳は見えない…
「先生、お願い…聞いて…?」
『……聞かねぇつってんだろ。』
「………。」
低く冷たく放たれた言葉が、鼓膜から入って頭と胸に響き渡る。
「先生が俺の事を大切に思ってくれてるのは知ってます…俺も同じくらい先生の事が大切……だから、俺の事…カイト君と速水君の事で悲しんだり…苦しそうになるのは嫌なんです。」
『黙れ…』
「……っ…俺、が…」
ポロポロと涙が溢れ出る。
怖い……けど、駄目なんだ…ちゃんと伝えなきゃ。
「俺が先生を支えたいんです…っ…でも、今の俺じゃ駄目なんです。」
『お前はそんな事しなくても』
「俺が嫌なんだ!!………先生に……先生に何も返せてない…それが嫌なんです…」
『………。』
先生とやっと目が合った。
驚いた顔のまま、俺を見つめ続ける先生。
その手にあった長い灰が、床へと落ちた…
それを横目に、そっと先生の頬に触れる。
「先生、俺はもっと強くなりたい…だからこそ、あの家に一人で戻ってみたいんだ。父さんは…もう居ないけど、でも今の俺には先生も居るし日下君も叶先生だって居る。」
『………。』
「あの家に戻って、また俺は昔みたいに戻ってしまうかもしれない…でも、もし戻ったとしてもちゃんと先生の所に帰って来る。今の自分の思考も全て、捨てたいから…だから…」
『……うん。』
「だから先生、俺が強くなれるまで待っててくれる?」
『………俺は…お前が居ない家に帰りたくない…』
落ち込むように俺を抱き締めながら、先生はそう言った。
何だろう…先生が可愛い…
ニヤけてしまう頬を何とか抑えながら、俺も抱き締め返した。
「大丈夫だよ…だって学校では会えるし。」
『………。』
「先生…」
『……。』
「先生、顔上げて…」
ゆっくりと先生の顔が上がった瞬間、触れるだけのキスをする。
再び驚いた顔の先生が、溶けるように笑った…
『ごめんな…怒鳴ったりして……』
「ちょっと怖かったです…でも、先生がどんなに俺が大切か…分かりました。」
『………。』
「ちゃんと連絡します…無理だったら戻って来ます。」
『うん…。』
先生が誰よりも大切だ。
だからこそ、今は自分自身と向き合いたい。
その為にはまず、過去の自分から払拭したい…
「先生…」
『ん?』
「大好き…」
『………うん、俺も大好きだよ。』
もし俺に何かあった時、真っ先に駆けつけてくれるのは先生だ。
でも、いつまでもその優しさに甘えてはならない。
俺は……僕には、まだ言えない事が溢れているから。
先生…
先生、大好き…愛してます。
だけどごめんね、あの家に戻ったら僕はもう戻れないかもしれない。
皆の知っている"俺"には…
先生の頭を抱えながら、僕は微笑んでみた…
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