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それぞれが帰りの支度を始める中、夢中になって遊んでいた俺達はペンキを落とす事に専念していた。
〔水性とは言え……こんなに濡れたらもう着れねぇよ…〕
「ジャージで帰るしか無いね。」
〔にしても、勇間があんなに悪戯っ子だとは…〕
「だから不可抗力だってば……ふふふっ」
視界に入る前髪にも、腕にも赤いペンキが着いている。
顔にも付いてるんだろうなぁ…と、思いつつ日下君を見る。
「ふっ…日下君、いっぱい着いてるね。」
〔そういう勇間だって人の事言えないくらい着いてるし。〕
「えっ嘘。」
顔に触れれば、水に濡れていた手はすぐ赤くなった。
ちょっとやそっとじゃないな…これ…
〔あ、俺部室のロッカーにタオル置いてるよ。取りに行ってくるわ!〕
「ん、分かった。」
走り去って行く日下君を見送り、俺は服に着いたペンキを落とす事に専念する。
洗えば落ちる…本当に便利だなぁ。
「………。」
ふ、と視線を感じて振り向く。
そこには先生が立っていた…
とても驚いた表情をしている。
『え、あ…け、怪我!?怪我したのか!?』
「ち、違うよ!ペンキ!ペンキだから!」
肩を掴みながら、俺の身体を揺する先生を止めた。
こんなに出血してたら立ってられないと思う…先生って焦ると常識を忘れるのかな…
『ペンキ……はぁ…ビックリした…』
「………。」
ふわりと、先生から香水の香りがする…
この香りは…昨日も嗅いだ……あの女生徒の香水だ。
途端に身体が熱くなっていく、それと逆に頭は覚めていった…
「先生は…何してるんですか?」
『ん?俺?俺は今、生徒の相談に乗ってる。』
「相…談…ですか。」
『そ、何か恋愛相談ってやつ。』
「………。」
相手はあの人ですか?
恋愛相談ってどんな内容なんですか?
一対一でしてるんですか?
様々な質問が頭の中で飛び交う。
問いたかったけれど、口からは出なかった。
『勇間?』
「帰りは遅くなりそうですか?」
『いや、直ぐに帰れると思う。』
「分かりました。体調の事もありますし、あんまり無理しないで下さいね。」
にこりと微笑み、赤く染まったシャツと向き合う。
今、俺の中にある感情も…
このペンキみたく流れて行けばいいのに…
強く擦ったらすぐに落ちればいいのに…
消えればいいのに…
『……じゃあ、またな。』
そう言って、先生は俺の頭を撫でて去って行った。
不思議と涙が溢れる…
先生…
あの子とどんな関係なんですか?
どうしてあんなに仲が良いんですか?
どうして拒否しないんですか?
何で…何も教えてくれないんですか…?
〔勇間?〕
「あ、日下君…」
〔そんなにシャツ擦ったら、ヨレちゃうよ。〕
「……うん。」
擦っていた手を止め、赤い水が流れていく様をぼーっと見つめる…
そんな俺を日下君は見つめたまま、微笑んだ。
〔先生と会話したの?〕
「うん…ちょっとだけ。」
〔そっか…〕
「今…あの女生徒の恋愛相談受けてるんだって。」
〔え…?〕
「………。」
そこまで話して、口を噤んだ。
日下君は乱雑に頭を掻き、溜め息を吐きながらその場にしゃがんだ。
〔何やってんだよあの人…〕
「…分かんない…」
〔勇間の変化に気付いてる癖に、恋愛相談受けるって頭おかしいでしょ…〕
声のトーンが低くて、何だか唸ってる様に聞こえる。
俺は何も言えない…
「先生にも、何か考えがあるんじゃないかな…それに最近色々あったから…」
〔………。〕
「やっと落ち着けるようになった訳だし…」
〔勇間はそれで良いの?〕
「………。」
手元のシャツを軽く握り締める。
良いわけが無い…
ずっとこの感情を抱えるなんて無理だ。
いつか絶対に溢れて…先生を困らせてしまう…
でも…俺には何も出来ない。
先生と生徒の立場上、口出し出来ない事もある。
それを認識しているから…余計に…
「はぁ……何か、疲れちゃうね…」
絞り出した声が震える。
水に晒された手が冷たくて…昨日を思い出す…
寒くて…動けなくて…
嗚呼………俺、今寂しいんだ。
〔勇間…〕
水を止め、日下君が俺の手を握る。
「日下君…俺、貪欲なのかも…」
〔………。〕
「凄く…寂しい…」
〔うん……〕
「寂しいんだ…」
微笑む俺とは逆に、日下君の表情は凄く苦しそうだ…
本当は俺がするべき顔なのかも知れない。
〔…絶対先生に謝らせる。〕
「ふふっ……そうだね。」
すっかり冷たくなった風が、窓から吹き込む。
冷えた筈の手は、少しだけ暖かい。
日下君…俺は…どうしたら良いんだろう…
[何やってんだお前ら。]
〔うわぁっ!かなちゃん!!〕
[…仲良く手ぇ繋ぎやがって。]
〔これは!違くて!〕
[まだ何も言ってねぇだろ。]
〔うぅ〜…〕
「………。」
[変な顔してんな。]
「ゔ…ひてないへふ…」
俺の頬を摘みながら笑う叶先生。
[…そういやアイツ見てねぇ?]
〔アイツ?〕
[真羅。]
〔あー…っと……〕
「先生なら今、相談室に居るんじゃないですかね。」
〔………。〕
[相談室?]
「悩める女の子の恋愛事情に耳を貸してるんですって。」
[トゲのある言い方だな…]
「いえいえ、そんな。」
微笑む俺を何だか怪訝な顔で見つめる叶先生…そんな叶先生に同情の目を向ける日下君。
濡れたシャツを絞り、窓の縁に掛ける。
「乾くかなぁ…やっぱりジャージで帰るべき?」
[アイツ怒ったら中々の顔するな…]
〔でっしょ!俺もそう思う…〕
「何ヒソヒソ話してるの。」
〔いや!なーんも!!〕
[……あんまり効果は無い感じか?]
〔そんな事無いと思うけど…でもまぁ、悪化はしてるって言うか…気付いてない?みたいな。〕
[………。]
「このまま気付かなくても良いけどね…」
ポツリと呟いた言葉を聞いた二人は、また顔を歪ませた。
そんなに今酷い顔をしてるのだろうか…?
「日下君はもう良いの?」
〔ん?〕
「シャツ。」
〔袋に入れて持って帰るよ。〕
「そっか、俺もそうしようかな…乾く気配無いし。」
[倉沢。]
「はい?」
[…まかり間違っても、道は踏み外すなよ。]
「…?」
少し心配そうにしながら叶先生は去って行った。
言ってる意味が少し分からない…
道を踏み外す?
どういう意味だろう…
〔なんか今の勇間は、危なっかしい気配でもするんじゃない?〕
「………。」
〔何かあったら連絡してきて良いからね、時間とかも気にせずに。〕
「うん…ありがとう、日下君。」
にこやかに笑った日下君と校門で別れ、一人帰路に着く。
空を見れば雲行きが怪しくなっていて…今日もまた雨が降るのか。
折りたたみは持ってるけど、早く帰らなきゃ。
洗濯物もあるし…そう思い歩を早めた。
〈勇間………可愛い勇間……〉
今日は何を作ろうかな…
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