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誰だって、嘘の一つや二つを吐いたことはあるだろう。
僕は他人より多かった……たったそれだけだ。
人が息を吸って吐くように、僕にはそれが日常だっただけで…
日常で…
逃げ道だっただけで…
〈何で貴方はいつもそうなの!?大体貴方はーーーーヒッ!いや、こっちに来ないで…やめて!殺さないで!!いやっ…いや!いやぁああああああああっ!!!あ゛っーーーーーー〉
それが…逃げ道だったんだから…
仕方ない事なんだ…
「ーーっ!」
目の前には見慣れた天井…
朝は随分と冷え込んでいた筈なのに、自分の身体は汗でしっとりしている。
気持ちの悪い夢を見た…
まるで…あの時の選択を後悔しているかのようだ。
そんな筈は無い。
僕はあの人を殺した事を後悔なんて…する訳が無いだろう。
「はぁ………」
汗で少し束になった前髪を掻き上げ、溜息を吐く。
次第に脈打つ心臓も落ち着きを取り戻し…息も通常になった。
冷たい初秋の風が心地良い…
「………。」
何で僕は…彼等に名を教えてしまったのだろう…
心を開いたとかそんな事では無い。
教えるつもりは無かった…
教えたくも無かった…のに…
口から出てしまった。
久し振りに自分の名前を名乗った。
彼方…
そう、僕は彼方。
倉沢勇間じゃない…
だからここでも愛されやしない。
誰にも愛されやしない。
惨めで…愚かな僕…
元々はちゃんと一人の人間だった…
思い出そうとしても…前の記憶は無くなっていった。
でも知っている…自分の身体は尚植物状態だと言う事を。
あの日…病室で見つけた。
いつになったら戻れるのか…
いつになったら会えるのか…
嗚呼、戻りたい…でも戻りたくない。
「………。」
ごめんね、勇間君…
もう少しだけ僕をここに…
きっとすぐ…すぐ終わるから。
でもその前に、君を苦しめる奴を消しておかないとね。
せめてものお礼として、ちゃんとやるからね…
嗚呼、駄目だ…
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ
絆されるな。
しっかりしろ。
僕は僕だ。
彼方なんて名前は無い。
違う。
「チッ…くそっ…!」
自分のペースを忘れるな。
自分の目的を忘れるな。
自分の存在を忘れるな。
誰にも邪魔はさせない。
誰にも止めさせやしない。
ずっとそう生きてきたんだ。
ずっと一人で生きてきたんだ。
味方なんて僕だけだ。
僕自身が唯一信じれるんだ。
時計を見るとまだ22時だった…
もう一度眠りにつこうと、横になると携帯が鳴った。
「あ゛ぁ………ほんっと…気持ち悪ぃ…」
吐き出した声はいつもより低くて、ガラガラ声で…
こんな声じゃ駄目か…
咳払いをしてから、電話を取った。
「もしもし。」
ー『あ、こんな時間に悪いな。』ー
「いえ、何か用ですか。」
ー『用…っていうか…まぁ、なんだ…』ー
「チッ……僕もう寝たいんです、早く言ってくれません?」
ー『悪い悪い…お前、高校の勉強にちょっと付いて来れねぇだろ?だから、明日ちょっと渡すもんがある。』ー
「………は?」
ー『馬鹿にしてる訳じゃ無いからな。俺達の予想だとお前は中学生くらいかなって思ってるんだ。』ー
それはまぁ…そうだけど…
僕にそんな事をする必要が無いだろ。
ましてや、自分の恋人を人質に取られてる様な立場の癖に…
お人好しだな…
「……分かった。」
ー『ん、じゃあそう言う事で…また明日な。』ー
「はい…」
電話を切り、また一つ息を吐いた…
正直な身体だ…
今は凄く落ち着いているし、安心している。
人に愛されるとこうも変わるものなのか…
最初は毛嫌いしてた癖に……なんて愚かなんだ。
愛だの恋だの、そんなの…一番裏切るものなのに…
馬鹿正直に受け止め、待っている方がどんなに辛くてどんなに報われなくて…
どんなに痛いか……
僕は知っている。
その全てを貰えなかったんだから…
どんなに渇望しても、ひと粒でさえも与えられなかった…
「………。」
朝から最悪だ。
勝手に腕に包帯が巻かれている。
僕はやっていない…きっと勇間だ…
余計な事を。
少し雑な巻き方を見るに、動揺したのだろう…
「はぁ……」
そっと包帯を解き、巻き直す。
何故僕がこんな事をしなければならないんだ…
自分の身体でさえも手当なんかしないのに…………他人の身体だから、か…?
それとも…あいつらに言われたから?
嗚呼、また思考が良くない方向に進み始めている。
軽く頭を振り、考えるのをやめた。
くだらない…
僕には関係無いだろ…
ー[本当は羨ましいんだろ、お前。]ー
違う
ー[自分には無い幸せを創り上げてく倉沢が、羨ましくて羨ましくて仕方ねぇんだろ。]ー
違う…っ
ー[お前がどんなに辛くても、倉沢は笑っている…それが堪らなく苦痛なんだろ。]ー
「違う!!!」
何かが割れる音がした…嗚呼…鏡が割れたんだ…
拳からは血が流れている。
歪に割れた鏡に自分が何人も映り込む。
その中の1つが哀しい顔をしている…
やめろ…
そんな目で…
そんな顔で…
僕を見るな…
僕を笑うな…
「「可哀想だね…君は…」」
五月蝿い…
僕は可哀想な人間なんかじゃない。
消えろ
消えろ!
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!!
何度も何度もそいつを殴る。
けれど"ソレ"は増えていくばかりで、余計にうざったい。
「「俺の世界を見てどうだった?」」
「は?」
「「羨ましかったでしょ。」」
「五月蝿い…」
「「優しくされて嬉しかったでしょ。」」
「五月蝿い。」
「「皆……暖かかったでしょ。」」
「五月蝿い…っ」
「「だからお願い…俺に返して…?」」
「五月蝿い!!!」
「「俺の居場所と君の居場所は違うんだよ…」」
鳴り止まない割れる音と言葉で、頭が割れるほど痛む…
僕が誰にも愛されないことなんて知っている。
だからこそ僕も周りを愛さない…愛したくもない。
大嫌いなんだ。
神様なんていないし…
嫌だと拒絶しても…
どんなに叫んでも…
助けなんて来ない。
僕は…
無責任な優しさも…
中途半端な優しさも…
何もかもが嫌いなんだ。
暖かさもいらない。
何もかも今更遅い。
「…………あ、そうだ。」
歪に微笑む勇間が映る。
コイツが創り上げた絆?
そんなもん知るか。
僕は僕。
コイツの好きな人とか大切な人なんてどーでもいいし…
僕はそんなの知らない、寧ろ大っっ嫌いだ。
壊してやる…
全部…
全部…
「あはははははははっ…!!!」
僕は大嫌いな人に嫌われるだけ…さぁ、君はどう思う?
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